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天照の弟子詞の魔術師当山北斗

体が痺れて動けず、それでもアトロールは殴りにかかるのだがすぐに束縛される。

そして上り棒に縛られる。

「さ、妖魔王お前を殺すだけだ」

嬉しそうにナイフを取り出して妖魔の王を見ると嬉しそうにナイフを振り上げる。

「ぎゃあああああ」

しかし空からの声に動きが止まり、ナイフが矢によって弾かれる。

「何?」

降ってきた北斗は体をねじって体制を建て直すと足に地面を着けての着地を行う。そして涙目のまま足を抱える。

「う、うぅううううー。うー」

「一体、どこから」

「んー?」

北斗は目の前の青年よりも月見を見て微笑む。

「月見見つけたぁ」

書き殴った文字と満面の笑み。

「お前なんで!人間が入るには鍵か許可がいるのに」

「月見!置いていくなんてひどいよ」

「置いていきたくて置いたんじゃない」

「じゃあ、お前のせいだな!バカナトオル!」

ホワイトボードを持ったまま魔術師、葉山を見る北斗。

「人を指差すのはいけないことだと親に言われなかったか」

「親おらんわ!それと育ての親は見た目美人中身おっさんの女に常識なんてない!」

「それは世の女性に失礼だと思う」

「あれは別格」

「お前顔がいいからって」

「ふぅん?顔いいんだ。でもあの人たちよりは悪いし、俺は顔だけでもてたくもない」

妖魔を示せば北斗の目の前に雷が落ちる。

「北斗!」

北斗は咄嗟に背後に下がるのだが横から妖魔の蹴りが入り、地面に倒れる。

「これで肋骨はおれたかな?大人しく見てろ」

葉山が唾を吐き捨てて妖魔の王の元へと向かう。

『汚いやつ』

声が頭の中に響き、全員が立ち上がった北斗を見る。

『こっちの事情も知らないくせに罵る口だけは一流か?護ってくれている人間をその場の感情で殺して満足か?』

北斗はコートのポケットに両手を入れて笑う。

『来いよ。お前らのその能力と技術と才能を俺が見極めてやる』

その瞳が力強く、そして二人を見つめる。

「偉そうな人間だな!力も持たないくせになぁ!」

高笑いをしながら妖魔が葉山を見る。

「全くだ!天才の俺に逆らうなんてな!」

『喋るのも億劫だ』

北斗の周囲に風が巻き起こる。

『四の五の言う前にかかってこいよ。不肖ながら天照の弟子、当山北斗が相手してやる』

「はあ?天照の弟子ぃ?アホだなぁ!」

雷が北斗に向かって落ちる。だが北斗は空に向かって指を鳴らせば雷は北斗の真横に落ちて北斗には傷一つない。

「なっ!」

「ふん!どんな手品かは知らないが俺の攻撃で痛くないふりをしても無駄だ」

北斗の顔面を殴りにかかるのだが北斗には紙一重で当たらない。それどころか腕を捕まれ、裏拳を顔面に叩きつける。

『顔面は勘弁しろ。これでも道中の占いの商売で顔も必要なんだからな』

「はっ!だったら徹底的に潰してやる!出ろ!親愛なる友!」

葉山の叫びに、蜘蛛が空から降ってくる。しかし北斗はポケットに手を入れてから出すとその手には日本刀が握られている。

『銘、草薙。その身に宿れ、焔≪ほむら≫の力』

日本刀が火に包まれ、蜘蛛は距離を保とうとする。だが葉山の顔を見るとすぐに北斗に牙を剥く。

『俺ならこんな悪魔と呼ばれる生物を友とは呼ばん』

だが北斗はすでに蜘蛛の後ろ。

『下僕と呼ぶ。出てこい』

蜘蛛が真っ二つに割れ、その切り口から血ではなく炎が吹き出して燃えていく。

「そ、そんな!」

『親愛なる友人!白きに身を纏う仙人!イクア!』

しかし何も出てこず、辺りが静寂に包まれる。

『やっぱ、これじゃあ喚べないのねー』

気の抜ける言葉に全員が口を開く。

『じゃあ、下僕の、どれがいいかな、よし。出≪いずる≫は女郎蜘蛛!』

燃えて消し好きとなった蜘蛛の上に真っ赤に染まった蜘蛛が出てくる。

『ほほう、下級は出てくるわけか』

「なんじゃ、主よ。久々ではないか。何十年ぶりじゃ?」

北斗は無言で鞄から取り出した骨の刺さった肉を投げれば蜘蛛は喋るのを止めて肉を加える。

「相変わらず愛らしい上に褒美の肉がうまい」

無我夢中で蜘蛛は肉にかぶりつく。

「女郎蜘蛛がなんで!君は俺の味方だろ?」

「ふむ、トオルかえ?残念ながら妾はこちらの方が好きぞ。我らのような下級悪魔でもよい品を渡してくる。貴様とは大違いであるからな」

『そりゃあどーも。ま、その分働いてもらうけど』

「な、なんで魔力も持たないお前が!」

『ん?魔力?持ってるよ。お前みたいにただ流しすると勿体ないから納めているだけ。ほら能ある鷹は爪隠す』

「嘘だ!嘘に決まっている!どんなトリックだ!信じられるか!」

『しょうがないな』

北斗が息を吐いた瞬間、葉山にも、魔力を持たない妖魔の王と、妖魔の四人にもわかるほどの魔力が空間を覆う。

しかしそれも数秒の間だけ。

『これで理解した?』

「おま、お前魔力があるのによく妖魔王を庇うな」

『かばうって言うか月見が泣くのはいや。だから護る。俺は守りたいものをこんな力のせいで失ってね。何度も失って、そんな俺に手を差しのべてくれたのは月見。だから守りたいって思う』

