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二日酔いにはキツい訪問者2

 マジックミラーになっている筈の鏡を睨みつけているのは白銀色の髪が腰まであるグレイの瞳を持った冷たい表情だが綺麗な顔立ちの少女だった。両方の手を後ろに回し、軍人のように直立不動でこちらを睨んでいる。

 幼い顔の雰囲気で一応は少女だと判断できるが、背の高く大柄な彼女により鏡は半分以上遮られ中の様子は分からない。

 長袖のワンピースは膝下まで伸び、編み上げの革のブーツにより足は隠されている。


「これ、見えてないんだよな・・・」


 アレクシスの戸惑いに満ちた言葉に、リークが自信なさ気に首を傾げる。


「多分・・・」


 応接室の隣にある隠し部屋に入り、亡命者だという彼らの姿を確認しようと思った矢先に、これだ。


『何を気にしていまして、脳筋女。淑女たるもの、黙ってお座りなさいな』


 ふっと睨んでいた少女が後ろを振り返った。

 ようやく見えた隙間から腕を組み仁王立ちした美少女の姿があった。帝国人らしい黄金のウェーブの入った髪に吊り上がり気味の赤い瞳は、白銀色の髪の少女を睨んでいる。

 シンプルな生成りのドレスから開いた胸元には綺麗な谷間が見え、気の強そうな印象と合間って深紅の豪華なドレスを着せて高笑いをさせたい気にもなる。


『ふん、マーチの姿を隠れて見ようとする輩がいるのに黙って座っていられるか。この高慢女が。胸ばかりが育って』


『マムの美しい姿は見せてこそでしてよ?何を仰っているのか理解に苦しむわ、この野蛮人が。筋肉ばかりが育ってましてよ』


「・・・貴族の御令嬢と男勝りな軍人の娘」


「おい、笑うから止めろ」


「それにしてもこんな美少女同士の口喧嘩はあまり見たいものではないですね」


「まあ、もう鏡の仕掛けがバレてるんだ。ご挨拶と行こうじゃないか」


 リークの肩をポンと叩き、手を振りながらアレクシスは隠し部屋の出口へと向かう。



 白磁のような透明感のある肌と、対するような濡れたような漆黒の髪は複雑に赤い飾り紐と共に編まれ腰まで艶やかに流れる。切れ長の紫の瞳の目尻には赤い紅がぼかしながらも染められており、妖艶さが際立つ。

 身に纏う黒の薄い布地で出来たロングドレスに入ったスリットからレース模様の高いヒールのニーハイブーツが覗いた。

 胸部から腰に向けては編み上げのコルセットで締められ淑女が見たら羨望の眼差しを送るであろう細いウエストが見参する。


 それは、それは、美しい『男性』だった。


「あらあらまあまあ、エディット様に良く似てらしてるわね。息子さん?良くできた息子がいるんだっていうのはむかーしに聞いていたけど。確かに聡明そうだわ。髪や輪郭は亡くなったお母様に似てるわねぇ」


 アレクシスが驚きながらも平常心を装い、目の前のソファに座ってからその人物はポンポンとひっきりなしにハスキーな声で台詞を吐き出し続ける。

 若干、掠れ気味な声は色気があると言っても良いのかもしれない。

 背後に立ったリークも若干、戸惑っているのかアレクシスだけが分かる誤魔化し笑い浮かべ続けている。

 白銀髪の少女はビシッとソファの背後に警戒するように立ち、金髪の少女はいつの間に出されていたのか紅茶の入ったカップに優雅に唇を付けていた。


「今はお父様の下で働いているのかしら?本当、御免なさいねぇ。亡命とか初めてみたいだから色々と面倒かけちゃいそうで」


 そこまで話した所で、くいくいっと『彼?』の服が引っ張られる。


「マーマよ、マーマ。このお兄さん、とても驚嘆してるよ」


 声の方を見ると、黒い髪を持ち両サイドにお団子を作ったふんわりとした雰囲気の可愛らしい黒目の小柄な少女が服の端を持ち、にぱっと笑みを浮かべていた。

 藍色の光沢のある異国のゆったりとした長袖の民族着に膝下までの黒いズボンを履いている。


「あら?御免なさいねぇ。悪い癖だわ!で、お父様は?」


 まるで久々に会った親戚のご婦人のようだな、と思いながらアレクシスは彼の疑問に答える。


「今こちらに向かっていますが・・・その、父とは何処でお会いになったのか聞いてもよろしいでしょうか?」


「あら『亡命』した理由を聞かないの?」


 彼は少しばかり悪戯そうな微笑を浮かべ、金髪の少女の様に綺麗な所作で紅茶のカップを持ち上げた。


「それは父が来てからに致しましょう。二度手間は好みませんので・・・と、それとそこのお嬢さんも座って下さい。折角の紅茶が冷めてしまいますよ」


 『母』と呼ばれている彼と、他の二人の座るソファの背後に立ち、鋭い目をしている彼女に声をかけると、彼女はちらりと部屋の鏡と天井の一角に目をやり、口を開いた。


「申し訳ないが、人が監視している状態で全員が座る訳にはいけない」


「うふふ。座りなさい、スヴィトラーナ」


「分かりました」


 隠れて警戒をしていた諜報部員たちに気付かれているのにも驚いたがそんな少女が彼の言う事に素早く従う様に、たじろぎそうになるのをどうにか表情を変えないようにし、アレクシスは彼を見る。

 どんな立場の人間なのだろうか。

 男性だが女性の様に着飾り、女性の口調で話し、三人の少女たちから『母』と呼ばれいる彼。

 多分、自分よりも背は高い良い彼の服装はオーダーメイドだろう。身にした宝飾品も質が良く、特に透明の石が入った首飾りは本当に価値の高い逸品だ。

 指先は黒に塗られ、化粧も安いわけではない筈。

 アレクシスは父が来る前に、彼と対峙してから一つの疑問に思っていた事を聞く事にした。


「ええっと。貴方は・・・彼ですか?彼女ですか?」


「私?私は『乙女』よ!」


 自信満々に胸を張って答える彼にアレクシスの背後にいたルークが小さく「えっ…」と呟いたのが聞こえる。

 アレクシスは若干、胃に痛みが走るのを感じた。


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