第03話サーミラ短章 - まかせてしまった後の甘さ
回復とは、
劇的な出来事ではない。
身体が少し軽くなり、
呼吸が深くなり、
「今日は大丈夫だ」と
自分で分かるようになること。
この短章は、
そうした回復の途中で、
一つの甘さに気づいた時間の記録である。
目を覚ましたとき、
熱はもう、引いていた。
身体は重いが、
それは回復の重さだ。
立てないほどではない。
——あたりまえだ。
三日も寝ていれば、
誰だってこうなる。
サーミラはそう考え、
寝台の縁に腰を下ろす。
卓の上に、
見慣れない小さな壺がある。
布で包まれ、
結び目はほどけないように、
だが急ぎすぎない結び方。
蜂蜜。
量を見ただけで分かる。
多すぎない。
残ることも、
足りなくなることもない。
湯を沸かし、
葉を入れ、
匙で一杯。
——まかせて、とは
——こういうことかもしれないな。
甘さは強くない。
喉に残らず、
身体の内側にだけ留まる。
薬ではない。
施しでもない。
修道女——
あのイフランジーヤは、
そういうものを選ぶ。
名前は、思い出さない。
思い出す必要がない。
夜のあいだ、
彼女はただ、そこにいた。
余計な言葉も、
境界を越えた顔も、
どちらも残さず。
「……変わったイフランジーヤだな」
サーミラは独り呟く。
紅茶をもう一口飲み、
静かに息を吐く。
回復した身体には、
これで十分だ。
あとは、
いつも通りに戻ればいい。
あたりまえのことだ。
サーミラは、
この夜を振り返らない。
看病されたことも、
弱っていたことも、
あえて言葉にしない。
代わりに残ったのは、
喉に残らない甘さと、
正確すぎる量の蜂蜜だけだ。
それは、
感謝でも、信頼でもなく、
ましてや誓いでもない。
ただ、
「そういう人がいた」
という事実として、
静かに置かれる。
回復とは、
過去を整理することではない。
今日を、
いつも通りに始められること。
サーミラにとっては、
それで十分だった。




