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最低の趣味

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/02/14

 私には最低の趣味がある。

 それは才能の欠片もない人間を見つけてこう言ってやることだ。

 今回見つけた男の子もまた私の言葉を真に受けた。


「すごい! 本当にすごい! あなたみたいに努力が続く人は見たことがない!」


 男の子は嬉々として努力をするようになる。

 才能の欠片もないくせに。


「馬鹿丸出し」


 冷ややかに陰で呟きながら、私は褒め続けてやる。


「やっぱり才能あるよ! あなたみたいな人は初めて見た! 勇気をもって! 必ずあなたなら成し遂げられるよ!」


 どんな場所でも。

 どんな時でも。

 どんな状況だって。


「本当に馬鹿丸出し。この状況で努力するなんて」


 この趣味。

 本当に最低。

 だからさ。

 ろくな死に方しないだろうなって確信はしていた。


「さっさと逃げて。未来の勇者様」


 泣き続ける男の子に私は言ってやる。


「はぁ? 馬鹿言ってんじゃないよ。確かにあなたは才能があるけれど、この苦境を乗り越えるには弱すぎるの」


 突き飛ばす。

 それなのに立ち上がって言う。

 一緒に戦うんだって。


「あなたはこんなところで死んでいい人間じゃないの」


 あぁ、私。

 死ぬ間際でも趣味を楽しんでる。

 本当に私は救えない人間だったなぁ。


 何の才能もない男の子を強い意志で追い返し。

 私は呼吸を一つして死に向かう。


「クズにはお似合いの末路ね」


 そう呟きながら。



 *



 後年。

 魔王退治を成し遂げた勇者は事あるごとに語っていた。


「勇気をもらった。とても偉大な人に」


 それが誰を差すのかは誰も知らない。

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― 新着の感想 ―
こういう、多くを語らない静かな感動もの大好きです。 不器用なキャラも好きです。 めちゃくちゃいい話ですね。 素敵な話をありがとうございます。
 これこそは智将の才たる人心掌握の術、故に悍ましくもある帝王学のそれですね。
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