巡り巡って。
一歩、一歩ずつ歩く。ゆっくりとぼとぼ、でも、着実に。
周りには人がいない、誰も僕を見ない。もし仮に見ているのならとても情けない歩き方をしているのだろう。もう、見られててもどうでもいいや
ふと、足を止めてその場に座る。前、というよりかは下を見ると、多くの建物や人であふれかえっていた。圧巻の景色だった。太陽の光が街中で反射し、ぼくたちを照らす。呼吸を忘れるようなきれいな景色。それぞれがそれぞれの道を歩いて知人と会ったら挨拶をして、楽しそうに、あるいは悲しそうに地面を蹴って今日という日を生きる。この景色を見ると、どれほど高いところまでやってきたのかがわかる。
下を見ると、テントのようなものを張って、盛り上がっている。どうやら今日は何かのイベントのようだった。ぼくの気持ちは高まり、心拍数が跳ね上がっているのが伝わってくる。
――今日午後16時に、ぼくはこの場所で空に向かって一歩を踏み出す。空を歩く。空に足を預けるのだ。それは、死と等しいはずだ。
ぼくは、死にたい。本当に死にたいんだ。死に方なんて何でもいい。この景色を見て、息を吸うことを忘れて窒息死してもいい。心臓が興奮ではち切れて体の中が破裂して死んでもいい。ただ、死ねたらよかった。落下死なら、最後に景色を見て死ねると思ったからぼくはここに来た。
時刻は15:57―残り三分。こういういざ死ぬ直前、ってなるとドラマとかは自分の人生を想起しているけど、リアルではいったいどうなのだろう。それも少し気になってこの死に方を選んだ。実際、そういうドラマは正しいと思った。脳がすごく活発になって、自分のこれまでの記憶がフラッシュバックのように思い出しては消えて、また違う記憶を思い出しては次の瞬間には消えていく感覚がした。
ぼくの今までの人生は決していいものとはならなかった。ぼくの記憶がないくらいの子供の時に両親が離婚して、双方が親権を拒否し、児童相談所の介入もあって、そのあとは施設で過ごした。初めはそこにいる子供たちにしゃべりかけにいったと思う。でも、いつからかぼくはだんだんと喋れなくなって、近くにいてくれた人たちも日を重ねるごとに離れていった。今は一人暮らしをしていて、高校には一応いっているけど、そこでも結局は一人きりだった。全部がめんどくさくて、だるくて、しんどくなった。時計の針は確かに進んでいき、太陽はゆっくりと西の方へと進んでいる、そう思った。推測なのは、ちょうど太陽の方向に屋上に上るための階段と扉で見えなくなっていたから。
あと、一分だった。ぼくはゆっくりと立ち上がった。どんなポーズでここから飛びおりようと思った。そんなことを考えていると、ふっと笑ってしまった。屋上に来るまでの唯一の扉を閉めて、今日にしようと決めて、時間まで決めて、最後に死に方なんて考えてしまう自分が少し恐ろしいと思ってしまった。本当にぼくは、僕自身がどうなってもいいんだって改めて、そう思った。
スマートフォンを見て時間を確認する。あと十秒。せっかく買ったこのスマホも、誰ともつながらなかったこのLINEも、三日でやめてしまったあのゲームも、全部おしまい。
すがすがしいほど気持ちは晴れて、僕の顔には笑みが張り付いた。とても、乾いた笑みだった。
大きく手を広げて飛び出そう。景色を見ながら死のう。その景色を見るために、今を生きよう。アラームが鳴った。16時だ。ぼくは―青木空は、まるで散歩に行くように、家から出るように、いとも簡単に空に片足を踏み入れた。
――待ちなよ
凛とした声が響いた。踏み入れようとしたもう一つの足が止まる。体幹が良かっただけに、足が、くやしいかな、スッと戻ってくる。後ろをゆっくりと振り向く。そこには、1人の少年がいた。少年というべきか、青年の方が正しいだろう。ただ、本当にそこにいるのかぼくは目を疑った。それは幾ばくか人間離れした、ここにいるのに似つかわしくないほどの体をしていたからだ。肌は少し焼けていて、服はシンプルな白い服をまとっており、髪は白銀に輝いて、目はきれいな琥珀色をしていた。あまりにも美しすぎて、女神様なのではないのかと思ってしまった。もっとも、相手は男だけれども。こんなにも美貌を持っているというのに、SNSやテレビで見たことがなかった。
「だれ?」
ぼくはそう冷たく言っても、目線は彼から離れることはなかった。それは警戒か、ただ見ていたいという欲望なのか、ぼくにもわからない。
彼は、ゆっくりとぼくの方に近づいて、こう告げた。
「死んじゃだめだよ、少なくとも今は」
その声はやはり凛としており、低いのによく通る不思議な声をしていた。
「…どうして」
「どうして?」
と彼はぼくが言ったことを繰り返す。
「だって、生きている方が良くない?」
「は?」
