雷≪イカズチ≫の魔術師
穏やかに過ごしていれば、突然北斗が体を起こす。チャイムが鳴り、アトロールは玄関へと向かう。
その後を、鞄を肩にかけながら北斗が追いかけてくる。
「自分で出るなら出ろよ」
アトロールがそれでもとドアを開けた瞬間首根っこを捕まれ北斗に背後へと戻される。
「おい!首がしまるわ!」
ドアを見てナイフがあるのに溜め息を吐く。
「とうとう」
「それは違う」
北斗がそう示し、アトロールは首を捻る。
「じゃあ」
「此処にいるんだろ?戦闘の妖魔も、妖魔に媚びる人間も、そして人間を養う妖魔もぶっ殺してやる!」
「人間嫌い反対派。つかさ、俺はこび売ったことない(怒)!←これ重要!(`Δ´)」
「うん。顔文字いれんの止めようぜ。それにお前機械に疎いくせになんでネット用語とか顔文字とか知ってんの?」
「んー?」
北斗は鞄を探る。
「?」
そして中を覗き込めば妖魔が入ってくる。
「ひゃっほ!」
しかし北斗が投げた石が妖魔の頭部にクリンヒット。
「月見に起こられるから暴れんな!」
アトロールは手を叩こうとした瞬間石が爆発する。
「何、あれ」
他の妖魔は目の前で爆発するのを見て危険だと外へと逃げる。
「妖魔専用の威嚇爆弾。この間お金が入ったから作ってみた(`ー´ゞ-☆」
得意気な北斗の顔にアトロールは額を押さえる。
「いや、その顔文字どうなの?金あんだったら家賃入れてやれよ。滞納してるんだろ。つか作るなよ、んな物騒なの」
北斗は聞こえなーい。と耳を押さえる。
「当山」
「んー?」
爆弾で目を回している男を外に蹴り飛ばしながら見て来る。
「殺さないようにな」
「そこまで戦闘狂じゃないです」
「うん。わかっちゃいるんだけどな。手加減しろってことだ。つか、人の癖に妖魔を倒すとか」
北斗の蹴りに妖魔でさえ気絶している。
「手加減しています。<(`^´)>」
「うん、そうか」
アトロールは二十ぐらいもの年の差がある人間から妖魔へと目を移す。
北斗は鞄にホワイトボードを入れる。
「とにかく捕まりやがれぇえ!」
「おーおー。囲まれた」
アトロールは呑気に周りにいる妖魔を見る。北斗は何かの臭いを嗅ぎ、それから数を数える。
「んー?」
首を捻りアトロールを見る。しかしすぐに目を反らし、再び数える。
「どうした?」
「んー」
何か引っ掛かっているらしいのだが、先ほどから臭いを嗅ぎ、首を捻っているだけ。
「どうした?」
目の前の相手に集中していないらしくもう一度聞けば、北斗がアトロールを突き飛ばし、自分も背後へと下がる。
「くっ!」
蜘蛛が先ほどまでいたところに落ちる。
「って!でか!」
どう見ても北斗の倍はある蜘蛛は北斗を見て勝ち誇ったような顔(あくまでアトロール視点)をして牙を動かす。
北斗はホワイトボードを取り出して書く。
「なんだと?お前しばく!」
蜘蛛は再び牙を動かす。
「できるものならやってみろ!だと!やっぱ殺す!妖魔なら国交問題だけど!お前ら蜘蛛なら殺しても大丈夫だぁあ!殺すうう!」
「う、うーん。逆鱗に触れるの早いなぁ」
北斗はナイフを取り出して、蜘蛛と向き合う。
詰まり右手にホワイトボードを、左手にペンとナイフ。
「異様だな」
「人間ごときが勝てるか!」
妖魔の叫びに呼応するように北斗に蜘蛛の毛深い脚が落ちる。しかし北斗は気持ち悪そうな視線を向けてから紙一重で反れるとその脚をナイフ一本で切り落とす。
さすがの妖魔も唖然。
