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レット14 五十三番地の占い師

 レットの素性はヒュムが知っている。

 更にイルナとミアが知り合いであることを告げると、ヒュムはあっさりとレットとイルナを五十三番地に案内してくれた。


 五十三番地は、ラグォル通り沿いに立つ建物と建物の隙間にあった。

 石造りの壁に四方を囲まれた、小さな中庭のような場所だった。

 しかしラグォル通りに面している建物以外はさほど高さがないため、陽光が充分に届いており、陽の当たっている場所はほんのりと暖かい。


 ラグォル通りから、とりわけ古びた石造りの建物へと入るとそこは薄暗く細い廊下で、向かい側に小さな木戸があった。


 背を屈めてその扉をくぐったその正面に、椅子に腰掛けたひとりの女性はいた。


 薄布は被っていない。

 閉じられた両瞼の下の瞳が何色なのかはわからないけれど、地面に届くほど長いその髪は、染める前のイルナと同じ漆黒だ。

 対比のせいか、透けるほど白い肌が際立ち、レットはその女性の体が心配になる。


「ミア!」


 レットの横から一歩を踏み出し、イルナが呼びかけた。


「イルナ……。やっぱり、貴方は来てしまったのね」


 さらさらと髪を揺らし、ゆっくりと立ち上がりながらミアが言った。

 来てしまった――その言い方は、まるで来てはいけなかったのだと言っているように聞こえる。


「逃げ道を教えてくれたのはミアじゃない」

「ええ、そうよ。だからこそ、これがどれだけ大変なことかわかるの」

「それに、今のわたしには恩人捜しっていう立派な目的があるのよ。あと一回きりのこの能力をホークさまために使うの」

「ホークさま……」


 ミアがその名を繰り返す。イルナが溺れた時のことは、ミアも知っているのだろう。


「そう。だから居場所を占ってほしいの!」

「恩返しというのは素晴らしいことです。けれど貴方は知らないことが多すぎる」

「……どういうこと?」


 悲しそうに表情を曇らせるミアに、イルナは不安そうな目を向けた。


「でも、そう。今は再会を喜びましょう。よく来たわね、イルナ」


 ミアがゆっくりと両手を広げる。 


「ミア!」


 不安を振り切るように駆け出したイルナが、ミアに勢いよく抱きつく。その背中を、ミアが優しく何度も撫でる。


「彼女、古い知り合いが自分を訪ねて来るってわかってたみたいだぞ」


 抱擁を交わすふたりの様子を、レットの隣に立って見ていたヒュムが告げる。


「占いで?」

「さあ。そこら辺はわからないけど、数日前からもしそういう人が来たら五十三番地に通してほしいって頼まれてたんだ。まさかおまえが連れて来るとは思わなかったけどな」

「俺も、まさかこんなことになるとは思わなかったよ」


 ニール村に向かう前のことを思い出し、レットは苦笑する。


「ま、色々あるだろうけど、がんばれよ。あの子、めちゃくちゃ可愛いもんな。上手くやれよ」


 ヒュムはにやっと笑うと、じゃ、と片手を上げて廊下へと戻ってゆく。


「あ、ヒュム……」


 そういうんじゃない、と言う前に、ヒュムの背中は扉の向こうへと消えていた。

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