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焼肉


夕食の時間前に目を覚まし、風呂に入る。


十分暖まって出れば肉の焼ける臭いに居間へと一直線。


「んー」


どうやら今日は焼き肉らしく、すでに準備万端。


お肉は好きなので大人しく座って待つ。


家を間貸しする月見家の家事は当番制であり、しかし北斗は掃除ぐらいしか手伝ったことはない。


「さてと」

アトロールと月見が台所からタレを持って出てくる。

「あわぁわ」


よだれを飲み込み見つめる。

「お、先に食べてなかったか」

「偉いぞ、北斗」


月見が頭を撫でれば北斗は満足そうな顔。それどころかアトロールにどや顔。

「いや、別に羨ましくないぞ」


アトロールは素直に言うと、北斗に睨まれる。


「何でお前って俺を敵対視しているんだ?」

タレを渡せば北斗は瞳を輝かせて受け取るとお箸を配り肉を見つめる。


「じゃあいただきます」

全員が座ったのを確認すると月見が両手を合わせ、北斗も真似をすると早速お肉を取り始める。


「はわぁわぁ」

「美味しそうに食べるな」

月見は自分の肉を確保しながら北斗のお皿に肉と野菜を乗せていく。


「あ?」


不思議そうに野菜を見つめる北斗に月見は何も言わずにお肉を食べる。

「あぁ。アトロール。お前、ちゃんと野菜食えよ」

月見の一言が北斗はアトロールを犯人だと決めつけ机の下から足けりにする。


アトロールは無言で体をずらし北斗は机の脚を蹴ってしまい悲鳴をあげる。

「うっううう!」

「北斗。自業自得」

机が揺れないようにしっかり押さえていた月見とアトロールは涙目の北斗を見ている。


「うぐぅ!」

「ほら、肉食べなさい」


月見が肉をお皿に盛れば、北斗がお肉に飛び付く。先程の怒りは何のその。


再び瞳を輝かせて口へと詰め込む。

「肉の消費が半端ないよな」


月見が野菜を乗せながら言う。アトロールが九割肉、一割野菜なのに気付いた北斗が月見を見てアトロールを指差す。


「アトロール」

「はい。食べます」


ちなみに月見家の焼肉、肉と野菜の割合は八割二割であり、量は大体六人前である。


食費は月見が一人が食べた分を計算しており毎月請求を行っている。


「あー。肉は良いよな」

アトロールも北斗も肉の質より量である。

しかしアトロールが狙っていた肉は北斗に取られる。


「おい」

(後半戦か)


アトロールが文句を言う横で月見は大量の肉を鉄板に乗せていく。


「月見さんってそんなに食べないイメージなんですが」

アトロールは焼ける合間に月見と会話をする。

「お前のような戦闘の妖魔と違って一度食えば一週間は持つ。寝てるだけなら一ヶ月は持つし」

「へぇ」

「ま、美味しいから食べるけど、あんま食べると太るし」

「月見さんって太っているんで!げふっ」


アトロールの額にお盆が当たり、痛そうにアトロールが呻く。

「弱いな」

「ふっつーに痛がると思います。それ、鉄じゃないですが」

「小さい頃よく。くそ親父に木刀でしごかれたっけな」

「鉄と木刀一緒にしないでください」


痛そうに頭を撫でながら肉を口に運ぶ。

「っていうか当山には素手なのに」

「血が出たら困る。病院嫌いだから行こうとしないんだよ」

「俺は良いんですか?社会人」

「北斗は顔が良いもんなぁ」

「ん?」

北斗は不思議そうな顔をして月見を見る。


「親馬鹿ですか?」

「孫?」

首を捻りながら月見が返す。

「孫っぽいな。気分は」

「へぇ」

「んー」

北斗が両手を合わせる。

「御馳走様か?」

北斗が頷き自分のお皿を洗うと自室にこもる。



押し入れにある肩掛けの鞄を取り出し、黒一色の洋服とかけてあるコートを取り出して着替える。


それから居間に戻ればアトロールが片付け、月見は寛いでいる。

「ん?おでかけ?」

月見の言葉に北斗は頷き、月見は微笑む。

「気を付けて」

北斗は手を振って、縁側から出ていく。

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