アトロールは吹き出す緑の血に思わず戦闘の妖魔の能力を使って退避。
「ちょ、キモい」
蜘蛛が悲鳴をあげて五本になった脚を使って上空へと飛び上がる。北斗はそれを見るとアトロールに向かって走る。
「あー。肩はやだからな」
手を組み北斗に向ければ北斗はその手に脚を乗せる。アトロールは北斗が脚を曲げた瞬間上空へと持ち上げて、北斗は持ち上げられる寸前で脚をさらに曲げて、上空へと蜘蛛と同等の高さまで飛び上がる。
蜘蛛が脚を動かしたと同時に北斗は縦の回転を行いながら蜘蛛の頭に蹴りを入れて攻撃に動かした蜘蛛の脚を切る。
「ど、毒だ!」
妖魔の叫び声に即反応したのは北斗。地面に着地した瞬間蜘蛛より早くに動き、蜘蛛の吐いた毒を避けながら背後へと回り、振り向いた蜘蛛の脚を切り裂く。
「!お前人間か!」
妖魔の叫びに蜘蛛が必死に北斗に脚を振り回すのだが確実に切れていく。
「つか!そのナイフなんだ!なんで魔術で呼び出される蜘蛛一族でも一番硬い特製の種族がやられてんだ」
「ま?じゅつ?」
アトロールが反応して、妖魔が叫ぶ。
「協力してもらっているんだ!」
「名前は?」
「さぁな!」
叫ぶアトロールに北斗が蜘蛛の目玉をナイフで切り裂く。
「その目玉をえぐりだそう。そしてホルマリンに付ける」
北斗が文字を書き、楽しそうな笑みを浮かべる。
「その眼で永遠に俺に怯えろ。ばーか、だれが妖魔の世話になっとる人間風情が餌にしてくれるだ」
「そう言っていたのね」
「俺は月見の世話をしているんだぁ!←これ重要じゃああ!(`Δ´)」
「おい。待て、世話になっているとは言わないが、世話しているのもおかしい」
アトロールが雑魚1の攻撃を避けて蹴れば北斗に飛ぶ。北斗は飛んできた雑魚1を上空へと蹴りあげる。
「あー?」
「はぁ?何いっているの?あの人に月見を任されてから俺は月見の世話をしている!」
「月見さんのあいつと、お前のあの人が誰か気になんだけどそれよりも家の家賃払っていない時点で世話をしてはいない」
アトロールが告げれば北斗が口をあんぐり開ける。
「まじで!」
「うん、お前少しは常識身に付けろ」
「えー!アトローに言われるのはちょっと」
「お前よか十二分についとるわ。後中途半端に俺の名を訳すな。呼び捨ては別にいい」
「いいんだ」
北斗がホワイトボードを向けながら上空を見上げる。
「アトローっていうの?戦闘の妖魔」
空中に浮いた北斗と同い年ぐらいの青年がいる。
「魔術師か!」
「そう」
アトロールの叫びに満足そうに頷いた瞬間、北斗の文字が目に入る。
「変態か!」
「いや、どういう意味だよ」
「え?違うの?空中から見下ろして自分はすごいんだと満期するのはバカがすること。無意味に自分の力を誇示する、チュウニビョウ。人の名前を略だという言葉を聞かずに略を本名だと思ったやつはアホ。で、全て総合すると変態」
「お前俺を怒らせたいのか?」
「正論!」
「お前、それ誰の受け売りだ?」
アトロールが目を細めて聞けば、北斗が呻いて示す。
「あのあまぁ」
「うん。名前を示せ」
「えー?じゃあ俺の師匠?名前はいうなって遺言で言われてる」
「死んでいるのか」
「うん。正直、ちょっと、清々した」
「おいいいい!お前どんなけ理不尽受けてたんだよ!」
「いや、まぁ、育ててもらった恩はあるけど、まぁあれだ。うん。わかれ、書くだけじゃあ恨み積りは晴らせん」
「あっそ」
アトロールが諦めて顔を真っ赤にして魔力を貯めている青年を見る。
