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仮面勇装マスクド・ブレイブ ~異世界でヒーローやらされてます~  作者: 白峰レイ


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第25話「希望の火」

ユウヤさんがギルドを出ていった直後――

空気が、目に見えて悪くなった。


「……やっぱりな。所詮は余所者よ」

「逃げ出すに決まってる」


言葉は軽いのに、胸の奥に刺さる。

絶望が街を覆うと、人は誰かを“理由”にしたがる。


俺は、拳を握った。


(逃げた?)

(あの人が?)


――ありえない。


だって、あの目だ。

出ていく直前、ユウヤさんは俺たちを見なかった。

見ないようにして、出ていった。


……あれは、逃げる人間の顔じゃない。

背負った人間の顔だった。


その瞬間、レオンさんが噛みついた。


「アニキはそんなんじゃねえ!」


吐き捨てたのは、別のハンターだった。

腕に古傷。目に諦め。この街に根を張った、疲れ切った顔。


「Dランクに上がったのも急だったしよ。

怪しいよなぁ。ゴブリンの大量発生も人為的だったんだろ?」


空気が変わった。


俺の中で、何かが冷えた。


一歩。

勝手に足が前へ出る。


「……それ以上言ってみろ」


声が、自分でも驚くほど低かった。


「殺すぞ?」


男が鼻で笑う。


「やってみろよ、ガキが」


殴り合いが始まる――その直前


ドン。


机を叩く音が、雷みたいに落ちた。


「それどころじゃねえだろ!!」


ギルド長だ。


普段は事務作業に追われている丸い男。

でも今は違う。

声が“場”を支配する。元Bランク――その重さだ。


「今やるのは、住民をいかに一人でも多く――」


言いかけて、ギルド長は言い淀んだ。

この状況で「避難」なんて言っても、意味が無いと分かってる顔だ。


それでも言うしかない。


「……避難させることを考えることだ」

「避難誘導役は若いヤツらに頼む!」

「それ以外は、少しでも時間を稼ぐために各々準備しろ!!」


現実が、全員の顔から血の気を奪った。


“逃げなきゃ終わる”

そして同時に

“逃げても間に合わない”


それでも人は動く。

動かないと、耐えられないからだ。


ハンターたちが散っていく。

装備を整え、家族に声をかけ、馬車を探し、荷をまとめる。


俺も動こうとして――

隣にいる、レオンさん、カイルさん、ミーナさんが、動かなかった。


「……ガイ」


レオンさんが、俺だけに聞こえる声で言った。


「アニキは、逃げたと思うか?」


俺は即答した。


「思わない」


カイルさんが、短く頷く。


「あの人は、逃げるなら最初から逃げてる」


ミーナさんが唇を噛んで、絞り出すみたいに言った。


「……一人で戦いに行ったのかもしれない」


喉が、ひりついた。


ジェネラル率いる五百。

普通なら自殺だ。


でも――

ユウヤさんなら、やりかねない。


そして、それを止められないのが、悔しい。


(俺たちが弱いからだ)


そのときだった。


――ドォンッ!!


ギルドの床がわずかに震え、天井の埃が舞った。

続けて、嫌な音が走る。


パキ……パキパキ……。


誰かの声が震える。


「……えっ」

「街の結界が……」

「結界石が壊されてるぞ!?」


外から、叫びが重なって駆け抜けていく。


俺も反射で外を見た。


大きな――


パリンッ!!


乾いた破裂音とともに、街を覆っていた“透明な壁”が砕け散った。

割れたガラスみたいに光り、粉になって消える。


結界が壊れた。


それは――街が“裸”になったということだ。

魔物にとって、餌場の看板を掲げたのと同じ。


街が一気に、パニックに沈む。


「急いで避難させろ!!」

「なんで!? 誰がこんなこと……!」


噂が噂を呼ぶ。


黒いフードの誰かが砕いた。

結界石が爆発した。

気が狂ったやつが割った。

闇ギルドだ。

魔王の手先だ。


――何が本当かは、誰にも分からない。


分かるのは一つだけ。


“ゴブリン関係なく、もう逃げなきゃ死ぬ”


そのとき、今度は南西方向。


ドォンッ!!

ドドドド……!!


地面が揺れるような爆発音。

そして、火柱。


遠くの空が赤く染まった。


俺の背中が、ぞくりとした。


(……戦ってる)

(あそこで、誰かが……時間を稼いでる)


ギルド長が、歯を食いしばる。


「避難誘導は任せる!」

「俺は、様子を見に行く!」


そして、こちらを見た。


「……明日への誓い」

「ゴンズ」

「動ける奴、ついてこい!」


ゴンズのおっさんが、包帯だらけの体を無理やり起こす。


「……ふん、行くしかねえか」


俺は、迷わなかった。


「俺も行きます」


ギルド長が一瞬だけ俺を見る。

“新人”として使うなら、避難誘導が正解だ。

でも――


俺の目は、逸れなかった。


(あの人を一人にしたくない)


ギルド長は、短く頷いた。


「……死ぬなよ」


「はい」


レオンさんが笑った。笑えてない笑顔だ。


「当たり前だろ。俺ら、アニキの弟分だぜ?」


カイルさんは何も言わず、杖を握り直した。

ミーナさんは胸の前で祈るみたいに手を組み、すぐ前を向く。


俺たちは南西へ走った。



森に入った瞬間、匂いが変わった。


血。

焦げ。

そして、瘴気の生臭さ。


足元に、転がっている。


ゴブリンの死体。

ホブゴブリンの死体。

焼け爛れ、潰れ、折れ、引き裂かれ。


見渡す限り死体だらけだった。

足の踏み場がない。


「……多すぎる」


誰かが呟いた。

返事はない。

全員、同じことを思っている。


さらに奥へ進むと、硬い金属の破片が落ちていた。


焦げた鎧。

斧の刃の欠片。


そして――


ジェネラルの死体。


「……は?」


声が、勝手に漏れた。


(こんなの……一人で……?)


