おいしい晩ごはん
幸せな家族の前に現れたなにか。
太陽からお月さんにパトンタッチした頃、私は町外れの民家の庭にいた。
家の中を覗けば、住民は夕食を食べていた。
大きな一枚の肉を頬張る子供を、にやけた顔で見る夫婦を見ていると此方もいい気分だ。
幸せを分けてもらおうかと、窓へ近づいた時、後ろでだれかの気配がした。
「おっさん、今日はここなんだな」
振り返るとそこには、近所の坊主がいた。坊主は駆け足で私の隣へやってくる。
年長者に対して、おっさんとは如何な物言いだが、この横のつながりの薄い世界で、私に構う坊主を私は好ましく思っている。
「久しぶりだな、とんと見なかったが元気にしてたか」
声をかけると坊主は笑顔で、
「おう、元気だぜ俺は。こないだ最近嫁さんもらって楽しくやってるわ」
なんと坊主に嫁ができたのか、コイツはめでたいな。
小さい頃から見てきたから、坊主坊主と呼んできたが、もうそんな風に呼べんな。
私も歳を取ったもんだ。
物思いにふける私を見て、坊主はニヤついている。
「なに呆けた顔してんだおっさん。そろそろ時間だぜ」
「そんな顔しとらん、そんなことよりも結婚おめでとう。祝いにあの大きいやつはお前に譲ってやるぞ」
二人は走り出す、幸せそうな家族の団欒を目前にして。
「やーりぃ、腹減ってたんだ俺。おっさんありがとうな」
坊主は素早い動きで窓までたどり着く、私は少し遅れの到着。
「なぁに、私からの結婚祝いだ。盛大に行こうじゃないか」
こうして私たちの食事が始まった。家族はまだ私たちに気づいていない。
「パパ、今日はイモリさん2匹いるよ」
「あれは、イモリさんじゃなくてヤモリさんだよ。今日は二匹だね、番なのかな」
そうでもない。
もう田んぼからはカエルの大合唱が聞こえますね。
そろそろ私の家の窓にもお客さんがやってきます。
今日の晩御飯は、鶏肉の甘酢あんかけを作りました。
貴方は何を食べましたか。