「受けてみろ!全知全能の神の証であるゼウスの雷!ゴットオブゼウスライトニングサンダー葉山透≪ハヤマトオル≫バージョン!」
唱えながら地面を見ればアトロールがホワイトボードを示しており、その内容を読んだ青年は怒りで北斗を探す。
「カタカナ使うぐらいなら横文字使うな。後恥ずかしいぞ。後長い。それと、チュウニビョウ患者は痛い」
北斗の縦の回し蹴りが青年の肩へと直撃して、地面に落ちていく。
「ぐはっ!」
青年が地面に落ちるが慌てて魔術で補助してダメージを減らす。
「フレイ!ハヤマトオルヴァージョン」
北斗が再び着地をすると蹴りを魔術師に入れてからホワイトボードを受け取り書き直す。
「その自己の名前はいるのか?馬鹿馬鹿しい」
「うわー。とーざん。何あおってんだよ」
「師曰く、痛い子は叩きのめしても大丈夫、d=(^o^)=bと最高の笑顔で物申した」
「女だよな!女なんだよな!」
「く、俺は痛い子じゃない!俺は天才魔術師、雷の申し子で、ゼウスより知力を授かった雷の魔術師だ!」
「長々と説明して、天才だとか、神より知識を与えられたとかいうバカは痛い子以外にないだろ」
「死ねぇえ!俺に仕えし固き防御の蜘蛛!俺に」
見れば残っている手足と地面がナイフで固定されて、絶命していて魔術師は唖然。
「題名。夏の昆虫標本。標本ってえぐいよね(^-^)/」
「お前の手口がエグい」
「あぁ、ああいう生物は狂暴だから力で従わせるのが一番であるらしい」
「お前のそういう知識何?」
「興味深いことに探求心が芽生えるよね」
「いや。まぁ、珍しく生き生きしているけども」
「むふふ、一応研究者であり占い師だしね。不思議なことって面白いよね」
「むふふってお前ねぇ」
「ぶっ殺す!」
青年が雷を纏わせて北斗に向かう。
「他頼むよ」
北斗がホワイトボードを片付けて小石を拾うと青年に向かって投げる。
(手始めに)
雷が小石にまとわり付き、戻ってくる。
(生き残りいたんだ。ほとんど人間王と妖魔王に連れていかれたって聞いていたのに)
喉を押さえてから石を鞄から取り出したバトミントンのラケットで跳ね返す。
「っ!」
しかしラケットから電気が走りラケットを落とす。北斗は無事な手でラットを片付け、鞄の中にある注射器に触れる。
(いや。今は使いたくない)
アトロールを見て注射器から手を放す。そして勝ち誇った魔術師を見る。
「さてじわじわマヒしていくが次は何処だろうな?」
「ちっ」
北斗は痺れる腕を押さえて走る。だがリーダー的な妖魔が進行方向を塞ぎ、そして向かってくる。
「あ」
(い、たい)
「とーざん?」
妖魔の体を思いっきり蹴るのだが威力は押さえられている。
(まずい。まずいまずい)
お腹を押さえて、敵対者から距離を取る。だが未だ血の臭いがしない魔術師は嬉しそうに追い詰めようと石に魔力を込めて投げてくる。
(最悪)
石を避けながら動くようになった腕で鞄から取り出す包帯で傷を覆って止血する。ナイフを横に薙いだため範囲は広いが、傷は浅い。
そして妖魔に向き直るが妖魔は並走しており、さらにナイフを振り上げてくる。
「っ!」
その昔、使った卑怯な手、つまり足で砂ぼこりを起こせば妖魔は油断して距離を取る。まぁ、今追い討ちをかければ、確実に逆手に取られるだろう。
確実に演技だ。
深追いはせず、妖魔を地面に叩き伏しているアトロールにバトンタッチ。
