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創作論2:男とは暴力&猥褻コンテンツ

原案:蒼風 雨静  作;碧 銀魚

 翌日。

 ゆり子はタブレットで描き終えた絵をパソコンに転送し、クリオリを起動させた。

『こんにちは、田中ゆり子さん。』

「こんにちは。早速だけど、主人公を描き直したから、見てくれない?」

『はい、お任せ下さい。』

 ゆり子は先程描き終えたばかりの絵を、アプリに放り込んだ。

 今回は成人の美男子で、身長も高くし、見た目も全く子供っぽくないものにした。これなら、“子供規制”には引っかからないだろう。

 待つこと、3秒。

『残念ながら、このキャラクターデザインで漫画を描くことは出来ません。』

 またも、返ってきたのは非情な答えだった。

「えー!?どうしてー?」

 機嫌を損ねた子供のように、ゆり子は頬を膨らませた。

『このキャラクターは男性だからです。男性の表現は、現在規制されており、公開や放送することは出来ません。』

「えええええええええええええええ!?男の人って、描いちゃダメなの?」

 ゆり子はまたぶっ魂消た。

『はい。現在、公開されている漫画、小説、アニメ、ドラマ、映画などは、全て女性の登場人物のみで構成されています。男性が出てくるのは、規制が開始された2057年以前のもののみです。』

 これまた、手当たり次第に漫画を読んでいたゆり子は、気付いていなかった。

 だが、言われてみれば、最近たまにテレビを点けても、女性しか映っていない気はするし、インターネット上の動画の配信を見ても、最新のものは女性しか出てきていない。

「何でそんなことになってるの?」

『男性は暴力的コンテンツを好む傾向があり、また性犯罪において、加害する側になることが殆どとなります。その為、創作物に登場させるには、不適当ということになり、規制されることとなりました。』

「それって、男性差別じゃないの?そっちのほうが、不適当じゃない?」

 ゆり子は当然の疑問を口にした。

『日本を含む多くの国では、長く男尊女卑が当たり前をされてきました。これまでが男性優位過ぎる社会であった為、一見そう感じられますが、今の扱いで男女の社会的パワーバランスが丁度保たれている、というのが政府の見解です。』

「マジでか……でも、そんなに男って“悪い”存在なの?」

『はい。脳科学的に見ても、性衝動を司る性的二型核のニューロン数は男性の方が多く、性衝動を強く発生し易いとされています。また、性的な作用を司るニューロンと暴力的な作用を司るニューロンは絡み合っており、どちらか一方が活性化すると、もう一方も活性化するという研究結果も出ています。男性のこのような脳の反応は、現代社会においては極めて不適格であり、また、歴史上の数々の戦争や犯罪も、ここに起因すると言われています。それにより、膨大の数の命がこれまで失われており、また膨大な損害が世界各地で齎されてきました。その為、男性というコンテンツそのものを規制するのが、適当と考えられるようになりました。』

「ん~……でも、女だって犯罪や暴力的なことは起こすし、性犯罪だってやるじゃん?」

『それらは極めて数が少なく、例外と考えられます。』

「そーかなぁ……」

 どうにも、ゆり子は納得いかない。

『実社会では、男性のこうした暴力性や性衝動を如何に抑えて、真っ当な成人に育てるかが、教育学上の大きな課題となっています。その一環で、創作物から男性という存在を消し、暴力的性的コンテンツを抹消することとなりました。こうすることで、そもそも暴力的なものとは何なのか、性的なものとは何なのかを知ることなく、男性は育つことが出来、健全に成長するのではないかと、考えられています。』

「で?実際そうなってるの?」

『まだ規制が始まって3年なので、効果は定かでないと言われています。』

「10年後が楽しみね。」

 ゆり子は皮肉を言った。

『そうですね。きっといい結果になることでしょう。』

 だが、AIであるクリオリには通用しなかったらしい。

「でもそうなると……子供はダメ、男はダメ、ってなると、主人公は成人女性にするしかないってこと?」

『そうなります。現在、出版・公開されている創作物のほぼ全ての登場人物が、成人女性となっています。』

「そうなると、男の子供なんて、さぞかし生き辛い世の中なんでしょうね。」

 ゆり子は同じ学校に通う、同級生を思い浮かべた。

 何気なく一緒に過ごしていたが、彼らは自分に比べても、ベリーハードな人生を余儀なくされているのだ。

「じゃあ、また主人公は描き直しか……成人女性オンリーね。」

 ゆり子は溜息をついた。

『それを推奨します。』

「でも……それにしても、現代は男の負担が多過ぎない?あたしは女だから、あんまり気にしてなかったけど。」

『確かに、脳科学的には、現代社会は過去に比べて、男性の脳にかかる負担が大きいと言われています。その証拠として、ここ10年で男性の平均寿命が急激に短くなっているという統計データもあります。これは、暴力的なコンテンツや性的なコンテンツが規制されているのが原因ではないかとされています。』

「えっ?それってヤバくない?」

『労働力不足という形で、社会問題になりつつあります。また、妊娠段階で胎児が男性と分かった時点で中絶する母親も多い為、人口のバランスが崩れてきていると言われています。これも少子化の原因となっている為、政府が対策に乗り出していますが、効果が出ていないのが現状です。』

「そりゃそうでしょ。男に産まれたら、それだけで、人生バツゲームじゃん。」

『そこで、近年研究されているのが、男性の脳の負担を軽くする方法です。』

 ゆり子は首を傾げた。

「何それ?そんな方法があるの?」

『はい。前述の通り、男性の問題行動の原因は、脳の性的二型核及びその周辺のニューロン及び神経系の構造にあります。そこで、男性の脳の性的二型核の一部を破壊することで、男性の性的衝動や暴力性を消せるのではないかといわれています。実際、マウスを使った実験では既に成果が出ており、今後人間でも―』

「あーーー!やっぱりいい!怖い!」

 ゆり子はパソコンの電源を落とした。

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