ふざけているのかと思った。死ぬことがだめな理由を聞いているのに、生きている方が良いという感情論。
「ぼくは、死ぬ、死んだ方がいいんだよ。」
「どうして?」
質問をしたのに、気づけば質問される側に変わっていた。
彼は言った、どうして?と。
だって、死んだら楽になれるから。だって、死んだらこの世界から逃げれるから。
だって、やっと終われるから。だって…だって、だって、だってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだって——
「―――だって、ここにぼくなんていらないから。」
頭の中ではいくらでも思いついた。でも、言葉に出すことができなくて、のどに突っかかった。言えたのはこのたった一つの言い訳。でもその言葉もしっかりとぼくの口から出たぼくの思いだった。
「そう」
たったその二文字。反論もせずに、肯定もしない。沈黙が続いた。ぼくは彼の顔を見ることができなかった。
「世の中にはさ、運命っていうものがあるんだよ」
「…」
「人は生まれた時からいつどこでどんなタイミングでどのように死ぬか決まってる。すべての生物がある程度の台本が脳に刻まれて、その範囲の中で生きている。下手したら生まれるタイミングも。それ以外で死ぬことなんてない。絶対に。それが運命だから。」
まるで神様のように、ぼくに諭すように告げる。
「だから、それまで精一杯に。べつに精一杯生きる必要なんてないけど、命が潰えるその時までけががないように、楽しまないと。」
「…じゃあ、今日が俺にとってその運命の日だったんじゃないの?君がいなければ死ぬことができた。」
「でも、俺がここにいたのは運命かも」
あっけらかんと答えられる。時間はとっくに16時を過ぎてしまった。
死ぬタイミングを失ってしまった。運命を叫ぶ男によって。
「見たところ、君には友達がいないと見える。それじゃ、俺と友達になろっか。」
疑問ではない。断定だった。否定されることなど毛頭考えていない。そしてぼくも断る理由を見つけることができなかった。
「…名前は?」
名前を知らなければなんてよべばいいのかわからない。それなのに彼は少し驚いたように見せる。何が意外なのか見当がつかない。彼はこういった。
「俺は、え、えっと、しん!しんって言って!」
「そう、ぼくは空」
世にも奇妙な名前交換が行われた。死ぬタイミングを失ったぼくと、女神のような美しさをもつしん。この後の結末はまさに『運命』だけが知っていることだろう。そんなことを思いながらぼくたちは扉の方へ向かっていき、扉に置かれている荷物を横にどける。誰も来ないようにするための仕掛けだった。今となってはもう意味がないのだけど。荷物をどけて、扉の鍵を開ける。ぎぎぎぃとさびた音が聞こえて、少しの、違和感を感じた。だけど、その違和感を他の事でつぶした。それはただ、考えることがめんどくさかったから。
家に帰る途中、しんはずっとぼくの隣に立っていた。
「ねえ、家は?」
「――え?」
家を聞かれると思わなかったらしい。立ち止まり、急に考え始める。
「えっと、追い出されちゃって。」
どう考えても嘘だった。それならもっと慌ててる。でも、どうでもよかった。たとえ、しんが悪でも善でも興味がわかなかった。
「じゃあ、ぼくの家くる?ぼく一人暮らしだし。」
「やったー!」
謙遜とかそういうのはなく、ただうれしがっていた。思いっきり手を挙げて、笑顔になる。そのお気楽さが少しうらやましいと思った感情は、捨てた。心の奥深くに。その理由は自分でもよくわからない。
家は少しぼろいアパート。高校とちょうどいいぐらいの距離感で、安かった。
扉を開けて靴を脱いだ時に、ふと気づいた。しんは靴を履いてなかった。
「靴は?」
「あーないわ」
「…俺のもともとはいてたやつあげるよ」
ひと段落して、ご飯を作り、食べて、風呂に入った。料理を「まず!」と言われたがぼくが怒ることはなかった。
「布団一つしかないから、俺と一緒でいい?」
「おけだ」
なんの抵抗もなしに二人で一つの布団で寝ることが決まった。
電気を消して、二人が入るとさすがに狭く、体が密着した。それでも、お互い知らず知らずのうちに眠っていた。安らかな夜だった。
きづけば和やかな朝が来ていた。むくりと起きると、隣にいたはずの体がキッチンまで移動していた。
「あ起きた?」
台所からは香ばしい卵と塩コショウのにおいがする。どうやら目玉焼きを作っているようだった。
「もうできるからまってて」
しばらくして、完成した料理がテーブルに置かれた。卵と、香ばしく焼いたウインナー、それに彩るためのサラダ。
「いただきます」
美味しかった。焼き加減も、塩コショウの振り具合も、ぼくのためのような味付け。まるで以前から知っていたようだった。
