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Take Three

喉がカラカラだ。




「日和、俺変じゃないよね?」

「服も髪も問題無し、普通に感じのいい好青年に見えるから心配しなくてよろしい。…確認するのこれで十回目なんだけど」

「そうは言ってもさぁああ…」

「うちの一家はそこまで気にするほどマトモじゃないから大丈夫だって」

「待ってそれ逆に不安になる」



婚約して一週間。日和のご家族に挨拶に行く約束の日。いつもより電車で遠出した場所の駅から、徒歩で移動しながら、俺はひたすら緊張していた。


たしかに何回もうざいくらい確認する俺も俺だけど、それ以前にマトモじゃないってどういうことだ。すげえ気になるんだけど。




「陽介くん、あそこに見える赤い屋根の家が私の家です。そろそろ腹をくくってください?」

「うわー…俺死ぬかも」

「何冗談言ってるの。行くよ」



割と本気です日和さん。

そんな俺の焦りを知りながらずんずんと腕を引いて歩いていく。そうしてついに門の前までたどり着いてしまった。



外観は洋風の一軒家。四人家族で暮らしてたと聞いてはいたけど、庭もついてるしなかなか大きい。門の中にカーポートがあって、黒塗りのワゴンが一台停まっていた。表札はもちろん"吉野"だ。



「帰るって言っといたのに鍵かけてあるし…しょうがないな」



容赦無くガシャンガシャンと門を引いたり押したりした後、日和は顔をしかめながらインターホンを鳴らした。



ピンポーン


『はいはーい』

日向(ひなた)、門閉まってるから開けて」

『あれ、姉ちゃん?…了解、待ってて』



スピーカーから若い男の…日和の弟くんであろう声がして、しばらくするとガチャリと音がした。今度こそ日和が門に手をかけると、あっさりと開いた。

俺が入ってから門を閉めると、ご丁寧にオートロックがかかった。おお、ハイスペック。…というか日和、実はいいとこのお嬢さんだったりするのか?


なんて考えてる間にもまた日和に腕を引かれて進んで行き、あっという間に玄関まで来ると日和はこれまたあっさりとドアを開けた。

ちょっと待てそれは話が違う。



「ただいまー」

「おかえり姉ちゃ………⁉︎」

「は、初めまして、お邪魔します」



出迎えてくれた背の高い弟君…日向くんだったかな、彼は俺の姿を視界に入れると目を剥いた。それに差し障りなく会釈をすると、肩を震わせて俯く。



「…………よ、」

「「?」」

「どーすんだよこれ⁉︎つーかマジで彼氏連れて来たの姉貴⁉︎は、え、何、これ幻覚?」


スパァンッ



冷や汗を流しながら言葉のマシンガンをぶっ放した日向くんの頭に、いっそ気持ちいいくらいの音を立てて日和の平手がクリーンヒット。


日向くんは叩かれた場所を押さえて後ずさった。



「いっって!!…つーことは夢じゃない⁉︎」

「いいからさっさとお父さん達にも事情説明してこい馬鹿。…どうせ二人も信用してなくて何も準備してないんでしょうが」

「当たり前だろ、何言ってんの?うわあマジかー…!」



嘘だろ、とか散々ぼやいた末に日向くんは家の奥の方に引っ込んでいった。

…この一瞬で嵐が訪れたみたいな気分なんだけど。


日和は深々とため息をついてから、唖然としている俺の方を見て苦笑気味に笑った。



「門閉まってたからまさかとは思ったけど…ごめんねえ、こんな家で」

「いや、うん、大丈夫」

「とりあえず上がってよ」

「え、いいの?」

「準備不足は向こうの責任だから知ったこっちゃないし。ずっと立ってるのも疲れるしね」



勝手知ったる風に(そりゃそうだ)上がり込む日和に続く、と、途中通り過ぎた部屋がバタバタしているのに気付いた。日和も気付いたようで、足を止めて耳をそばだてる。



『おい母さんYシャツは⁉︎』

『昨日クリーニング出しちゃったわよ‼︎あなたはもうその格好でいいじゃない』

『何が楽しくてアロハシャツで娘の彼氏の前に出ないといけないんだ⁉︎じゃああのポロシャツでもいいから早く‼︎』

『私はお茶の準備があるから自分でやってちょうだい‼︎』

『二人とも急げって‼︎姉貴もう和室ついてるかもしんないじゃん‼︎』



・・・・。



無言で振り返った日和と顔を見合わせると、同時に吹き出した。



「ね、心配いらないでしょ。うちはいつでもこうなの」

「…賑やかでいいね。おかげでさっきよりは落ち着いた気がする」

「その意気その意気。どうせ挨拶って言っても、あっさり終わるもんだよ。多分ね」

「頑張る」

「うん、頑張れ」



むん、とガッツポーズをすると日和は楽しそうに笑った。その背後の奥には、和室への襖が見えている。



さあ、いよいよ決戦です。

男丙陽介。お嫁さんをもらうために頑張ります。



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