「ちょ!俺魔術について素人なんですけど?じいちゃんと恩人にご、いや、叩き込まれてはいるけど」
「え?拷問?」
北斗がホワイトボードを向ける。
「恩人が?え?魔術バカなの?その人たちも」
「もってもっていったなお前。まぁいいけど。恩人はちょっと質問するとな」
襲いかかってくる妖魔を側頭蹴りで薙ぎ払う。
「半日はそれで時間を潰せる人だった」
「お、恐ろしい」
「お前研究者なんだろ。自称」
立ち上がろうとする妖魔は脳震盪を起こしているらしく立ち上がれない。
「魔力を持たない人に魔力云々語っても魔力を持つもの持たないものでの記憶力は全く違うと実証されているのでね。ちなみに、俺はそこまでオタクでもマニアでもない。一時間も魔術に拘束されてたまるか。一応俺嫌いなんだよ。魔術云々。必要だから研究しているだけで」
「まじか。魔術にそんな能力が」
「ま、才能の問題だと思うんだがその辺はわからん、もう感覚だろ?本能の域だろ?俺はそこは専門外」
「うん、さじなげるのはぇよ」
「え?俺勉強嫌い。何を今更」
「そうだったな」
ちなみに十八歳の北斗。普段の子供のような態度や月見との付き添いでからはわからないが学力は結構優秀な大学に満点で入れる。十二歳までにこの世界の一般的に難しいとされる学問は修得済なのである。
それを自由気ままに生きようとしている北斗に再び学び直せというのは、ストレスそのものである。しかしそれも新しいことを勉強しなければ育ての親が化けて出てくる。と生前に遺した言葉、「新しいことが出てきたらちゃんと勉強しないと殺すかも」という遺言を真に受けているからだろう。
当山北斗。十七歳の頃に出会って以降、年相応の子供と思ったことは日常生活だけでも、主に月見といるときだけである。
「しっかしまぁやられたな」
「先生呼ばなきゃ」
「だな」
魔術師が襲いかかってくるため、北斗は殴り、胸ぐらを掴む。
「ひっ」
「ん?」
北斗が投げたホワイトボードをアトロールが受けとる。
「秘技!紳士的背負い投げ」
「何でやねん!」
北斗が腕を掴み、思いっきり地面へと叩きつける。
「紳士どうした!しかも漫画からぱくるな!ちょっと期待しただろ!」
北斗が不思議そうに見つめる。
「え?生殺しのほうが駄目だろ?って顔すんな!」
「うー」
「不満そうな声も出すな!」
ナイフが飛んでくるため空へとアトロールは蹴り上げ、そして魔術師を見る。
「おいおい!魔術師が武器かよ」
息切れを起こしているその姿を見た北斗はアトロールを見てからホワイトボードを見る。
「どいつもこいつも!死んじまえぇええ!どうせ!俺にはもう何もないんだ!」
魔術師から雷が大量にでてくる。北斗が文字を書き終える前に、雷によってホワイトボードが空に舞う。
(月見!)
手を伸ばしてホワイトボードを掴むが妖魔は確実に距離を積めている。
(うそ、だろ?)
地面に手を付き、蹴りを入れるが威力は足りず、地面へと叩きつけられる。
「っああ!」
「とーざ、ん?」
アトロールが助けようとするが足が痺れて動かなくなり、その場に倒れる。
「何が?」
すぐ真横に落ちてきたナイフを見れば雷をまとっている。そして北斗の行動にアトロールは気付く。
「おいおい。魔術付きなら早目に言ってほしかったよ」
苦笑いを浮かべながら目の前にいる魔術師と、体を丸めている北斗にナイフを突き刺して止めを刺そうとしている妖魔。
「とーぜーーー!」
悲鳴と視界は雷の音と光によって全てを消す。