「うま」
一言が思わず漏れる。一緒に食べていたしんの手が止まり、こちらを見る。その顔は、言うまでもない。満面の笑みだった。
「だろ?俺は容姿端麗、成績優秀、才色兼備の天才だからね」
「…そう」
「興味なさすぎじゃない?」
「そんなこと別にない」
うそだぁとぼやくしん。興味がないわけじゃない、関心がないだけ。
数分で朝食はなくなった。ぼくにしては速いスピードで。しんはぼくが食べ終えたことに満足したのか、嬉しそうに食器を洗い始めた。洗っている姿は少し幼くて、少し、かっこよかった。
「空―今日はなんかすんの?家でだらだら?それとも外行く?」
「―――」
「空?」
キッチンから疑問の声が聞こえる。無視をしているわけではない。少し、考えてしまった。
今日は何をしよう、と。死んだ翌日のことなんて、考えてなかった。明日なんて来ると思っていなかった。ずっとずっと、昨日の計画のことばかり考えていた。あの日のために、今まであの日に、ぼくは縛られていたのだから。つくづく思ってしまう。やっぱり、あの時死ねばよかった、って。
そんなことを考えていると、ぼくの頬をしんの手が覆った。いつの間にか食器洗いは終わったらしい。しんはこう言う。
「きまってないんだったら俺と一緒にあそぼーよ。楽しも?」
「…いいよ」
決まっていないのなら、言われるがままに行こうと思った。
「やった!」
腕をぶんぶんと回すしん。小学生なのかと思うぐらいはしゃぎ方が幼稚だった。
でも、切り替えが恐ろしく速かった。急いで、クローゼットを開けて、服を選んで、ぼくの方にもひょいと投げた。これを着ろと言わんばかりに、クローゼットの扉を強く、閉めた。
ぼく達はすぐに着替えて、家の扉を開けた。
「いやぁ、快晴快晴!気持ちいいくらいの晴れだね」
楽しそうに、そういうしんの服は、茶色のチノズボンに、デニムシャツ、大学生が来ていそうな私服だった。まあ、その服はぼくのなのだけれど。
「とりあえず、散歩しよ、俺町みたい」
しんはぼくの腕を軽く握ってしんの方にひきよせる。
「二人で行くからね」
「...そのつもりだけど」
「知ってる~」
気の抜けた返事が返ってくる。どこか不安そうな声をして、すぐに表情が切り替わる。まったくもってよくよくわからないやつだった。
アパートの階段を下りて、街の散策をした。どうやらしんにとって、それは随分とたのしいみたいで、ことあるごとに目を輝かせてそっちの方に向かって行った。でも、その左手はぼくの手をしっかりと握って、離さなかった。
いろいろなところを巡った。近くの公園、ショッピングモール、近くの川、全部、この町にあるものだった。行ったことがあったはずなのに、なんだかすごく新鮮な感じがした。はじめて、人といったからだろうか。それとも、何か目標があってくるのじゃなくて、ただぶらぶらと、町を観察するために、しんを見るために、町を歩いてるからなのかもしれない。もうしんがどこから来たのかなんて、本当にどうでもよくなった。見上げた空は斜陽に、赤く映すしんの髪はほんのり赤みを帯びていた、ような気がした。
たくさんの場所を行って満足したのか、しんは再び、最初に来た公園に戻ってきた。だらだらと公園で散歩していると、少し開けた場所に着いた。
そこにはワゴンカーといくらか人がいた。あるワゴンカーが、しんの目に留まった。
「ねえ空。俺あれ食べたい!あのクレープ!」
「まあ、いいよ」
自分が出した声が、最初の時よりもずっと違う声をしていることにぼくすらも気づいた。クレープのメニューを見て、注文する。
「しんは何にするの?」
そう言って、しんの方を見ると、頭を抱えて悩んでいた。
「…何と迷ってるの?」
「これー」
指をさしたのは、期間限定の季節のクレープと、いちごのクレープ。どちらも、店が太鼓判を押している商品だった。
「…じゃあ、どっちも食べれば?」
「え、いいの?」
「ダメなんて言ってない」
「それじゃあそうする!」
お金には余裕があった。バイトには行っていたけど、もらったお金で必要最低限のものしか買わなかったから、溜まっていく一方だった。注文する内容を決めて、ワゴンカーの受付で注文を伝える。ぼくが頼むチョコバナナのクレープと、しんの期間限定のクレープとイチゴのクレープ。注文を終えて2分ぐらいだったあとに、品を受け取った。店員は少し驚いたようにクレープを渡す。
「はい、しん」
二つのクレープを先に受け取り、しんに渡した。そのあとに自分の分をもらった。
「あそこのベンチで食べよ!」
ベンチに腰を掛けると、しんがおいしそうにほおばりはじめた。ぼくも、ゆっくりと食べ始める。バナナが思っていたより熟していなくて、パクパクと食べることができた。
「うっま、空、これめっちゃうまい!」