「魔力を奪われるのにか」

『俺は君とは違う。俺は魔力を奪われたら命終える。俺の命と魔力は密接に繋がっているから。けどお前は違う。魔力がなくなっても生きていけるだろ?だから校則を破ったお前を妖魔の王に渡せばよくない?』

「俺を売る気か!」

『天照の作りし校則を破った者には不肖天照の弟子が罰を下す』

北斗はそう言うと溜め息を吐いて言う。

『とにかく、俺はあんたを付き出したら、月見のもとから消える。どっちにしろ魔術師だとばれた瞬間からこれ以上迷惑かけれない。ま、世知辛い世の中でも世間一般的な大人になったし生き抜くことはできるだろう』

月見は目を見開き、鎖に力を込める。

「魔術師の小僧ども」

妖魔の王はそんな息子に気づき、殺気を持って二人を見る。二人は警戒しながらも見てくる。

「聞きたいことがあるんだが」

『なにさ。妖魔の王』

「っ!」

殺気に平気そうな北斗とその殺気に押し潰されそうな葉山。

「ふむ。平気か。つまらん。では聞くがトーゼアという名に聞き覚えはあるか?」

「あるわけねーだろ!バカ!」

叫ぶ葉山に北斗は口許を覆う。どうやら葉山の態度に笑っているらしい。

「で?そっちは?」

『うーん。悩む』

「何にだ?」

『不肖天照の弟子である俺は、生前に様々な制限をかせられている。ある程度は容認されるのだろうけど、もし容認されないことを口走ってしまったときには枕元にたたれる。あれほど怖いものはないね』

「知っている。でいいんだな?」

『知ってはいる。ただあんたより天照が怖いから黙する。どっちにしろあんたの目的がいまいちわからない。好きだから見つけるってのは俺の知っている妖魔の王とは違う気がする。何たくらんでんの?』

「ふむ。ならば、お前を手放せないな。何処に行こうとも必ずとらえてトーゼアの手がかりを掴む」

『ま、イクアがいれば判断してもらうけど。いないからなぁ』

頭を掻きながら指を鳴らせば地面を這って来ていた電流が途切れる。

「くっ!」

『あんなんで俺をやるとかありえないね。本気だそう。ほ、ん、き』

笑顔でひどいことを言う北斗に、全員無言。

『大体さ、先輩の雷って後付けの麻痺が強いだけで雷自体に攻撃力がないんだよね。おれだったらもう少しこーがんばるよ?何おまけで納得しているの?もっと雷を鋭く尖らせようよ。だから大戦で志願しても却下されるんだよ。それに致命的なものがないのによく俺は天才だー!とか、妖魔の王を殺してやる!とか、ばっかじゃないの?ありえないありえない。同じ魔術師としてこんな先輩要らないよ』

矢次早に北斗は言葉を紡いでいく。

『そういえば先輩って卒業してましたっけ?俺一応ここの大学院で研究してましたけど、先輩ってなんか卒業したってイメージ薄いんですけど?あぁ、先輩あれか!とりあえず制御はできたので卒業しました、ってやつか、だから大戦に行かずに生き残った。ほー。すげーすげー。いやー。よくもまぁ、そんな不名誉な卒業で生きてられるよねー。俺だって今の学歴で満足してないのに』

(そーいえばそうでしたね)

月見は溜め息を吐く。

北斗は一度習ったことを二度三度と聞くのは嫌いである。だが好奇心は旺盛で秋と空が通う学校へと入学を希望してお試しで行った。が、レベルの低さに飽きてしまった上に、教師のミスを指摘。最終的には教鞭をとってしまったことから二度と来ないでくださいと学校から言われたそうだ。

本来ならば受け入れるのだろうが、彼が大学卒業をしていると言えばそれは拒否しかないだろう。かといって大学の授業にこっそり行ったもののレベルは低く、すぐに飽きてしまっていた。

北斗の飽き性には呆れるが、出会ってから、その後も獣医師や、弁護士を目指すと決めた二人の家庭教師を勤めたほどの頭のよさはさすがに大学の講師でも舌を巻く。大学は知らないが多分教鞭を取ったのかもしれない。

魔術師のハヤマは天才だと言うが、月見からしてみれば北斗の方が可愛がっているからとか恩があるからとか関係なく天才だと言える。月見も三十代までは荒れていたとはいえ、王族の英才教育を受けている。それでも北斗の知識を吸収する能力には舌を巻く。

『しっかしま、ここで先輩の心折っても俺の徒労に終わりそうだし。心折っても無駄な馬鹿は、拳でわからせろと師に言われているからな。やはり馬鹿は拳だな』

いえ。北斗さん。すでにハヤマの心折れてます。

だって、絵に描いたような

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ですから。

そう思ったのだがすでの殺る気満々の北斗。

『よっしゃあぁああああ!暴れたる!』

「お前のとこの血の気が多いな」

「ああいう子です」

月見は溜め息を吐き出すと血の臭いに気づいて父親の腕を見る。

「親父!血が」

妖魔である以上硬い皮膚であるにも関わらず手首が擦れて血がにじみ始めている。

『ん?』

「親父様!無茶すぎるでしょ!」

「別にこれくらいは平気だ。ここで死ぬわけにはいかない」

北斗がゆっくりと妖魔の王に近付き、目の前に座ると腕に触れる。その手の傷が治り、鎖をはずそうとするが、葉山が笑い声をあげる。

「俺の命をくれてやる!だからすべてを総動員してあいつを殺せぇええ!」

魔力が溢れ出したため北斗は鎖を外すのを中断。魔力慣れしていない妖魔に魔力遮断の壁をつける。

『あんな魔力、召喚で放つなよ』

溜め息を吐くと解放を諦めて戦闘へと意識を変える。

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