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Birds ver0.01  作者: かさのきず
ver0.01
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シーン2

 いつもより、空が高いなぁ。

 高校の帰り道の途中には幅の大きな川がある。

 その上に架かっている幅の大きな川の割には小さな橋は、今日もその古くなったコンクリートの身体を晒していた。

 そんな小さな橋を僕は渡りながら、ふとそんなことを考えてしまった自分に思わず吹き出してしまう。

 自分でもわかるくらいにご機嫌だ。

 それもこれも、全ては中学の頃に姉さんに連れていかれたライブに衝撃を受けて、音楽をやろうと思ったのは良いものの、僕の通っていた中学には軽音部のようなものはなく、新しく作るにも、そういうことを一緒にやってくれる友達がいなかったために、バンド活動はできなかったのだ。

 精々、ベースを持ってカラオケに行って練習する程度しかできなかった頃のことを思い出して、僕は空を見上げる。

 青空がどこまでも広がっていた。

 そうだ、「いつもより高い空」は、ファイティングバードの「青空」だ。

 メジャー一歩手前まで来ているものの、ファイティングバードはカラオケなんかには登録されていなくて、スピーカーやら用意して歌うくらいしかできなかった。

 しかし、高校生になった今、早速軽音部に入部届を出して、同じ学年でバンドを組むことになって、それで今までの練習のおかげでベース&ボーカルの地位を手に入れたのだ。

 これで機嫌がよくならないわけがない。

 最初はファイティングバードのアキラと同じく、ギター&ボーカルにしようかとも思ったけど、父親の持っていたのがベースだったということもあって、ベースの練習しかできなかった僕には新しく、アキラと一緒にツインボーカルで演奏するという夢も生まれた。

 とはいえ、これはまだ始まりに過ぎない。ここからが大変なんだ。

 ここはさっき思い浮かんだ「青空」でも聞きながら、気合を入れ直すとでもしよう。

 そう考えて、ポケットの中に入れた音楽プレイヤーを取り出したが、なかなか「青空」は見つからない。

 もしかしたらメモリーに入れてなかったのかもしれない……いや、ファイティングバードの曲は好きだから、全部入れていると思ったんだけど……。

 そうして曲を探しているうちに、僕はいつの間にか橋の中央付近まで来ていた。

「あ」

 軽い衝撃を受けて、手から音楽プレイヤーが抜け落ちる。

 地面に落ちたプレイヤーから僕のかけていたイヤホンのコードが抜けて、外部スピーカーが動き出す。「青空」だ。

 そんなことよりも、と僕は思い直す。

 さっきの軽い衝撃は誰かにぶつかってしまったようだ。

 目を向ければ、尻餅をついている女の子の姿があった。

 白いワンピースを着た、綺麗な女の子だった。

 僕と同じ年ぐらいだろうか、制服を着てはいないが、たぶん大きく外れてはいないと思う。

 そうして彼女を見ていると、彼女も僕を見る。

 その上目遣いの視線にドキリ、と心臓が跳ねたような気がした。

「あの……」

 何か言おうと、僕が口を開きかけた時だった。

「んだよテメェ、前見て歩けよ!」

 最初の一言は怒鳴り声。

 もちろん、僕が怒鳴ったわけではなく、目の前の綺麗な女の子の口から発せられた言葉。

「はあ?」

 そう思わず呟いてしまうのもしょうがないと思う。

 目の前の彼女の容姿と、その言葉遣いとでは想像と現実のギャップが激しすぎた。

 いや、さすがにどこぞのお嬢様だとかそういった感じを予想と言うか期待していたわけじゃない。ただ、それでもなんというか、残念だった。

「はあ? じゃねえだろう、お前」

 そして着き飛ばしておいてそんな反応をしていたら当然と言えば当然、彼女は怒っている様子だ。

「あー、ごめん。ちょっと予想外だったから」

 とりあえず謝る。

「なにが予想外だよ。なんだ? 女がこういう口の利き方すんなってか?」

「いやいや、そういう意味じゃなくて……」

 そんなに可愛い外見なのにもったいないと思っただけです。なんて言えるわけもなく、僕が言い訳をしていると、彼女は未だに外部スピーカーで「青空」を流し続ける音楽プレイヤーをちらりと見た。

「これ見ながら歩いてたんだな?」

「ごめん」

「ごめんで済んだら警察はいらねえんだよ」

 どこの小学生だ、とツッコんでしまいたくなるようなことを言いだし、彼女は音楽プレイヤーのほうへ足を向けた。

 まさか踏みつけて壊したりするつもりなのだろうかと、ひやひやしたが、何のことはなく、彼女はそれを拾って僕に差し出す。

「良い曲だな」

 ニヤリと笑う彼女。最初に見た時の儚げな印象とはまるで違ったが、何故か心臓がまたドキリと跳ねた気がした。

「あ、ありがとう」

 音楽プレイヤーを受け取るときに、手が軽く触れた。そのことだけでも、何か特別なことのように感じて、顔が熱くなる。

「気をつけろよ」

 しかし、良かったのか悪かったのか、彼女は僕のそんな様子には気づいてないようで、そのまま背を向けて歩き出した。

 僕もぼうっとしているわけにはいかず、そのまま家に向かって歩き出す。

 手の中の音楽プレイヤーは、いつもより重く感じて、その時点で僕はこのまま「青空」を聞く気がなくなっていることに気付く。

 せめて名前だけでも聞けばよかった。

 ここで会うということは、彼女は近くに住んでいるのだろう。だったら、もしかしたらもしかして、同じ高校だということもあり得る。

 恋は人を強くする。なんて言葉もあるけど、やっぱり恋愛経験は音楽をやる以上、少なくない経験値となる。とかなんとか心の中で言い訳するが、とどのつまり、彼女に僕は惚れてしまっていた。

 音楽プレイヤーの画面を再び覗く。

 「青空」の次のトラックは「GO!」だった。

「よしっ」

 ひと声気合を入れて、僕は後ろを振り返った。

 彼女は、橋の欄干に手をかけて今にも飛び降りる体勢になっていた。


予約投稿はここまで。続きはまた明日の夜から書きます。

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