散髪
北斗が寝起きのまままだ開いていない診療所に飛び込み、しかし段差に躓いて転ぶ。
「きゅー」
手を叩きながら呻けば、奥へと続くドアが開いて、死んだ魚のような目をしている男が出てくる。
「俺は医者なんだが?」
そう言いながらも手にはハサミ。北斗は鼻を鳴らしながら髪の毛を示す。
男は診療所ではなく、その上にある自宅の風呂場で北斗の髪を切り始める。
「つか、俺は医者。お前はなんで髪を切りに来る時しか来ない。重症だと俺が行かなきゃならんし」
「んー」
「下向け」
大人しく従い、髪の毛が短くなっていくのを眺める。
しばらくすると髪も整い、男は髪の毛をシャワーで流し始める。
「お前、今何やっているんだ?まさか復讐とか考えてないよな」
北斗は切り終わった髪を鏡で確認する。
「聞いているのか?」
北斗は側にあったメモを取り、文字を書くと渡す。
「大人しくはしている」
そう見せてから家へと帰ろうと出口に向かう。
「あ、おい!片付けぐらい手伝え!」
北斗が振り替える。
「そんな顔をするな」
叫べば北斗は渋々手伝う。
北斗が裏口から帰宅すれば縁側にいた月見が頭を見て撫でてくる。
「お帰り」
笑顔で頷き、縁側の月見の隣に座る。
「何処で髪の毛切ってきたんだ?まだおかっぱにしたこと根に持っているのか?」
しばらくして北斗は月見の言葉を子守唄に側で丸くなって夢の中へと落ちていく。
「んー」
月見が動いたのに気づいて顔を上げれば、同時に電話の音が耳に届く。
「北斗は布団に入りなさい」
言われて渋々月見の部屋へと向かい眠りに付く。
月見の笑声を聞きながら布団の中で眠り続ける。しばらくすれば月見が中へと入ってきて側に座ってくる。
「んー」
目を開けてみれば呆れた顔の月見。
「?」
「此所俺の部屋なんだけど?」
その言葉を無視して毛布を頭まで被る。
「そーだ。あいつらが明後日帰ってくるって」
毛布から頭を出して見つめる。そうすれば優しく頭を撫でられる。
「賑やかになるな」
頷けば月見は嬉しそうに笑う。
「そんな不安な顔をするな。毎年恒例なんだ。一緒に出掛けるから」
わーいと両手を挙げて微笑む。
「今年はどこいこうか?散歩でも良いし」
北斗は頷きながら、さらに微笑む。
北斗の顔は整っていて真顔であれば、大人びている。だからか笑えば笑うほど、幼さが浮かぶ。
「動物園とか遊園地も」
北斗は真っ青になって左右に首を降る。
「動物園はよくても遊園地が嫌ってお前なぁ」
北斗は幼い頃、さる人物から遊園地などのテーマパークを恐ろしいものだと吹き込まれている。だがそれを月見は知らない。
すでにトラウマとなってしまった事柄である。
「じゃあ、どっかにピクニックでも行くか」
北斗は頷き、うつ伏せのまま眠りに付く。




