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01

「なぜ、こうなったし……」


俺、こと私は前世の記憶を持っている。正しくは前世の記憶ではないのかもしれないが。私は前世でとある男に殺された。このことを思い出したのはつい先日のことだ、私の名前、新しい名前はネクロアーシュ・シュミントン、通称クロだ。私はそこそこ栄えている家に生まれ、つい先日までは普通に過ごしていたのだが。なぜか、前世の記憶を思い出したのだ。正直言って、あまり詳しくは覚えていない、覚えていることは私、ことディゼイスがある男に殺されたということだけだ。あといろんな魔法とか。


「クロちゃん、今日は何の日か、覚えてるかな?」

「……うん」


今私に語りかけたのは、私の母である。私は齢5歳である。そしてこのいまの会話である何の日か、これは簡単なことだ、従兄弟に会いに行くのだ。めんどくさっ。

つい本音が出るくらいにめんどくさい。何故会わねばいけないのか……母には私が前世の記憶があるということは知られたくないのでネクロアーシュとして接している。

私は今女の子であるわけで、可愛いふりふりのドレス等が身に着けられる。元男子としてはやめてもらいたい限りだ。


「さ、目指すはセイルティ領よ!!」


声高らかに宣言される母、指さす方向は今から向かう方向とは真逆の位置、御者さんも困り果てたような顔で母を見ている。

母は方向音痴なのでそこは仕方ないの一言で済まされてしまうのだけれども、さてはて、今から私が向かうセイルティ領とは私の従兄弟のお父さんとお母さん、つまり叔父さんと叔母さんが治めている領地だ、母は張り切って準備をしているがこの際ぶっちゃけて言おう。セイルティ領に向かうのは1時間半後だ。

それをわかったうえでこの張り切りよう、どんだけ叔父さんに会いたいんだ。叔父さんは母の弟で叔母さんは父の親友の妹。つながりがありすぎて困る。今回セイルティ領に向かうのは我がシュミントン家と父の親友でもあるカルワナイト家、そして母の兄の伯父さんのアハトール家、この御三家がセイルティ領に向かうことになっている。向かう理由は何とセイルティ領の叔母さんがご懐妊されたからだそうだ!めでたいね。自分の下の子ができるっていうのはなんだか微笑ましいものがある。実際、実年齢はもう20を超えているのだが……。

1時間半も母のそばにいるのは正直言ってキツイ、だから私は迷わず姉と兄のもとへ行く。


「お兄様ー、お姉様ー?」

「あぁ、クロやっぱり来たんだね」

「ホントですわね、やっぱりお母様の傍にいるのはきついのかしら?」


どうやら私の行動は予測されていたようだった。お兄様は今年9歳になる美男子である。美男子すぎて辛い。キャラメルのような色の頭髪にさらさらヘアー、そして紳士である。お姉さまは今年で6歳になる美少女である。この血筋怖い。紅色の燃えるような頭髪を緩やかに巻いている。この世界ではぶっちゃけ髪の色、瞳の色は自分の持つ魔力によって変化する。例えば雷魔法を使える奴がいればそいつは黄髪か黄眼になる、といった具合だ。

だからお兄様は大地の魔法か、瞳の色は水色なので水の魔法。お姉さまは炎の魔法か、瞳の色で黄色なので雷魔法になる。

私は……その、なんだ頭髪は前世と変わらず紫色なのだが瞳の色が問題なのだ、前世は緑だった、そういうわけで右目は緑で何故か左目は黄色なのだ。この世界でこのように瞳の色が左右で違う人はどれだけ探してもきっといないだろう、義眼の人はともかく自然で、だ。

私が生まれた当初、これはかなりの話題となった、もちろん我が家の中で。だから私は家の中で後生大事に育てられたというわけだ。何故迫害されなかったか、そんなの理由は簡単だ。この世界にはたった一つだけ神話がある、話せば長くなるからそこは割愛しておくが、この世界が滅びかけたとき、この世界を救ったのが左右で瞳の色が違う神子様なのだ。さて、そんな私は今はじめて外に出る。片目に眼帯をしてだけども。

