怒りモード
月見は元々妖魔としての制限を行っている。
それでもなお最強とされる父親の影響か妖魔の能力は制御はしてあっても人以上の力がある。林の中心で臭いを嗅ぎ、林を見回す。
「おい!出てこい」
「なんだよ」
妖魔が呆れたように出てくる。
「お、妖魔王の首はどうした?」
「あれの首取るくらいならアトを見捨てた方がましだ」
「酷いっすよ!」
鎖で縛られたアトロールが叫んで来る。
「ちょ!痛いから」
一緒にいるエンリィが悲鳴を上げる。
「あ。ごめん。てかエンリィも見捨てる気ですか」
「いや、それは助けないと、兄弟がうるさい。ファンだし」
「ひどくないっすか!」
顔を歪めながら叫んでくるため、月見は首を捻る。
「どうした?」
「いえ、魔術師かなんかが、変な魔術かけて全身麻痺ってて」
「あー。よく動けるな」
「しんどいんすけど」
背後から現れた妖魔が月見にナイフを下ろす。
「月見さん」
悲鳴を上げたエンリィに、月見は妖魔のナイフを持つ手を受け流しながら後ろに移動してナイフを避けると両手で背中を殴る。
「がっ」
「妖魔討伐部隊が後十分で来る。その間にけりを」
「え?」
アトロールの声と一緒に背後からの足音に振り替える。
「また、え?」
黒い和服姿の北斗が、まるで幽霊のように立っている。
「北斗、君?」
「北斗どうして、ここ、に」
北斗が月見の横を通り過ぎていく。
「ちょ!ほく」
その瞳に意志がないのに月見は気づき呼び止めるのを止める。しかしそれに気づいた隠れていた妖魔が笑い出す。
「死に損ないが!今度は息の根を止めてやるよ」
「ひゃはははは!妖魔に味方する人間なんて死ねば良いんだぁあ」
それでも北斗は歩くのを止めない。
「あ、裸足」
アトロールが唯一冷静だと気づいた月見。
「って!裸足って」
北斗が裸足で歩いてアトロールとエンリィの元へと歩く。
「えー。なんかこえぇ」
「北斗君!後ろ!」
妖魔が北斗に向かって飛び降りる。だが北斗の体の真横を通る。そして妖魔の背中に回って妖魔の背後に回った北斗の拳が当たって妖魔は倒れる。
「えー。今の人の動き?」
アトロールの言葉に妖魔が北斗を固める。
「全員でかかれ!相手は手負いだ」
北斗に同時に向かうのだが北斗は袖から取り出したトンファーを構えて妖魔を投げ払う。
「あ、私の」
エンリィの言葉にアトロールは目を細める。
「え?さゆりってサインあるけど」
「先輩にもらったのよ!後で覚えときなさいよ!北斗君」
北斗が固まり、妖魔はその隙を狙って襲いかかるが北斗は蹴り飛ばす。そして妖魔に指示を出している男の首根っこを掴み、振り回すと顔面から樹へとぶつける。
「ぎっ!」
月見がアトロールとエンリィの鎖を叩き壊して外す。
「つか、北斗意識ないほうが無情っていうか」
アトロールが地面に手を付きながら言う。
「無情っていうか怒り心頭モード」
月見は、胸ぐらを掴み腹部を素手で殴る北斗を見る。
「あー。怒ってるんすか」
「みたいんだな、あれをみたのは久々だし」
「え?あったんですか?」
「あれが来てすぐうちに泥棒入ったときに」
呑気に話す二人にエンリィは、血の臭いをさせている北斗が心配でならない。
「二人とも止めなくて良いの?私は無理だから」
エンリィが苦笑いを浮かべて月見とアトロールが思い付いたように言う。
「北斗傷つけたやつは死ねば良いと思ったけど、北斗が人殺しになるのは困るな」
「とーざん、止めろ」
しかし北斗は懇願する妖魔などそう無視で殴っていく。
それどころか三人も眼中にない。
「そろそろ妖魔討伐隊が来るぞ」
しかし北斗はこちらを見ないまま攻め続けている。
「よし、飛ばすか」
月見が近づき振り返った北斗の傷に触らないよう殴って気絶させる。攻撃を食らっていた妖魔は気絶中の上放置。
「さて弟に任せるか」
「弟さんがその部隊にいるんですか?」
「腹違いな」
そう言うと青年が大量の男を連れて来て笑う。
「あ、兄貴」
「じゃ、後任せた」
「いや。少なくとも誰が暴れたのか説明してくれ」
通さない意志を見せれば月見は折れる。




