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創作論1:子供とは18禁表現である

原案:蒼風 雨静  作;碧 銀魚

「……というわけで、今日からあたしはクリエイターを目指そうと思います。とりあえずなりたいのは、漫画家兼イラストレーター。よろしくお願いします。」

 ゆり子はパソコンに繋がったマイクに向かって宣言した。

 すると、同じくパソコンに繋がったスピーカーから合成音声が流れ始めた。

『宜しくお願いします。私は創作補助AI“クリエイト・オリジナリティ”です。田中ゆり子さんが快適に創作活動を出来るよう、サポートしていきます。』

 ゆり子はちょっとだけ眉を顰めた。

「クリエイト・オリジナリティって、呼びにくいわね。なんか違う呼び方していい?」

『お好きにお呼び下さい。』

 ゆり子は少し考えた。

「じゃあ、略してクリオリで。発音しやすいし。」

『了解しました。』

 クリエイト・オリジナリティ改めクリオリはそう答えた。

「とりあえず、今は中学生をやりながら、こんな“仕事”をこなしてるけど、いつまでも続けられるわけじゃないだろうし、仕事柄絵は描けるから、今のうちに手に職つけておきたいの。でも、画家とかになれるレベルじゃないし、一番可能性が高いのは、漫画家兼イラストレーターかなって思ったの。」

『私は創作補助AIです。田中ゆり子さんの経歴や生活環境について、言及することは出来ません。』

 ゆり子は少し鼻白んだ。

「別に、話し相手になってくれるわけじゃないってことね。まぁ、いいわ。」

 相手が音声で話してくるので、つい人と話しているような気になりがちだが、あくまで相手はAIである。特に感情的なことを話しても、理解も言及もしてはくれない。

 尤も、ゆり子にとっては、そのほうが都合がいいのだが。

「じゃあ、まずは漫画の主人公にしようと思ってる子のキャラデザについて、助言をちょうだい。この絵とキャラクターが世間に通用するか、まずはそれを知りたいの。」

『はい、お任せ下さい。』

 ゆり子はここ数日かけて完成させた、主人公の女の子の絵の画像ファイルを、クリオリのアプリ内に放り込んだ。

 アプリは宝箱のデザインのアイコンで表示されており、そこに絵や文章をドロップすると、音声で回答が返ってくる。アプリをクリックすれば、文章で内容を確認することも可能だ。

 待つこと、3秒。

『残念ながら、このキャラクターデザインで漫画を描くことは出来ません。』

 帰ってきたのは非情な答えだった。

 ゆり子はあからさまにムッとした。

「どうして?そんなに絵は下手じゃないと思うけど?」

 ゆり子は過去に読んだ漫画や小説のイラストと見比べても、遜色ない出来にしたつもりだった。設定は自分と同じ14歳の女の子で、如何にも日本の漫画雑誌でウケそうなデザインにしたつもりである。

『理由は、このキャラクターが子供だからです。』

 返ってきたのは、意外な答えだった。

「子供だから?どういうこと?」

『現在、日本の創作界隈では、子供を描くことは、規制対象となっています。漫画やイラストは勿論、映画やドラマやアニメ、小説などでも、登場人物として子供を出すことは許されません。』

 ゆり子は度肝を抜かれた。

「ちょっと待って!あたし、今まで読んだ漫画とかに、子供が出てきたのを、見たことあるわよ?っていうか、少年誌とかって、殆ど未成年が主人公なんじゃないの?」

『子供が規制対象となったのは、ここ5年のことです。それ以前に制作された創作物には、子供が出てくるものは多数あります。現在、少しずつ回収もしくは改訂されていますが、量が膨大な為、一般人も読める状態になったままとなっています。』

 確かに、ゆり子はこれまで漫画などが読める環境ではなかったので、漫画家を目指そうと思い立った時に、過去の色々な作品を片っ端からネットで探して読んでいた。なので、作品の新旧や漫画業界の流れなどは関知していなかったのだ。

「でも、どうして子供の表現が規制対象になったの?」

『元々、猥褻な表現に関しては、創作物の商業流通の黎明期から、規制の対象となっていました。』

「ふーん……ん?」

 急に話が変わった。

 まぁ、AIにはよくあることだ。

「クリオリ、それと子供の表現規制と、どういう関係があるの?」

『初期は性的表現などには、比較的寛容でしたが、1990年代辺りから、それらの表現規制が、次第に厳しくなっていきました。これは、創作物全体だけでなく、テレビや新聞など、マスコミの表現にも及んでいます。』

