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仮面勇装マスクド・ブレイブ ~異世界でヒーローやらされてます~  作者: 白峰レイ


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4/10

第4話「現代人なめんな」

夜明けの空気は、昨日より冷たくなかった。

代わりに、現実が重い。


森の端から街道らしき土の道に出たあたりで、俺はもう一度ため息を吐いた。


「……半日歩くって、普通に拷問だろ」


前を歩くユーリは振り返らない。

フードはそのまま。足音も静かだ。


「文句が多い」


「文句じゃなくて文化の差だよ」


俺は腰のブレイブドライバーを見下ろし、つい叩く。


カン。


『現在地:不明』

『推奨:街への到達』


「推奨じゃなくて送迎しろ」


当然、返事はない。


道は単調だった。

森が遠ざかり、畑みたいな土地が増えて、時々、石で囲われた小さな祠が見える。


俺は歩きながら、視線だけで周囲を探す。


(車は? バスは? せめて自転車は?)


——ない。


「なあユーリ」


「何だ」


「車はねぇのか? バスは? 電車は?」


少し間があって、ユーリが淡々と返す。


「馬車のことか?」


「馬車でもいい!」


「軟弱なやつだ」


「現代人舐めんな。文明が人をダメにしたんじゃない、文明が人を救ったんだよ」


「何を言ってるんだ?」


「文明が遅れてる……っ」


呟いた瞬間、肩の傷がズキッと疼いて、足がもつれた。

昨日の傷が地味に痛い。踏ん張りがきかない。


俺は息を整えようとして、また文句が出た。


「スマホもねえし、暇だし……マジでやることねぇ」


「歩け」


「それが暇だって言ってんだよ!」


ユーリは歩く速度を変えないまま、少しだけ首を傾けた。


「……ユウヤ」


「んだよ」


「お前はどこから来たんだ?」


来た。

当然の質問。むしろ今まで聞かれなかったのが不思議なくらいだ。


俺は歩きながら、空を見た。


「……分かんねぇよ。昨日までスタジオで“撮影”してた」


「スタジ……?」


「スタジオな。特撮ヒーローの撮影だった」


「……ヒーロー」


ユーリがその言葉を口の中で転がす。


「昨日も言っていたが、この世界の言葉ではないな。どういう意味だ?」


「あー、人を助けたり……まあ、勇者みてえなもんだな」


ユーリが、ほんの少しだけ驚いたように見えた。


「そうか……ユウヤも大変なのだな」


少し沈黙が続く。


「……では、その腰帯がヒーローの証のようなものなのか?」


「そうだと思う、残念ながらな」


俺は腰のブレイブドライバーを見下ろす。

叩いても、今は無言だ。空気を読んでるのか、単に充電切れか。


(充電って何だよ)


俺は気を紛らわせるように聞いた。


「なあ、ユーリ」


「何だ」


「昨日の……あのバケモンみたいな狼、何だったんだ?」


「あれは、瘴気によって変化した狼……魔物の一種だ」


「魔物……」


「……覚えておけ。あれはまだマシな方だ」


「マシ!?」


ユーリは平然と言う。


「森にはもっと危険なものがいる」


「やめろ。情報が重い」


しばらく歩いて、ようやく景色が変わった。


遠くに、石壁が見える。

門。塔。人の影。煙。


「……街だ」


俺は思わず声が漏れた。


「やっと文明だ!!」


近づくほど、生活の匂いが増える。

薪の煙、家畜、パンみたいな匂い。


門の前には、槍を持った見張りが二人。

俺たちを見る目が鋭くなる。


特に——ユーリを見た瞬間、空気が変わった。


「……その剣……」


「まさか……勇者ユーリ様……!」


見張りが姿勢を正す。声の調子が一段下がる。


ユーリは特に反応しない。

ただ、軽く頷いただけ。


「通る」


「はっ!」


門が開く。

俺たちは何の検問もなく通された。


俺は横目でユーリを見る。


(マジで有名じゃねぇか)


小声で言った。


「超有名人じゃん」


近くを通った娘が声をかけてくる。


「勇者様!……握手してください!!」


その声を聞いた人々が集まってくる。

道が一瞬で塞がりそうになる。


「すまないが、先を急いでいる」


即答。


その様子に俺はニヤッとする。


「気持ちはよくわかるぞぉ! 一銭にもならねえもんな」


ユーリが、歩きながら淡々と返す。


「そんな理由ではない。ユウヤは性格が悪い」


「悪いのは認めるけど、お前もだろ!」


街の中は——思ったより“街”だった。

石畳。屋台。干した布。鍛冶屋の金属音。


人々の目線が俺たちに集まる。

ユーリに、そして——俺の腰のベルトに。


「……勇者様の隣の男は誰だ?」

「従者か?」

「いや、あの腰の……」


(目立ちたくねぇ……)


俺は無意識に腰を隠そうとして、逆に目立つ。


しばらく歩いたところで、ユーリが言った。


「ここからは別れる」


「え?」


「お前はこの街で生きる術を探せ。私は用がある」


「用って何だよ」


ユーリは少しだけ黙って、言った。


「……私には使命があるからな」


使命。

言い方が重い。昨日の剣の切れ味と同じ重さ。


俺はそれ以上突っ込まなかった。


代わりに、現実的な質問を投げる。


「俺、金ねぇんだけど」


ユーリは腰の袋から硬貨を二枚出して、俺の手に落とした。


チャリン。


「大銅貨2枚だ。これで水とパンは買える」


俺は硬貨を見て、思わず笑った。


「勇者の割にはしけてんなぁ」


ユーリが手を伸ばす。


「じゃあ、返せ」


「待て待て待て! 冗談冗談!」


俺は硬貨を握りしめた。


「まっ、今度返すわ」


ユーリはフードのまま、短く頷いた。


「必ずだ」


「はいはい。借金は返す主義」


ユーリが踵を返す。

人波に紛れて、すぐに見えなくなりそうになる。


俺は慌てて声を投げた。


「またな、ユーリ!」


フードがわずかに揺れた。

返事かどうか分からない程度に。


それで十分だった。


俺は一人、街の真ん中に立ち尽くした。


腰のブレイブドライバーが、控えめに点滅する。


『クエスト:勇者と街へ行けをクリア』

『ヒーローポイント(1)を獲得しました』


「……こんだけ歩いて、あの“ブリーフ”の分だけか」


俺はため息を吐いて、まずはパン屋を探すことにした。


――生きるために。

そして、次に変身したときのために。


いつか、変態を卒業するために。

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