03 スヴェトラーナ・カルワナイト
私は闇子だ。
すべての人間に忌避される呪われし子供、闇子なのだ。闇子は魔物を引き付ける、だから人々は闇子を遠ざける。それが当然だと幼いころからわかっていた。自分だってもう10になる。だから、悲しくなんてなかった。本当の母親は殺されて死んだ。父が唯一愛した女性だったがあの忌まわしい男が送り込んだ悪級の魔物によって呪いをかけられてしまった。それで生まれたのが私と言うわけだ。父は愛してくれた。しかし、兄妹達の対応、義母の対応は冷たいものだった。義母は私を蔑んだ。兄妹は私で遊んだ。父だけが頼りだった。
今日、セイルティ領に行くことになった時も憂鬱で仕方なかった。
「お母様、お母様、どんな方たちがいるのでしょうか!」
「そうねぇ……お友達になれる子がいるといいわね」
「アリスははしゃぎすぎなんだよ、もっと淑女らしくおとなしくしろよ」
お兄様と妹の声がどこか遠くに聞こえた。顔を歪めてしまうくらい、腹立たしかった。
セイルティ領のセイルティ家に着いたとき、小さな女の子を見かけた。紫紺の長く美しい髪をした、眼帯の私と同じ、黄色い瞳の女の子。その子を見たとき、なんて綺麗で可愛らしいんだろうか、と思った。
彼女に話しかけている、彼女の兄妹らしき人達なんか目もくれず、ただただ彼女を見つめた。神秘的で儚げだが、存在感のある。そんな少女。心のどこかで彼女を憎んでいた。初対面だが、彼女は愛されているとわかったから。
彼女は私とは正反対だということがはっきりとわかった。彼女とはきっと話すことなどないと思っていた。そう、思っていた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
彼女が私に話しかけて来たのだ、その綺麗な瞳をこちらに向けて。笑顔で。
なぜ、私に話しかけに来たの。そう聞こうとしたが先に彼女が口を開いた。
「綺麗……」
はじめて、はじめて私を見られた気がした。闇子ではなく、スヴェトラーナ・カルワナイトとして見られた気がした。ガシャン、と義母であるあの人がティーカップを荒々しく置いたのがわかった。様々な視線が突き刺さる、しかしそれをものともせずに、彼女はこういった。
「私、ネクロアーシュ・シュミントンと申します、お名前を窺ってもよろしいですか?」
ああ、彼女は
「……スヴェトラーナ・カルワナイト、です。ラーナとお呼びくださいませ」
きっと彼女は
「そ、それではラーナお姉さん、私と遊んでくださいませ!」
天使だ。