胸の奥が、熱くなる。

怖さと、誇らしさと、怒りが混ざって、息が詰まる。


生き残りのゴブリンが一箇所に固まっていた。

焼けて呻き、統率もなく、何かを囲んでいる。


それを見つけた途端、レオンさんが走った。


「アニキィ!!」


止める暇もない。

俺も走った。


遅れて、他のメンバーも走る。


残っているのは数十。

それも焼けただれて、弱っている。


――統率の取れていないゴブリンなど、ハンターの敵じゃない。


残党の駆除が、一方的に始まった。


レオンさんがゴブリンを斬る。

カイルさんの魔法が爆ぜる。

ミーナさんが光を飛ばし、ゴンズのおっさんが魔法と斧で叩き潰す。


俺も剣を握り直し、目の前のゴブリンの喉を裂いた。


「一匹も逃すな!」


血が跳ねる。

でも、今は気にしてる場合じゃない。


そして――


ゴブリンの残党は、狩り尽くされた。


その中心に、倒れている男がいた。


――ユウヤさんだ。


変身は解除されている。

包帯なんてない。

服は裂け、肌は焦げ、血と煤で黒い。


胸が、かすかに上下している。


(生きてる)


レオンが、身体で庇うように前に立った。

声が震えている。


「アニキ……死ぬな……!」

「死ぬなよ!!」


ミーナさんが膝をつき、ユウヤさんの胸元に手を当てる。

光が溢れ、傷口が少しずつ塞がっていく。


「お願い……お願い……!」


でも、ミーナさんの顔色がどんどん白くなる。

魔力が尽きるのが分かる。


カイルさんが叫ぶ。


「ミーナ、無理するな!倒れる!」


「……止めないで!」


ミーナさんは歯を食いしばった。


「この人が……この人がいなかったら……!」


光が揺れて、弱くなる。

それでも、最後まで繋げようとする。


俺は、喉が熱くなるのを感じながら、言った。


「……運びます」


ゴンズのおっさんが、ユウヤさんの状態を見て唸った。


「……こりゃ、ギリギリだな……」


ギルド長が即断する。


「担げ!戻るぞ!」



街へ戻る道が、地獄だった。


結界はもうない。

森の端まで、空気がざわついている。


街に入ると、泣き声と怒鳴り声が渦になっていた。

荷車がぶつかり、馬が暴れ、子供が叫ぶ。

人が“崩れる音”がする。


俺たちはその中を掻き分け、ギルドへ走った。


治療室に運び込んだ瞬間、白衣の女が飛び込んできた。


「……ユウヤさん!?」


シエラさんだ。


シエラさんは、迷いなく手を当てた。

回復の光が、ぎゅっと濃くなる。


「ミーナ、ここまででいい!あなたは休んで!」


ミーナさんが膝から崩れ落ちる。

でも目だけは、ユウヤさんから離れない。


シエラさんが何度も回復魔法を流し込む。

一回じゃ足りない。二回でも足りない。

それでも、止めない。


「お願い……せめて、目を……」


その声は、祈りだった。


治療室にいる全員が、息をするのを忘れていた。


――この一人が。


ジェネラルを二体。

ホブゴブリンを数十以上。

ゴブリンを数百。


たった一人で。


「……希望だ」


誰かが呟いた。

その言葉が、重く落ちた。


レオンさんが泣きそうな顔で笑う。


「だから言っただろ!!」

「アニキはすげえんだって!!」


でも――現実が追いかけてくる。


ギルド長が、沈んだ声で言った。


「……次は、キングが来る」


空気が凍った。


ゴンズのおっさんが、低く続ける。


「……結界石を壊したのは」

「この街の侵攻が失敗したことを……“知らせる”ためだったのかもしれねえ」


誰も返事ができない。

今回攻め込んできた中にキングはいなかった。

つまり、本隊は別の街を攻めている。


グレンの森を挟んだ反対側には2つの街がある。

カナックとランベルという街だ。


一番近いカナックからグレンまで、馬車で三日。

“本隊”が動いたら、数日はあるはず――


「……いや」


住民を連れて動けば、三日どころじゃ済まない。


「数日なんて、ない」


誰かが叫びかけた。


「それでも住民を連れて避難なんて――」

「無理だ!」


ギルド長は、拳を握り締めた。


「……そうだ。無理だ」


一拍。


「だから、王都は目指さない」


全員が顔を上げる。


「王都へ行く途中にあるパルマの街を目指す」

「結界を割られた今、この街で籠城は不可能だ」

「パルマで王都の援軍を待つ」


言葉が、刃みたいに重い。


「これしか生き残る術はない」


沈黙。

誰も反論しない。できない。


ギルド長は全員を見回し、言い切った。


「そうと決まれば、やるぞ……」


そして。


「生き残るぞ!!」


その声を聞きながら、俺は治療室を見た。


シエラさんの光が、消えそうで消えない小さな火みたいに揺れている。

ユウヤさんの胸が、まだ上下している。


呼吸だけを残して。

でも、確かに生きている。


(……この人が繋いでくれた)


胸の奥で、何かが燃えた。


(俺たちは――まだ終わらない)


外では、荷車の音が止まらない。

泣き声も止まらない。

街が崩れていく音が止まらない。


それでも。


この小さな治療室にだけ、火が灯っていた。


――希望の火が。


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