シーン3
短いけど、前回変なところで切っちゃったし……仕方ないですよね? うん。
我が目を疑うって言うのはこういう事を言うのか。と、僕は目をこすりながら思った。
できることならこれが幻覚で、彼女は普通に橋の上を歩いているとかだったらよかったんだけど、こすった目をさらに叩いてみても痛いだけで、彼女は橋の欄干を乗り越えた態勢で息を整えていた。飛び降りるタイミングを計っているかのように。
「いやいやちょっと待てよ……」
呆然とそんなことを呟いてみるが、冷静になって考えてみよう。
冷静になって考えてみると、冷静になって考えてる暇じゃない。
結論は出た。つまりはクールに考えるんじゃなくて、ホットに考えればいいんだ。
そのホットな考えで言えば、これは……。
「走るっきゃなくね?」
言うや否や僕は駆け出す。
幸いと言うべきか、途中でうだうだ悩んで歩みが遅かったおかげで、彼女が乗り出している橋の中央付近まではそう離れていない。
問題は、僕が歌うことは好きだけど、それ以外の運動はそれほど好きじゃないってことだ。つまり体育とかでしか走ったりしないから、足は遅いってこと。
彼女を見ると、そう長いことその場に留まっているつもりはなさそうだ。
そうなると、冷静に考えれば何か引き留めるような言葉を……だから冷静に考えてる暇じゃないんだから、ホットに考えて……。
そう、ホットに考えれば、伝えることはただ一つ。
「好きだぁあああああああああああ!」
彼女がこちらを向き、呆然とした顔をした。しかし直後に、焦ったような表情に変わる。
乗り出していた彼女の手が、欄干から外れていた。
今にも飛び降りそうになっていた彼女が手を離したのだから、当然体は橋の外。つまりは結構幅の大きな川のほうへと落ちていく。
そんな光景を、不思議とスローモーションのようになった視界で僕は見ていた。
もう間に合わない。彼女は川へ身を投げ出してしまったのだ。僕のやれることはない。
そう、クールに考えればわかる。
でも今、僕はホットに考えている。
足は止めなずに、彼女が落ちてしまったその真上へと駆け抜けて、僕は飛んだ。
欄干を飛び越すなんてできる気がしなかったけど、意外とできるもんだ。
そして宙に浮かんだ瞬間に、遊園地のフリーフォールなんかで感じる浮遊感が体を襲って、反射的に目を閉じそうになるのを何とか堪えて、やっと彼女の手を掴んだ。
もう足は地面に着いていないから、橋には戻れない。
「これ死んだかも」
ものすごい勢いで迫ってくる水面を見て、ホットな思考からようやくクールに戻った僕は呟いた。
それでもホットな心は残っていたのか、映画とかではよく見るけど実際に役に立つのかわからない人間クッションにでもなろうと、彼女の身体を引き寄せていた。
柔らかい感触が腕の中にある。それは意外と心地がいいもので、不思議と安らかな気持ちになった。
もう、これで死んでもいい。いや、やっぱり心残りが一つだけあった。
「好きだ。付き合ってください」
聞いている暇ないだろうけど、そんなバカなことを彼女に言いながら僕は川に落ちた。
明日も書こう。
ホットな思考で考えると片思いってロマンティックだけど、クールな思考で考えるとストーカーだよね。