しんはそんなぼくよりもハイスピードで食べ進める。一口食べたら違うクレープを一口、また別のクレープを一口、と交互に食べておいしそうに食べていた。あまりの食べっぷりに、自分の食べる手が止まってしまう。味がこんがらがってしまわないかとか、変な心配が頭にちらつく。
「空、手止まってるよ?いらないの?いらないよね、もらうね」
ぱくっと、しんはぼくのクレープに大きな一口をもらっていった。
「ちょ、それぼくのだったのに」
少し怒ると、しんはなぜか嬉しそうに言った。
「怒った!怒ったよね?」
「そりゃ怒るでしょ、人の勝手にとられたら」
でも、としんは言う
「新しい表情だよ!今まで慌てるか無表情の二つぐらいだったし…成長じゃない?」
「…そうだといいね」
「あーまたもどったぁ!」
ぶいぶいとぼやきながらクレープをお互い食べる。けなげだなあと思ってしまった。現実の波に干渉を受けていない、しんだけ現実というものから分離しているかのようなそんな笑顔だった。その笑顔に少しつられてしまった。しまった、と思って左手で顔を覆った。指の隙間越しにしんをみる。幸い、しんは夢中で食べていて気付いていなかった。それに、安心した。
――そして、違和感が心の中で増大した。
どうして、笑顔を相手に見せたくないのか。どうして、今、左手で自分の気持ちを押しつぶしたのか。どうして、ぼくらしいぼくを拒んだのか。
未来には絶望しか感じない。いつも、結果と成果、過程で評価されるのは学校だけ。必要じゃなくなったら切り捨てるだけ。何も楽しくなんかないはずだった。だった、っていうのは少しおかしいのかもしれない。今もずっと楽しくなんかない。でも、誰かいることの楽しさを今知れた、知ってしまった。
でも、ぼくは知っている。何かを知ったときにはそれに連鎖するように、悪が来ることを。
「――あれ、空じゃん」
二人の時間を、空気をつぶすように、安寧を乱すように、声が聞こえた。ゆっくりと、まるでロボット用に、ぼくは声が聞こえた方に、振り向く。
茶色の髪、少し焼けている肌、そしてあの屈託のない笑顔。
あぁ、ときだ。同じ高校の、同じクラスの、中学校からの幼なじみ。4人の男子を引き連れて、このへんで遊んでいたようだった。それは服装と、手に持っているバットから推測できた。ときは、グループに少し手を振り抜け出して、ぼくの方にやってきた。
「やっほ、空」
「…うん」
「こんなところで何してんの?一人でクレープ食べに来たの?まあ、なんでもいいや」
ああそうだ、と手を叩いて、
「またゲームしよーよ、空うまいじゃん。」
「…いいよ」
「てか、お前明日は学校来いよ、お前が来ないとつまらないんだけど」
「…」
黙ってしまったぼくにときは少し笑って、こういった
「なんかあったら俺に相談しろよ、俺たち友達だからさ」
「……うん」
「よし、それじゃーな」
「…ばいばい」
ん、と手を振って、待たせている4人の方に走っていった。その背中をぼくはただ、見ているだけだった。しばらくして、しんがぼくの体を激しく揺らした。
「ねえ、ねえってば、あの人だれなの?仲良さそうだったけど」
いつのまにかクレープを食べ終えていたしんがそう問いかけた。まだ残っているクレープをぼくは落ちないように気を付ける。
「ときだよ、仁茂智来。俺の…」
「友だち?友達だよね!仲のいい人いるじゃん。それならそのときってやつと一緒に遊べば」
「――違うよ」
その声は自分でもわかるくらい冷たく、棘を刺すようだった。
「…え?」
しんの声が空に響く。笑顔の奥から疑問が吹き出ていた。
「友達、じゃないの?」
ぼくの顔はもう、最初に戻っていた。自殺する場所へ向かった時のひどく、無神経な顔。
「友達…だったよ」
「それってどういうい—」
「—帰ろうか」
しんが何かを言うのを遮って、ベンチから立ち上がる。右手にあるクレープを見つめる。
「あげるよ、しん、このクレープ」
「あ、ありがとう、でも、まって」
「なに?」
「どうして、ときは友達じゃないの?あんなにやさしくしてくれてたじゃん。それなのに…」
訳が分からないとでも言いたげに、言葉が終わる。そして、違う言葉が続いた。
「教えてよ、俺に。わかんないよ」
沈黙がつづいた。10秒、1分、あるいはそれ以上。体感では永遠にも代えがたいほどだった。風が、ひゅうひゅうとぼくたちの髪を巻き上げる。しんはただ、黙って真剣な目で見ていた。ぼくはゆっくり口を開いた。
――もう、いいや。隠す理由も、ない。
そう、思ってしまった。
「ぼくさ、高校で、ときじゃないやつらにいじめられてるんだよね。いじめって言っても、殴られるとか蹴られるとかじゃなくて、もっと陰湿。荷物を盗んだり、ノートを破ったり、提出物の名前を変えて提出したり。」