「それはまぁ、知ってるけど。」

『その結果、5年前の2055年に子供の表現は規制されました。』

「いやいやいや、ちょっと待って、話が急に飛んだ。何でそれで、子供の表現が規制されるの?」

 クリオリは一瞬の間の後に答えた。

『子供とは、猥褻な行為の結果、産まれるものだからです。』

「えっ……」

 ゆり子は絶句した。

『例えば、子供が登場人物として出てきた場合、その両親は途轍もなく猥褻な行為をしたという証拠となってしまいます。しかも、人間の生殖機能上、乳房に触れるや性器に単に触れるといった、軽猥褻な行為では妊娠することはありません。子供が出来るということは、それを超える、深刻な猥褻行為を、しかも日常的にしていた可能性が高いということになります。そういう登場人物が出てくるのは、倫理上よくないと判断される為、出版や公開が出来ないのです。』

「ちょ、ちょ、ちょっと待って。」

 ゆり子は慌ててストップをかけた。

『はい。』

「要するに、胸触ったり、尻触ったりする程度だと、子供は出来たりしないから、子供がいる親は本番行為を何度もやってるってことになる。だから、親っていうのは全て猥褻な人間であり、延いては子供の存在そのものが、卑猥な行為の証拠になるってこと?」

『平たく言えば、そういうことになります。』

「……それ言い出したら、子供っていう存在自体が、猥褻物扱いになるじゃん。」

 ゆり子は、若干青ざめている。

『その通りです。ですから、最近は創作界隈だけでなく、社会全体で子供がいる人が疎まれる傾向となっています。子供を連れた人物は、数年以内に確実に猥褻な行為をしている可能性が高いということであり、コンプライアンスが厳しくなった現代の職場では、雇うのを躊躇うところも多いようです。』

「マジで?」

『はい。現在、職場で出世するのは、男女を問わず、30代・40代になっても性交渉がないという人物が殆どです。女性の場合、妊娠出産によるキャリアの断絶がないというのも理由となります。その為、例え猥褻行為の経験があっても、子供がいなければ未経験だと詐称する者も多いと言われています。』

 ゆり子は思わず天を仰いだ。

「……最近、子供の数が激減してるのが、社会問題になってるって聞いたことあるんだけど、もしかして、原因はそれ?」

『確かに、この風潮は少子化問題の原因の一つだと言われています。子供がいると、社会的キャリアに大きく傷つく上、育てるのに多額の費用がかかります。子供が出来てしまった親は、低収入の仕事で長時間働きながら、世間からは猥褻な人間だと思われ、暮らしていくことになります。その為、子供が出来るようなことを断固回避して暮らすのが、現代では一般的になっています。』

「マジかぁ……」

『ちなみに、政府は少子化対策を大々的に行っており、毎年多額の税金が使われています。』

「はっ?矛盾してない?」

 ゆり子は目が点になった。

『少子化は人口減を招いており、人口減は国力の低下を招きます。その為、政府は少子化対策を行っていますが、現状、効果はほぼ出ていないと言われています。』

「そりゃ、こういう風潮になったら……あれ?」

 そこでゆり子は、ふと疑問に思った。

「クリオリ、この表現規制って、どこがやってんの?」

『規制自体は各出版社やテレビ局などの、制作会社ですが、総括しているのは政府です。』

「少子化対策してる政府が、そういう規制もしてるって、おかしくない?」

『おかしくはありません。これらの規制政策は、青少年が健全に成長する為に必要とされる為、こうして行われています。現状、産まれてくる子供数が少ないので、その数少ない子供を、猥褻なことに手を染めない健全な成人に育てる為には、必須の政策とされています。』

「えぇ……絶対矛盾してるって。」

 ゆり子は生育環境の都合で、かなりの世間知らずで育ってきている。それが当たり前だと思っていたが、自分がそう育てられたのには、こういう理由があったのだと、今初めて知った。

「それじゃあ、子供自体が18禁表現じゃん。描き直すしかないか……」

『それを推奨します。』

 クリオリは冷たく言い切った。

「あ~あ……せっかく、あたしと同い年の女の子を主人公にして、漫画を描こうと思ったのに……」

『田中ゆり子さんは、何歳なのですか?』

「14歳よ。」

『では、田中ゆり子さんも18禁表現となります。』

「うるさいわ!」

 ゆり子はパソコンの電源を落とした。

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