シーン5
忙しい日を過ぎたので、また投稿開始というか、執筆開始。
アンプが吐き出した自分の音に、僕は上機嫌になることを隠さずに声をあげる。
誰かに助けてほしいと思うこともある。
それでも俺は強い嘘を吐き続ける。
ファイティングバードの「強がり」。
アキラにしては珍しく、弱みを見せるような曲だ。
実はこの曲、アキラが歌詞をつけてなくて、その相方とも呼ばれているハルカというリズムギターの女性が、アキラのことを考えて言葉を選んだとのこと。
アキラの私しか知らない、本当の姿。なんて事をMCで言っていたという話もある。
それだけに、アキラは恥ずかしがってあまりこの曲を歌わなかったりする。
僕にとってアキラはヒーローで、そのヒーローが弱音を吐くのは嫌だったけど、そんな弱みもある人間が、それでもヒーローであり続けたいと思うっていうのは、僕もそういう気持ちでとても共感できる。
それをただの強がりと笑われても。
ふと、横から声が聞こえた。
その声に驚いて僕はベースを弾く手を止めてしまう。
スピーカーからはアキラの声が今も流れ続けているそれは、放課後の音楽室でやけに空しく聞こえた。
常設されているのがピアノだけのわりに結構大きな音楽室には今、僕と先ほど声をかけてきた、同級生で同じバンドメンバーの彼女しかいなかった。
「ごめん、邪魔しちゃったかな?」
にっこりと微笑みを顔に浮かべて彼女は言う。
僕はどう反応すればいいのかちょっと悩んで、何も言えなかった。
というのも、彼女――陽 緩奈はバンドメンバーの一人で、今日は一緒に練習しようと決めていたのに、もう授業が終わってから一時間以上も経っているからで、遅刻した彼女にそんなことを言われて、怒ればいいのか、それともそのまま軽く許してしまっちゃったほうがいいのか、僕にはわからない。
そんな沈黙を、僕が怒っているのと解釈したのか、緩奈は途端に気まずげに言った。
「ごめんなさい」
謝られたところで、どうすればいいのか悩んでいるのは変わらない。
ついさっきまで気持ちよく歌っていたことが、遠い出来事になってしまったように、不機嫌になっていく自分の心を感じていた。
「他の人は?」
ぶっきらぼうにならないように気をつけながら言った言葉は、それなのにやけにぶっきらぼうに聞こえて、ますます自分が嫌になる。
こんなちっぽけな怒りを隠せないような人間が、アキラみたいに不安や恐れ、すべてを隠したヒーローになれたりはしない。
僕は笑顔を浮かべて、彼女にできているのかわからない怒ってないというアピールをしていた。
その笑顔が効いたのか、それとも元々緩奈が言ってくれるつもりだったのだろうか、彼女は言ってくれた。
「軽音部、やめるって」
「そうか」
僕は努めて軽く言う。
そうでもしないと割り切れなかった。
中々来ないメンバーに、半ば予想していた答えのはずなのに、その言葉に思っていたよりも深く傷ついていた。
「ごめん、俺、厳しすぎたよな?」
たぶん、その原因が僕自身にあるからで、そのことを少なくともここに来てくれた彼女に謝っておくべきだと思った。
「ううん、そんなことない」
そんな風に彼女は言ってくれるが、初めてバンドを組む。そしてそのリーダーになる。ということに僕は気負いすぎていたんだ。
立っていることすら億劫になって、僕はベースを置いてその場に座った。
「大丈夫?」
緩奈は優しくそう言ってくれるが、肝心の僕はそれに返事をする気力もなかった。
ただ、今もスピーカーから流れている「強がり」を目を閉じて聞いていた。
アキラにもそういう時はあったのだろうか。ふと、そんなことを考える。
たぶん、あったんだろう。
いくつかのバンドを渡り歩いてきたと、どこかの取材で答えていた。
そのたびに、こんな無力感を味わっていたに違いない。
それでも俺は強い嘘を吐き続ける。
その詩を聞いて、僕は遠いアキラの背中の幻を見た。
やっぱり、僕にはアキラみたいになるなんて無理だったんだ。そう、言ってしまいたくなる。
それなのに、それだけは言いたくないと叫んでいる僕もいる。
そんな僕に、言いたくなる。
きっと、否定している自分の方が強いぞ。今は退けられてもこの先、事あるごとに思い出すことになるだろう。止めるなら今だ、って。
そして、スピーカーから流れている「強がり」が終わりに近づいてきたとき、僕は決めていた。
ファイティングバードの「強がり」その最後のフレーズは、
強がりでもいい。お前が笑えるのなら。
アキラが歌う、そのお前とは誰なのだろうか?
僕はここだけ、アキラが後から付け足したんじゃないかと思っている。「お前」なんて言葉はここまでのどこにも入っていなかったし、メロディだってここの部分だけちょっと不自然だ。
ハルカのために強がっているんだと、アキラは伝えたかったのかもしれない。
アキラはハルカのために強がることを選んだ。じゃあ僕は? 何のために強がっていたんだ?
スピーカーに繋がれた音楽プレイヤーに手を伸ばす。これ以上は、さらに言えばそのフレーズだけは聴きたくなかった。
もう、僕は強がるのをやめよう。。
タイトルにバージョンを追加してみました。
そしてこれまでのあんまりな出来に対して、これはプロットだから仕方ないという言い訳を敢行。
おかげで本当に長編になりそうな予感。
余計なヒロインキャラまで増やしちゃったし。
ハーレムものとか書けるような気がしないんだよなー。