淡々と何でもないように話す。
「でもときは、ずっとぼくのそばにいてくれたんだ。さっきみたいに、大丈夫?って聞いてくれたり、なんでかわからないけど、いてくれた。本当にいいやつなんだ。ほんとに、いいやつだった。」
ただ、と言葉を続ける。
「――あいつも、ぼくのこといじめてたんだ。」
「…っ!」
少し笑って、目をつぶる。なんだか涙が出てきそうな気がしたから。
「ぼくが言った悩みとか、言葉とか、全部、いじめのやつらに言ってたんだよ。」
しんは反論するように声を荒げる。
「でも、もしかしたら言わされてるってだけで、本当はときも嫌だったんじゃないの?そもそも、ときもいじめてるどうやってわかったの?」
ぼくは、首を振って断言する。諦めの感情を声にのせて。わかった、わかってしまったから、否定ができなかった。
「課題が出せなかったときに、放課後に補習があったんだよ。それが終わったときに、見ちゃったんだ。ときがいじめの男子と仲良くしてるところ。」
その日、廊下を歩いているときに、空き教室がなんだか騒がしかった。歩きながらちらりと見ると、そこにはメンバーとときがいた。足が止まった。背後からずっと見られているような気がして、急いで教室の扉に隠れた。扉に隠れて、肩で息をした。否が応でも言葉が耳から聞こえてきていた。それはまぎれもなく、ときの声だった。
「空がさ先週俺に相談してきたんよ。僕いじめられてるかもしれない、もう死にたいよって。で、俺がうんうんそうだね俺が守ってあげるからねって言ってあげてさ。そん時の顔と言えばよ。俺撮ってたからみる?」
「まじ?見たいみたい」「あいつときがいじめてることしらないよな」「お前が主犯なのにな」
「あいつ本当に死ぬかもな」
みなが声を出して、笑った。笑い声がぼくの胸をすり抜け、胸がポッカリと空いたような感覚がした。噓だと思いたかった。景色が黒一色に染まったような気がして、激しいめまいがした。信じられなかった。毎日、ぼくのところに来て、守ってくれるような動きをして、裏では鼻で笑って。もう、なにを信じればいいのかわかんなくなった。ちらりと、ほんの一瞬だけときの顔を見て、そのあとは走って家に帰った。最後に見たときの顔は初めて見た表情だった。薄気味悪く、片方の口角を上げて、そして本当に、本当に、楽しそうだった。心の底から、いじめを楽しんでいた。
悪の、顔だった。
「だから、ぼくは、だからぼくは生きることをやめた。」
乾いた笑みだった。死ぬ直前になった、あの表情と酷似していた。それを見聞きしたしんはどう思ったのか、うつむいた顔からはわからない。髪が目を、表情を隠した。
「そっか」
次の瞬間、肌が触れ合っていた。
「…え」
「じゃあ、俺が、お前を楽しませる。全部、全部、俺がお前になる。」
ぼくの目は見開いた。理解が、できなかった。一体何を言いたいのか。何にぼくは期待してしまっているのか。しんの言葉はつづいた。
「愛しさも優しさも生き方も、全部、俺から君にあげる。運命の日が来るその時まで、俺がお前を、空を幸せにする。俺がいるときの空をしっかりと空であれるようにするから。」
声は感傷的で、ひどく、慈しむような声音をしていた。
「ぼくは、もう、死にたいんだ。もう..いやだ。しんにはわからないよ、ぼくが生きることをやめたいって思った理由なんて、あれ以外にも…もっと、たくさん..」
ぼくはもう、涙をこらえきれなくなっていた。寂しさと、孤独と、安堵と、恐怖と、歓喜が混ざった涙。
じゃあ、としんは言った。
「教えてよ。何もかも教えて。言葉を交わそう。終わらせない。終わらせられない。運命は絶対だから、死ぬその瞬間まで幸せいっぱいで生きようよ。痛苦しんで死んでほしくない。俺が、君の一番の理解者になるから。…だからさ、やめなよ。その言い方。」
「い、言い方?」
「ぼく、じゃないんでしょ?一人称。俺の前だけは、隠さないで。」
甘い誘惑だった。隠していたこの思いをあっさりと見破られてしまった。
…それが怖くて、そして怖いの何倍も、うれしかった。
ずっと、施設で友達が離れていったそのときから隠すことが正解なんだと思っていた。自分をさらけ出したら、みんな消えちゃう。だから、匿って着飾って、生きてきた。そうしても、あまり変わらなかったけど、なぜか傷つかなくなった。ときの前も初めはそうだった。でも、ときの言葉につられて、偽の優しさに触れて騙されて、自分を出してしまった。その結果がこの通りだ。だから、ぼくはもう見せないって思っていたのに。らしさを消すって決めたのに。こうもまた、誰かに心預けようとしている。出会ってまだ、二日の青年に。
「ま、まだ...二日しかたってないのに、しんと会って二日なのに、」
「期間なんて、関係ないよ。大事なのは深さなんだから。俺は、空を守り抜くよ。」
