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Birds ver0.01  作者: かさのきず
ver0.02
7/7

シーン数不明。タイトル『クライマックス』

ネタバレもネタバレの、書き直しのためにクライマックスから先に書いてます。

「行ってこいよ。『GO!』だ」

 アキラはそう言って、僕の背中を叩いた。

 意外と強いアキラの力によろけてしまった僕は、それでもそのまま走り出す。

 迷いはなくなったわけじゃない。たぶん、このまま走り続けることを後悔してしまう日もあるだろう。

 でも、僕は今、叫びたい。

「樹!」

 アキラが後ろで叫んでいる。

「歌うのは好きか?」

 そんな今さらなことを。と僕は思いながらも、叫び返さずにいられるわけがない。

「愛してるぜ!」

 振り返ると、親指を立てて笑うアキラがいた。

 そうだ、僕は愛してる。

 僕自身が歌うことも、アキラの歌も、小向のことも。

 愛してる。そう叫びたい。

 その言葉自体は、誰かの借りものだって、今叫びたい気持ちは紛れもなく、僕自身の気持ちだから。

 クソうるさい息が、絶え間なく口から漏れる。息なんてもうとっくにきれている。死ぬほど苦しい。というか、死にそう。

 なのに、休もうだなんて思えなかった。たとえこの瞬間に心臓が止まってしまったとしても、きっと僕の足は動き続けるだろう。僕の口は彼女へ叫び続けるだろう。僕の手は彼女を求め続けるだろう。

 つまりは、僕は無敵だ。

 頭がくらくらしてきた。なのに、不思議な力がどこからか湧いてきているのを感じる。

 ポケットから音楽プレイヤーを取り出して、君へのラブソングにどれがいいのか考え出す。

 いや、選ぶ必要なんてない。

 僕が君を想って歌う歌。そのすべてが君へのラブソングなんだ。

 音楽プレイヤーの一番最初の曲を選択する。

 お気に入りの一番上のその歌は、『ファイティングバード』だった。



 その場所に君はいた。

 僕を見て目を大きく開いている。

 そしてその目が、僕を責めるように怒った時の君のそれに変わる。

「どうして来たんだよ!」

 相変わらずの男口調の小向の言葉に、僕は思わず安心して笑みを浮かべる。

 心臓が痛いくらいにうるさいのは、さっきまで走っていたからか、それともこれから君へ歌うことに緊張しているからか。

 小向の眉がさらに釣りあがるのを見ながら、僕は必死に息を整える。

「俺のことなんて放っておけよ!」

 放っておけるわけないだろう!

 そう叫びたい気持ちはしかし、肺に空気が足りなくて出てこなかった。

 でも、それでいい。

 言葉だけじゃ足りない。もっとそれ以上に僕は彼女に自分の気持ちを伝えたい。

 だから、MCを入れるくらいなら僕は歌おう。

 音楽プレイヤーからイヤホンを引き抜く。マイクとベースが欲しい。ないものは仕方ないんだろうけど、そうすればもっと君へ、この気持ちを伝えられるのに。

 まだ整ってない息で歌う歌は、とても不恰好で、自分でも笑ってしまいたくなるくらいに下手くそな歌。

 でも、その詩にメロディに込められた気持ちは借りものでも、紛れもなく僕の気持ちだ。

 一曲目が終わって、次の曲へ移ろうとしたところで、小向が叫んだ。

「バカじゃねえの!」

 僕の気持ちは届かなかった。とは全く思わなかった。

 伝わっているはずだ。

 たしかに僕は、君への言葉を自分で考えられるほど、器用じゃないんだろう。歌詞なんてどっかで聞いた言葉の継ぎはぎにしかできないし、作曲なんてしようと思ったことすらない。

 でも、僕にはこの歌がある。

 こんなに苦しんだ。こんなに悲しんだ。こんなに嬉しいんだ。君を想うことは。

 僕が君へ向ける感情。その全てを僕は歌おう。

 二曲目が終わる。

 君は俯いたままだ。

 三曲目が終わる。

 君は俯いたままだ。

 四曲目も、五曲目も終わる。

 君は俯いたままだ。

 それでも歌い続ける。

 君は俯いたままだ。

 歌ってやるとも。

 君は俯いたままだ。

 喉が枯れてきた。

 君は俯いたままだ。

 声が出なくなり始めた時、嫌な想像が頭をよぎる。

 君は俯いたままだ。

 もう二度と歌えなくなるのではないか。

 君は俯いたままだ。

 僕は歌いながら笑った。

 君は俯いたままだ。

 でも歌うことをやめたくない。

 君は俯いたままだ。

 だって、こんなにも、君を想って歌うことが愛おしいのだから。

 涙が地面にこぼれる。

 僕の両目から、そして君の両目からも。

 歌に君の声が混じる。

 僕の枯れかけた声と、君の下手くそな声。

 もう、言葉も、ましてやスキンシップなんて僕らの間にはいらない。

 ただ、歌があればいい。

 たとえ僕らが借りものだとしても構わない。

 だって、今歌ってる歌は紛れもなく僕らの歌だ。

重要なシーンから先に書いていくつもりです。

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