そういえばお兄様とお姉様の名前を紹介していなかったな。お兄様はカルポシュ、お姉様はクイリアという。私はお兄様とお姉様のことはそれなりに好きなのだが、この二人少しばかり難点がある。それは……


「うん、やっぱりクロはそこら辺の下賤な雌猫どもよりよっぽど綺麗だね、はぁ…本当、天使みたいだよ」

「まあ、お兄様ったらこんな時だけ話が通じますのね、そうですわよねぇそこら辺の下劣な男どもの目にはさらせないほど美しいですわよ、本当、天使みたいですわ」


これである。人のことを事あるごとに綺麗だの美しいだの可愛いだのと、そして極めつけのこの発言「本当、天使みたい」、嬉しくないんだけど……。元男としてはまったくもって嬉しくない限りである。母も父もこの発言を1日に3回ほどしている。最近は使用人にまでも言われる始末、といっても私のことを知っている人間は2,3人なのだが。

そしてお兄様とお姉様は絶望的に仲が悪い。どうやったらこんなにも仲が悪くなれるのかというほどに。人前では仲の良い兄妹を演じきっているのだが……このあいだもくだらないことで喧嘩をしていたような気がする。

ここに来たのは間違いかもしれない、そう思い背を向けるといつの間に移動していたのか両肩にはお兄様の手とお姉様の手。そしてぐいっ、と後ろを向けさせられる。


「遠慮せずに、一緒に甘いお菓子を食べようじゃないか」

「えぇ、さ、早くこちらにおいで?」


物凄い気迫に思わず後ずさり、目に涙がたまる。あぁ、お願いだから誰か私を助けて……。


「はいはいっ、ポシュ様にリア様、そこまでですよーっ、クロ様が泣いてしまわれますよ?」


突然背後から現れたのは黒髪、黒目のにこにこと人のよさそうな笑みを浮かべている燕尾服を着た青年こと我が子供たちの専属執事の一人、ルーファスである。ルーファスはおもにお兄様の専属である。その彼がひょい、と私を持ち上げる。


「ルーファス、邪魔をするな」

「そうよっ、邪魔しないでっ」


ルーファスに噛みつかんばかりの形相で迫る2人。それを手で制しながらルーファスは扉近くまで行く。


「リア様ァ?まだ午前中に済ませておくはずのお勉強が片付いてませんわよォ?」


扉から出てきたのは、お姉様専属のメイドでもあるディコランである。ディコランは笑ながらも額に青筋を浮かべてお姉様のもとまで歩いていく。

そしてお姉様を抱え上げるとさっさと猿轡を噛ませ拉致していく。なにやらもごもご言っていたような気がするがそれは聞かなかったことにした方が身のためだろう。お兄様もそれに若干青ざめつつも何とか声を出そうとするがいとも簡単にルーファスに猿轡を噛まされ、連行されてしまう。いつの間に私をおろしたんだ……と思う暇もなく鮮やかな手つきだった。さて、こんな不敬にもあたることをして2人がお咎めなしなのは彼らが『人形』だからである。通称、灯篭ランタンを持ち歩く人形ドールである。本来は人につき、夜道のお供として使役するものなのだが、最近開発された魔法石によって、人間のように自由自在に動き、感情を持つというものにより、爆発的に人気を博し、予約は6年待ちのこのランタン・ドールを手に入れることができたのは、まぁ開発者が父の親友だからという理由なのと、実験という名目のプレゼントだからだろうけれど。

私にはランタン・ドールはいない、いることにいるのだが、人間ではない。なにやらぐにょっ、とした液体状、ゲル状のようなものなのである、しかも真っ黒で大きい、それが私の背後を付きまとう……考えるだけで寒気がする。そんなランタン・ドールはどこからともなくやってきているので若干怖い気もする。

しかし、危害を加えられたことはないので良しとするけれども。


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