涙がぽろぽろと落ちる。涙がこぼれる。その涙は地面に落ちることもなく、ただ、しんの服に染みついた。
「ぼくは…ぼ、ぼくは、僕は…このまま生きててもいいの?」
「それを否定する人がこの世界のどこにいるのさ」
夕日はついに落ち、夜がやってきた。孤独の暗黒の世界。それはもう、輝きにあふれた世界と変わっていった。自殺願望を抱いた少年は、青年によって変化した。
「帰ろうか。」
僕は返事を返せなかった。でも、態度が肯定を示した。
手を繋いで家に帰って、ご飯を食べた。夜ご飯は僕が作って、昨日と同じように、まずいと言われた。でも、そのときにしっかりと怒れた。そしたら、吹き出しちゃって、お互い笑い転がった。笑って、涙が止まんなくて、すごくうれしくて。風呂も入って、窓から月を見ていた。月がきれいな夜だった。満月の夜、二人で夜を明かした。昨日とは違って、お泊まりのような感覚だった。現実味がなくて、だけどたしかに現実で、それがたまらなくうれしくてまた泣いちゃった。泣いた僕にしんが拭いてくれて、結局寝たのは午前3時過ぎだったと思う。僕はいつの間にか寝息を立てて眠っていた。その顔はしんによるととっても笑顔だったらしい。
――空が寝ると、しんはこうつぶやき、夢の中にいった。
「運命の日まで、俺と一緒だからね。大丈夫、運命は残酷にみんなを救うから。」
—時は流れ、桜は散り、新緑の夏も過ぎて、紅葉が華やかに散り、冬がすぐ目前の季節がやってきた。その間、空の顔は日を増すごとに晴れていった。飽きたのか、冷めたのか、ときのいじめはだんだんと減っていき、空とかかわることはなくなっていった。学校では、今までと変わらず一人だ。変わらないが、家に誰かいるという安心感が空を救った。空にとって、しんはなくてはならない存在になりかけていた。ショッピング、映画鑑賞、ゲーム、食事、その他諸々すべてが、どちらもお互い誘いあい、どちらもそれを断ることはしなかった。決して。
今日は、7時に起きた。隣にあったぬくもりはもう消えていて、いつものように、朝ごはんを作っていた。朝食、昼食はしんが作って、夕食は僕が作る。いつの間にか決まったルーティーンだった。
「しんおはよう」
布団から立ち上がり、あくびをしながらしんの方に向かった。しんの背中に抱き着きついて料理を見る。
「何作ってるの?」
「今日は、フレンチトースト。先に座っといて。」
「わかった、でももうちょっとこのまま~」
むぎゅと、しんの背中に抱きついて離さない。いつものことで、しんはもう何も言わなくなった。
しん自身も顔がにやけているのは言わないことにしてる。これからしてくれなくなりそうだったから。一満足して、椅子に腰かける。離れたあとも、僕の目線はしんの背中をとらえて離さなかった。
しばらくして、フレンチトーストがきれいに盛り付けられた皿が置かれていた。
一口食べる。味は美味しく、いつも通り、完璧だった。
ひととおり食べた後、僕はしんに聞く。
「今日は何かする?」
しんは待っていたかのように目を輝かせて
「今日さ、映画行こ?俺行きたい映画あるんだよね」
「わかった。行こ」
準備して、直ぐ向かった。クローゼットの中にある服は多くなって、季節ごとに、服を片付けることになった。しんが来るまでは一つのクローゼットで春夏秋冬すべて対応できたけど、今はそんなことなくなった。そのことがすごくうれしかった。
着替えて、映画館に向かった。ポップコーンを買い、席に着いた。映画の内容は、環境にまつわるものだった。拡大する砂漠化、地球沸騰化、それらを暗示したアニメだった。たまにグロいシーンが出てきて、少し肩がびくっとした。ポップコーンは二人で一個分買って、一緒に食べた。たまに手が重なって、それにも少しびくっとした。映画が終わり、照明が暗くなっていた照明が光り始めた。
「なんか、考えさせられる映画だったね。でも僕的にはおもしろかったよ!しんは?」
「俺も!面白かった!いやー地球沸騰化やばいな。プラスチック使わない工夫しないとね」
「だね、見終わったことだし、ご飯食べて帰ろ」
近くのレストランでご飯を食べる。僕はペペロンチーノを頼んで、しんはカルボナーラを頼んだ。セルフサービスの水を2杯とってきて、しんのところにおいた。
「そういえば、なんでこの映画見たいって思ったの?そんな環境問題に興味あったっけ?いや、全く無いっていうことはないのはしってるんだよ、僕らエコなもの買ってるし。でも、そんなに関心があったんだーって思って」
「んーSNS見てたらこの映画の宣伝出てきて気になっちゃってさ」
「あーあるよね」
しばらくすると、店員さんがやってきて、
「こちら、ペペロンチーノと、カルボナーラでございます」
と言いながらパスタをテーブルに置いた。
