第04話ベアトリクス短章 - 聞いてほし(くな)い、おもしろ(くな)い
誰にも見せるための言葉ではない。
だからこそ、
いちばん正直な形で残ってしまう。
今日は書かない。
……って決めたのに、書いてる。
決めたことはだいたい守れない。
ママはいない。
パパはいない。
最初から数が足りなかったのに、
途中で引き算された気がするのは、
あたしの計算が下手だからだと思う。
リヒャルトは優しい。
たぶん。
でもそれは、
私が壊れたら困るからで、
壊れないように置いてるだけ。
箱みたいに。
小さい頃から知ってる、って言うけど、
知ってるのは
「泣く私」と
「言うことを聞く私」だけだと思う。
それ以外は、
面倒だから見てない
(羽ペンを戻してインクで塗りつぶす)
見えないだけ、かもしれない。
あの三人はおもしろい。
うるさい。
笑う。
笑うのに、
もういなくなる顔をしてる。
最初から途中の人たち。
残るのは、
私。
エルサの髪、ほんとに嫌。
きれいすぎ。
ずるい。
触らなくてもきれいって分かるのが嫌。
どうやってあんなふうになるんだろう。
洗ってる?
祈ってる?
生まれつき?
公女じゃないから?
聞いたら、
負けな気がする。
でも、
ちょっとだけ、
ほんのちょっとだけ、
聞きたい。
昨日、
エルサが笑ったとき、
私も一瞬だけ、
笑ってた。
たぶん。
私の髪は重い。
首が引っ張られる。
切ればいいのに、
切ったら私が減る気がして切れない。
誰も私を分かってない。
分かろうとしてない。
……分かられたら困る。
困るはずなのに、
それでも腹が立つ。
羽根が欲しい。
生えたら飛ぶ。
飛んだら落ちる。
落ちる前に羽根が落ちる。
羽根が落ちたら私が飛ぶ。
(意味わからない)
全部燃えたらいい。
城も、
道も、
名前も、
私も
(「私も」はインクで塗りつぶして消す)
昨日、
鍵の音を聞いた。
誰にも言ってない。
鍵の音の数を、
ちゃんと覚えてる。
何を書いてるのか分からない。
文字が歪んでる。
明日、
エルサに話しかけられたら、
髪のこと聞くかもしれない。
聞かないかもしれない。
たぶん聞かない。
終わり。
字が汚い、ほんとイヤになる。
この日記は、
助けを呼んでいない。
だが、
何もなかったとも言っていない。
残ったのは、
言葉だけだ。




