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Take One ~after~




婚約指輪を選んで、その帰り。


左手には繋いだ日和の手があって、右手には指輪のケースだけが入れられた紙袋がぶら下がっていた。なぜケースだけなのかというと、せっかくだし着けて帰りたい、と日和が可愛いことを言うからタグだけ切ってもらったのだ。

そしてその本体は、二つとも左手の薬指にはまっている。




「でもちょっとびっくりした」

「何が?」

「ほら、陽介が来てから吸血鬼のイメージもだいぶ変わってたんだけど、やっぱりフィクションと変わらないとこもあるんだなぁって」

「ああ…」




先輩がいなくなった時、日和は先輩が指輪を"上物"、と呼んだ意味が分からずに俺に尋ねてきた。その時にした説明を思い出していたらしい。



その"上物"呼びについては、吸血鬼の生理行動である吸血が関わってくる。

吸血鬼の吸血は、本来唾液によって痛覚を麻痺させて行うものだ。つまり必ずと言っていいほど、吸血される者に吸血鬼の唾液が混入することになる。その機会が多くなれば多くなるほど吸血される側に唾液が混ざり、より吸血鬼が好む芳香を放つようになっていくという。…どういう仕組みかは知らないけど、要するに他のタチの悪い奴に喰われやすくなる、とそういうことらしい。


俺は同居した時点で、日和をそんな目に遭わせるつもりは毛頭なかったから、手の甲の痕にキスするだけで済ませてたんだけど。婚約して、俺の行動を受け入れてくれるようになったんなら話は別というか。


そこで指輪の登場だ。ありきたりだけど、つけているだけでその匂いとやらを薄めてくれるらしい。こっちもどういう仕組みかは知らない。先輩曰く一子相伝らしいから、その原理を教えてくれたことはなかったし。



ともかく先輩の言っていた"上物"とは、そう呼ぶだけあって、その効果がより高い指輪のことを指しているのだと説明をした。

ついでに言えば"上物"の値段は、物によって国家予算を動かせるほどのモノもあるらしい。それがまさか億で済むとは思ってなかったから、俺もビックリだ。日和には言ってなかったけど、長く生きてるから貯蓄が素晴らしく溜まってるんだよね…もちろん指輪の値段も日和には教えてない。




「それを着けていれば、日和は普段通りでいても大丈夫だよ。何も心配ない」

「うん。助かります」



ゆらゆらと繋いだ手を揺らしながら、絡ませた指にある俺の婚約指輪を確かめて小さく笑う。この子が俺の奥さんになるのかと改めて思うだけで、胸の奥深くにじわりと幸せの気持ちが滲む。



「日和」

「なに?」

「俺と結婚してくれますか」



ただの街中…ロマンチックな場所でもないし、それにもう、日和が先に言ってしまったことだけど。俺からも言いたくて、確かめたくて。

婚約の口約束に現実味を持てなかったのは何も日和だけじゃない。俺だってそうだったから。指輪を贈った今なら、ちゃんとそれも実感出来るような気がして。


足を止めた日和は少し驚いた顔をして、それでも幸せそうに笑った。



「はい」



繋いでいた手を強く握り返される。

それだけでもう、全てが満ち足りていた。



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