「このパスタうま!」
と、しんがフォークを口の中に含んだまま言う。
「僕のもおいしいよ」
「まじ?ちょっと交換しよー」
お互いの皿を交換しながら食べあう。どっちも同じくらい美味しかった。個人的には、カルボナーラがうまくソースとパスタが絡まっていて好みだった。
パスタを食べ終えて、少しだべる。もうすぐあのゲームが発売されるから、絶対買おうとか、世界で一番高いホットドッグは27000円なんだとか、くだらない話をいっぱいした。店を出て、少し買い物をする。今日の夜のための野菜や、シャンプーを買う。一通り買って外に出ると夕焼け空だった。歩いて、家に帰る。
「今日も楽しかった!」
笑顔で嬉しそうにそういうしん。僕もうなずく。しんは僕が持っている荷物を持って、一緒に歩く。
「…帰ったら、何する?」
甘い声がしんから発せられた。
「僕はゲームしたい。昨日のリベンジ」
しんは意外そうに、目を開けてふっと笑った。
「そっか、じゃあゲームしようか。でもゲームのあとは俺のしたいこと一緒にしてよね。」
交差点で信号が青になるまで立ち止まる。少しの沈黙が続いた。気まずくもなんともない心地のいい沈黙。しんがふと、口を開けた。
「ねえ空、運命って覚えてる?」
「運命ね、覚えてるよ。はじめてしんとあったときにそう言ってたよね。」
「そっか」
「うん、それがどうしたの?」
「ううん、なんでもない」
「変な奴」
帰ったら何を作ろうかと今考える。スーパーでは安くなっている食材を適当に買ってしまった。今日は、久しぶりにしんと一緒に作ろうかなとそう思っているときに、しんが僕をハグした。
「…え?」
「ごめん、ちょっとこのままで」
周りの人が何事かとちらちらとみている。しんはそんなもの関係ないとでもいいたげに、力を強めて離さなかった。
「ちょ、しん?」
僕は少し恥ずかしくなって、聞き返す。僕の顔が赤くなっているのが感覚としてわかった。しんがゆっくりと、僕に問う。
「空、今楽しい?俺は今超幸せ。」
僕は当然こう返す。これしか、答えがないと思うほどに。
「あたり前。しんのおかげですっごくたのしーよ!」
しんのおかげで、人生が楽しくて、今を生きれて、これからも生き続けられると思った。あの時、死ななくてよかったって。本気でそう思えた。しんの前だけ、明るくもなれた。
「…そっか」
「そう、だから—」
そう言い終わるか否かで、しんは僕を強く、道路の方に強く突き飛ばした。
突き飛ばされた瞬間、スローモーションのような感覚を覚えた。突き飛ばされて地面に着くまでの1秒にも満たないその瞬間、ただ、しんだけをみていた。その顔はとても、悲壮、安堵、心配、喪失、激怒、この世にあるすべての気持ちをはらんでいるようなそんな表情をしていた、気がした。
「えは、し—」
言い終える間もなく、僕は車に跳ね飛ばされた。骨が折れる音が聞こえて、頭はくらくらして、宙に浮き、地面に激突した。周りから悲鳴の声が聞こえ、阿鼻叫喚だった。その中で、1人だけ、冷静そうに見える男—しんが僕のもとへとやってきた。とても、ひどい顔をしていて、声もかすれていた。
「ごめん、空。これが運命だったから。」
運命。その言葉がまた聞こえた。しんは確認するように、憐れむように、僕の手を握って、懐かしむようにこう言った。
「世界に住んでいるすべての人は、死に方が決まっている。死は、突発的に決まるものじゃなくて、ずっと前から決まってる。誰もが運命によって、いつかは必ず死ぬ。でも、けがするタイミングは決まってないんだ。それはその人の匙加減。まだ死ねない人が自殺しようとしても、しねなくてただ痛いだけ。」
足からは血が、腕からは血が、おなかからは骨のきしむ音が、聞こえる。それでも、激痛の中でも、なぜだろうか、しんの声ははっきりと聞こえた。ずっと、聞いていたいという思いが僕の中にあったからなのか。
「もし、俺があの時、空が自殺しようとしたときに、止めなかったらどうなっていたんだろ。死ぬことはないから、絶対、何かの因果で君は生きている。でも、けがをしないわけじゃない。大けがをして、今日この瞬間まで病院での生活をしているのかも。それはとても、悲しい、楽しめない人生。今日ほんとは、俺じゃない誰かが、君をあの世へ送る予定だったんだ。たしか、小さな女の子のきらちゃん。でも、その子がここに来なかったんだよね。まあ、今日彼女はここで死なないから仕方がないっちゃ仕方がないんだけど。多分、他の俺たちがミスっちゃたのかな」
しんは僕の前髪を上にあげる。そして、僕の顔を記憶するように、しっかりと見ていた。しんの手は赤く染まっていて、それで、頭からも血が出ていることを理解した。だけど、しんの言っていることがいつまでも理解できなかった。
