当山阿東=トーゼア、アトロール
北斗がベランダでお菓子を食べる。
『うまうま』
「ほんと好きだよな」
アトロールは隣に座り見つめる。
『月見が庇ってくれたから好きになった』
そう言うと口へとお菓子を運んでいく。
『で?何か用事?』
「いや。お前魔術師だろ?俺を殺そうとか思わねぇのかなーって」
『ない』
「ないのか」
『戦争は終わった。それにアトロールこそ本当は憎いんでしょ?魔術師』
「まぁ、憎いわ。じいちゃんのせいで親死んじまったし、でも、天照に助けられもしたからな」
『ふぅん。俺は戦闘の長とよく戦っていたけど、その時にその長の弟さんとの間にできた子供が俺の肉親であると教わったから、出来るなら殺したくない』
「そうか」
目を閉じて、それから空を見る。
『俺はアトロールが殺す気ないなら俺は向かわないし、アトロールが殺す気ならやり返す。死にたくないから』
「それは俺もだな。まだ死ねない」
『探している人を見つけてほしいなら占えばいいのにっ!』
「決めつけんな」
北斗の額にチョプを繰り出し、それから笑う。
『大体恨みとかあるなら殺しているよ。とっくの昔に』
「それもそうか。一年も平穏に間借りしてねぇわな」
『それどころか戦闘の妖魔として襲わないように結界張ってあんだから感謝してほしいね』
「どおりで平穏だと思ったら」
『アトロールは一族増やす?』
「あぁ。妖魔の王に言ったら好きにしろ。と言われたしな。お前は?」
『魔術師学校は閉鎖した。魔術師は産まれてすぐ魔力を計測されて、術を使える度合いになったら魔力を消失させるから残りもわずか。大体俺が何出来るよ。占いで細々と生きていくことしかできない。妖魔を殺して怯えて過ごしてきた、この数十年間俺がなにするよ』
「阿東とやらを探すとか?」
『あとう?めんどくせ。すぐ近くにいるとかもうすぐわかるとか出てんのに探す気力もねぇわ』
「あ、あぁそう」
ひきつった笑みを浮かべるアトロールに北斗はアトロールを見る。
『何?』
「いや。独りぼっちって言うから寂しいのかなって思っていたんだが」
『いや。あんまし、今むっちゃ賑やかだし。月見いるし』
「親族とは思わないんだ」
『妖魔の王も含めて話したんだけどさ。月見は縁切っているつもりだし、俺は俺で初代様が、縁切られているし。別に今までどおりでいいんじゃね?って。占いでは阿東は今は好きに生きているみたいだし邪魔したら申し訳ないだろ』
「占いって便利だな」
『それに俺阿東のことわかるから。生きているんだなーって何時も感じてる』
「一体なんで?」
『戦闘のに肉親の話聞いてつい持っていた魔力有りのタロットカード渡したから』
「それ、一体何?」
『今は阿東が持っているって感覚があるし』
「本当にそれまじでなんなの!」
『あれは未来とか過去とかわかる道具なんだけど、持ち主の手を離れると持っている人がどんな人かわかるんだ』
「へぇ」
「まぁ、俺が譲り渡したものだから戻ってくることもないし、どこにあるかはわかんないけど、俺と阿東は繋がっている。そのタロットカードは双方の命がわかるんだ」
「双方、ってことは阿東もわかんのか?」
『まぁね、多分向こう側はわかってないだろうけど、妖魔の魔力がほんの少しだけあるし、多分俺が理解できていることは理解するはずだよ?天照の私物で遺物だから、そういう化け物じみた能力があるの。天照が俺が散歩にいくときは必ず持たせて・・・・・・』
額を覆っているアトロールに北斗は首を捻る。
『どったの?』
「いや、お前の散歩好きは、小さい頃からなんだと、それと天照すら困らせてたのか」
『まぁね。食後は休んでから動くように躾られていたみたいで』
「ふぅん。記憶戻っているのか?」
