表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真空の温度  作者: とも
2/5

心声

残酷な描写が有ります。ややグロです。苦手な人は注意してください。

ある日、何故か朝早く目が覚めた。

いつもは日の高くあがった頃に漸く目を覚まし、ぐずぐずしながら寝台から出ているのに。

だから、珍しくも日の高いうちに外に出てみることにした。

ふと、線の方を見ると、新入りが立っていた。

わぁ、とちょっとだけ感動。

何故なら、遅起きのため、いつも先にエリやら他の誰かが見つけてしまうのだ。

私が寝ている間に何処で生きていくやらの話などさっさとついてしまう。

それで結局私は新入りを見ることなく終わることが多いのだ。

背丈からすると7歳くらいの少年だ。

しかし朝日がまぶしすぎて、ただでさえ片目の私には遠目にはよく見えなかった。

いつの間にか隣にはエリがいた。

それからは、3秒、だった。




「あ、エリ。新しい人だよ」             ひとつ


「でも、動かないね」                ふたつ


「・・・どうする?」                みっつ




パン  パン



乾いた音が響いた。

雲が陰って少年を照らす。

エリは器用に少年の胸と頭を打ち抜いた。

「・・・どうして?」

エリは別段気にしたふうもなく言った。

「あいつが死にたがってたんだよ」

エリ、エリは他人の心の声が聞こえるの?

「ほら、戻るぞ。飯にしようぜ」

「・・・うん」


あの少年は動けないようだった。

でも、生きてたと思った。

エリには、ただ、暫く線には近づくなと言われた。


その後一ヶ月、エリはこの乾燥した土地故に驚くほど早い少年の土地への回帰を見守っていた。

腐肉を好む黒死鳥や鷲などを寄せ付けることすらさせなかった。

少年の飛び散った血潮を拭うことなく、しかし、ずっと見守り続けた。


エリが見守るのを止めた頃になって、やっと私は線に近づいた。

少年と思っていたそれは、すでにその痕跡を認めようもないほどに腐食し乾燥してはいたが、

辛うじてその臓器を判別することができた。

その少年には何かが欠けていたり、間違っていたりするところがあった。

しかし、それは明らかに、人為的、いやむしろ人工的と言えるものだった。

少年の、腐り虫の湧いている頭蓋の両の窪みには、あるべき眼球が欠けていた。

左目はまだ目蓋も残っていた。

しかし、その下はきっと右目と同じようになっているのだろう。

痛かっただろうね。

眼窩には細かなもの、太いもの、長いもの、色んな鉄釘が詰め込まれていた。

そして左の目蓋は上下を縫い付けられ閉じてあった。

口も縫い付けられていた。

僅かな綻びから、中には綺麗な硝子玉しかないのがわかった。

他には何もなかった。

歯も、舌も、何も。

手首は左右が入れ替えてあった。

腹部は一部抉られて、腸管から花が枯れていた。

また別の場所には透明な硝子版のようなもので塞いであり、

筋肉だったものに根が纏わりついているのが見えた。

両の太腿から下腿、そして地面に欠けて大きな太い棒が突き刺さっていた。

ただ、エリが撃った反動で折れて、少年は倒れたらしい。


エリが撃ったところはあまり血の後がなく、きっと即死だった。


少年は穏やかな顔をしていたんじゃないかな。

あるいはしていたらいいな、そう思った。

ふと、後ろに気配を感じ振り向くと、エリが立っていた。


「帰るぞ。出かけるから用意するんだ」

「うん」


やっぱり、エリはエリだ。


「エリ・・・」

「何だ?」


私はエリの背中に抱きついた。

こみ上げてくる思いに、ひどい顔をしているのがバレませんように。


「・・・時々、ああいうのがくるんだよ」




あの少年は生きていたかっただろうか。

   それとも死にたかっただろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