「最後まで、人間には、空には楽しんでほしくて。生きててよかったって思えるために。そうするためにここにきて、お前と過ごした。そしたら、俺お前のこと好きになっちゃって。なんだかんだ、今日まで一緒にいちゃった。
…ねえ、俺のこと嫌いになった?」
シンの声は、はっきりと聞こえてその声は、少し震えていて不安そうだった。僕は精一杯、ぶんぶんと首を振った。最も、首自体はほとんど動いてなかったのだけれど。もう僕は力を入れることができない。死がもう目の前まできていた。死が、手を振って待っている。直感で、そう感じた。
僕は、しんがいなければ、生きられなかっただろう。僕じゃなくて、「ぼく」として生活して、毎日死んだような気持ちでいただろう。しんは暗い足元を照らすような、僕を安心させてくれるような灯火でいてくれた。この気持ちは感謝よりももっと大きくて、運命すらも超越するものだ。あの日から始まった、二人が主役の二人による、二人のための物語は、僕に、愛しさと全部を本当に、くれた。
だから僕はこういった。言いたかった。タイミングがなかっただけで、今、気持ちが爆発した。できる限り、大きな声で言った。かすれ声なりに、懸命に。
「あい...し...てる」
それは恋、愛ではない。言霊だ。お互いを縛り付けるための、ただの言葉。二人を絡ませ、永遠に離さないようにする、鎖、呪いだった。
しんは唖然としたように口を開けて、少し、ほんの少しだけ笑った。そして、甘い声で、かぐわしく、少し、嬉しそうに、涙を流しながら耳元でこう言った。
「あの世で会おう」
僕は笑顔で
—死んだ。
世界で一番幸せな死に方だった。少なくとも、僕にとって、周りには、白い羽が落ちていたという。
――目が覚めると、蒼い空と碧い湖が目に入った。水の上に、僕が浮いていた。その非現実感で、死んだのを直感した。でも、気持ち悪くなんかなくて、胸の中に残る後悔すらもなくて、ただ、すがすがしかった。一歩歩くごとに、水が水の波をつくって、円状に広がっていく。目的地を示す矢印もなく、ただ歩いていく。道なんていうものはなくて、己の勘で進んでいく。なんとなく、こっちが正解なような気がして、前へ進む。本当に美しい世界だと思った。ここは一体どこなのだろうか。天国、地獄、それとも…。何もないし、なんでもありそうなそんな感じがした。
二分ぐらいで、白い階段が目に入った。一つ一つが分かれていてどうして浮いているのかがわからない。それにたどるように昇っていくと、玉座があった。そして、それに座る青年が一人。
「「…空/しん」」
二人同時に声が出た。
シンの服は、ローブのような何かで、ところどころ破れている白い服だった。それを見た瞬間に疑問が確信に変わった。小さな違和感が正解へと辿り着いた。
「やっぱり、神様だったんだね」
「…気づいてた?」
「そりゃ気づくでしょ。死ぬときに荷物おいてたのにいつの間にかいるし、しんの影はできないし、神の音読みがしんなんだもん」
「あはは…流石に安直すぎたかも」
しんは軽く笑ったあと、こほんとせきをして、腕を広げてこういった。
「俺は全知全能、容姿端麗、成績優秀、才色兼備、智勇兼備のカミサマ。神の中で、人間を最も愛して、天使の仕事もする。この世界のてっぺん、第29代宇宙トップのカミサマ、シン・ミヤ・バーリエリ・フュジオネル、名のもと割愛、シン!」
しん―改めシンは自信満々に胸を張ってそういった。そして最後に、
「そして、人間に恋をする面白いカミサマ。」
といい、すぐに2人で抱き合った。笑顔で、笑って。
—これから始まるのは、二人だけの誰にも干渉できない、永遠に続くストーリー。
世界からも隔てられているこの世界で、二人は何年も、何億年も、一緒に暮らして、何万回の夜をともにして、何兆回も笑いあう、それが言霊に込められた力だった。宇宙よりも広く、永遠よりも長い愛の深さが二人を柔く包み込んだ。
時に地球へ、時に火星へ、時に、はるかかなたまで。様々な場所へ行って、いくつものことをして、明日を待つだろう。
もしかしたらそれが、空—青木空に与えられていた運命だったのかもしれない。そう感じてしまっても仕方がなかった。少なくとも空はそう思ったらしい。
空はシンにこう言った。
「ずっと、ずぅーと一緒に、過ごそうね!」
ハグは続き、10秒、1分、10分と伸びていってもどちらもやめることはなく、二人の間に、幸せが舞い降りた。
言霊で、恋は愛に、愛は呪いに、呪いは一心に、一心は共鳴にかわり、世界がそれを祝福した。
カミサマの恋人誕生の瞬間だった。
どうも、作者のおかピーです。この話は、ずっと書いてみたい話でした。もし、心のどこかで少しでも面白い、なんか癖のある作品だなと、心に残ってくれたのならとっても嬉しいです。