『断片なら。それに天照と出会った頃からしっかりと覚えているよ』
「そうかい。しかしまぁ、戦闘の長か。結構怖い人だったろ」
『うん。強かった』
「そうか。天照の道具ってお前が引き取ったの?」
『うん。魔術師学校も道具も。天照の物は全部俺にくれるって遺言を残していたから。たかってないよ!さすがに。育ててもらった恩もあるし。一人前の証もらったし。そりゃあ使えるもんは使うけど呪われた道具の処理もあったし』
「あー、わかってるわかってる」
『アトロールの天照はどんな人?』
「よく笑う女。じいちゃんより年上って聞いておったまげた」
北斗は嬉しそうに聞いている。
「まぁ、美人だったけど恋愛には至らなかったな。なんか、高嶺の華っていうより性格が、無鉄砲というか、すごかったから」
『あー。わかるわかる。俺たまに天照の化粧していたことある』
「お前がなんでもできるイメージは天照のお陰か」
『そうかも。四年で出来なきゃ、いけなかったから』
「どうして?」
『天照が自分の死を予知していたから』
「そうか」
『先読みの力があって嬉しかったのはほーちゃんを中途半端に放り出さなくていいって言われたことがあった』
「そっか」
柔らかく微笑んでアトロールはお菓子をつまんで食べる。
アトロールの携帯が鳴り、北斗は立ち上がる。
『俺戻るね』
「あぁ。ちゃんと戻れよ」
『あ、アトロール血をくれて、生かしてくれてありがと』
「どういたしまして」
満面の笑みを浮かべて北斗が消えたのを見計らって携帯をとる。
「クロか」
「どうも」
屋根から子犬の大きさの黒い犬が現れると黒服の男へと変化する。
「どうですか?」
携帯を切って、ポケットに片付ける。
「トーゼア家の子供、トーゼアホートに出会えて」
「とりあえず返しそびれた」
片づけた携帯の代わりにアトロールはタロットカードを取り出す。
「ホート。ミナミの子供があそこまで成長しているとは感慨深いです」
「そうか」
タロットカードを見つめる。
「まさかあんな機能が付いているとはな。俺ビックリ」
「私もビックリです」
「出したらばれちまうって出せなかった。おじさんも知らなかったんだろうけど」
「しかし、貴方も難儀ですね」
「ん?」
「肉親が親の仇の一種の魔術師であるとは」
「ま、それはな。拘っていないからいいんだわ。逆にもう戦うことはないだろう。魔術師でなければならない魔術師と人の血を引いた戦闘の妖魔。最悪また争いになったら俺らは肉親なんですって言えば止まる。といいなぁ」
「まぁ、妖魔の王の肉親ですからね。止まらないはずがありません。しかしいいんですか?貴方はホートを探してきたではありませんか。そのために妖魔王の息子のもとに引っ越したのですし」
「見守るんでいいんだ。引っ越しも考えていたけど、ま、俺がいても平気そうだし。もう少し居ようと思うよ。クロは?」
「私はあなたの守り神です」
「さよーか」
タロットカードは熱を帯びている。
「ホート。俺は、トーゼア、アトロール。当山阿東はお前に会えて嬉しい」
笑顔を浮かべてタロットカードを片付ける。
「しかなんでホートとかは気づかないのだろうか」
「気づいていても放置されてそうだ」
額を押さえながら呟く。
「クロ。お前帰れよ。シロに見つかったらどうすんだ?」
「イクアですよ。今はね。あいつ夜だと私より弱いので問題はありません。朝は私の方が弱いですが臭いは隠せます。ホートには疑われていますが」
「あっそう」
アトロールは空を見上げる。
「十五年間探して、見つかったと思ったらこんなに近くにいるとは。しかも血液型が一緒。血筋ってすげぇな」
「はい。トーゼア家は特殊な血の持ち主だから」
柔らかく微笑んだ男にアトロールも微笑み返す。




