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盗賊と砦4

 ゆっくりと優雅に黒馬を横座りに乗りこなしている女の格好をした男を先頭に盗賊団は森の中を進む。黒馬の首と、集団の一番後ろの馬車にはモンスター避けが焚かれているので途中で襲われる事もない。

 頭領のロディルはマザーの馬のすぐ後で愛馬に乗りながら、その背中を見つめていた。


「ロディルさん、本当に大丈夫なんですか?いつもならもっと下調べとかするじゃないっすか」


 国境という事もあり、普段ならば兵士たちや商人たちの動きなども下調べをしていた。基本は皆で生きて帰ろう精神の盗賊団で、ロディルが幼い頃から一緒にいた面子しかいないのもあり、慎重さに置いてはかなり厳しいラインを敷いている。


「あー、大丈夫だろ?多分その下調べをして斥候と露払いまでしてくれてんだ。嘘にしても最初に金貨二枚とか出してんだろ?情報屋が確信を持って砦が落とせるって言ってんだ。問題ねぇよ」


 こちらの会話が聞こえているのか、目の前の男はふふっと笑みを溢す。


「お、おい!上見ろよ!」


 ポツリと後方から声が上がる。

 上を見上げると、空に白い煙が上がっていた。火事にしては白すぎる煙りに何かのモンスターか、と何人かが身構える。

 時折、ボンッと音が立つが、マザーは気にする様子も無く道を進み、ロディルたちは軽く顔を見合わせながらもその後ろを付いていく。

 そして、砦の外壁が少しだけ見える位置まで辿り着いた。

 砦からその煙は上がっていた。

 否、覆われていた。


「マーマ、もう良いの?」


 頭上から声がした。

 幼い少女の声だ。


「いーわよ、合図送って」


 ぴゅーいぴゅーいと指笛が鳴る。それは近くにあった大木の上から響いてきた。

 三度目の指笛の後に、ザザザッとそれは落ちてきた。

 両サイドに団子を結った黒髪の小柄な少女だった。動物的なまん丸の目が喜色を浮かべながらマザーを迎える。

 黒馬からマザーが降りると少女はその腰に飛び付いた。微笑みながら彼女の頭をぐりぐりと強く撫で、その頬っぺたを両手に包む。


「お疲れ様、鈴玉」


 優しくなったマザーの眼差しに、何故か見惚れる盗賊の一員の頭を叩きながらロディルも馬から降りた。

 白に染まった眼前はゆっくりと風に吹かれるままに徐々に砦の姿を露わにする。いつの日か見た砦の様子とは違い見張り役の姿が無い事に気付く、木で作られている門に扉は無く、障害は何一つ無い。

 ザッザッザッと走り寄る足音が聞こえて来たのはその時だった。後ろにいた数人が剣を抜く音が聞こえる。


「柄を直すのに必要なお金はスヴィが弁償するべきですわ!」


「アンが避けられなかったのが悪い」


 二人の少女の姦しい声が聞こえ、マザーの腰にいた鈴玉がそろりと抱き付いていた手を離した。


「アンタたち、また喧嘩して!!仕事中は控えなさいと言ったでしょう!!」


 ゴンッ、ゴンッ

 呆気に取られる盗賊の前で、アンジェラとスヴィトラーナの頭にマザーの握った拳が振り下ろされ、良い音が響いた。


 白煙が全て無くなった。

 その場には蹲り痛みに脂汗を流す者、気を失ったままの者、立っている人間はいない。

 籠城すべく建物の中に集まっているのかもしれないが、一介の練習止まりの兵士たちと命懸けの戦いを繰り広げてきた盗賊たちでは余りにも差があるだろう。

 ロディルはちらりとだけ砦の内部を見ると周囲にいた男たちに細かく指示を出し、土下座している二人の少女と、アハハと木に寄りかかる少女と仁王立ちしているマザーの元に残った。


「間違えて誤爆したスヴィトラーナも悪いし、避けられなかったアンジェラも悪い!なのでスヴィトラーナ!アンタ、修理代の半分持ちなさい!アンジェラもそれで良いわね!分かったらお返事!」


「「はいっ!」」


 子持ちと言っていたが本当に娘がいるとは思わなかった。三人とも確実に血の繋がりは感じないが、三人共が見目が良い。

 砦の兵士たちを目眩まし込みとはいえ、戦闘不能にさせているのだから王都にいる人攫いなんかには負けなそうだが奴らが見たら涎を出して喜びそうだな、と思いながらロディルはマザーの乗っていた馬を持ってきた馬車に繋ぐ。


「おい、よお。もうそろそろ良いか?明日、王都に入るならちょっとは寝ないと不味いんじゃないか?」


 ロディルの言葉にマザーは少しだけ肩を竦め、娘たちに馬車の中に入るように言う。

 行きの荷馬車と違い、屋根があり毛皮が敷かれ食べ物が置かれている馬車に彼女たちの喜びの声が上がった。


「ごめんねぇ、うちの娘たち五月蝿くって」


「元気で良い事じゃねぇか、それにしても、だ。砦どうすんだこれ」


 ぽんぽんと馬の顔を撫で付けながらロディルは顎で指す。


「あら?使わないの?」


「中の物はありがてぇがな。こんな目立って仕方無ぇもん使えるかよ。俺の名前を教えた奴は言ってなかったか?目立つのは嫌いそうだって」


 蛇の道は蛇だ。

 自分の名を知っているゴロツキや、王都にいるそれこそマフィア関係なんかはお互いに警戒している所為で知り合っているのだ。


「そうねー、だから密輸とか書類上には存在しない物ばかり狙うんだものね。そんなにあっちの王国がお嫌い?知っていたんでしょ?この砦が盗賊の砦じゃないって」


「は。」


「貴方、頭良さそうだし気付いていたんだろうなって思ったのよ。只、仲間思いなロディルさんはリスクを負いたくないのだろうって思って此処までサービスしてあげたのよ?」


「あー・・・呼び捨てで良い。あんたも随分頭が良いというか何だよ、その情報」


「情報屋が種をバラすと思って?」


 ふふっと笑いながらマザーは馬車へと乗り込んだ。

 ロディルは姦しい声に負けずに声を張る。


「で?最善を教えてくれよ、マザー!王都に獲物を売りに行くのにちゃんと顔が利くようにしてる人間ってのは俺なんだよ!初回無料サービスで少しは案内もするぜ」


 ひょこっと若干驚いた顔をした彼が顔を見せる。


「盗賊の長本人が運び屋してんの?何それウケる!建物内にいる兵士姿の男を数人、気絶させて放置させなさいな。あとは死体と適当にそこら辺に転がしておいて、砦は燃やしてー。そうしたら勝手に盗賊に襲われて燃やされましたーって報告しに自国に帰るわよ」


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