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この国には預言者と呼ばれる者がいる。
その名の通り預言者は、この世界の未来を予言することができる。
ある日、その預言者がこの世界の未来を予言した。
百年前に勇者が封印した魔王が近々復活するだろうと。
そして、その魔王が何の前触れもなく、突如として復活を果たした。
人々は驚き、混乱し、恐怖に打ち震えた。
野菜を荒らすだけの特に人には害がなかったモンスターが、いきなり人を襲うようになった。
少なかったモンスターの数が一気に増えた。
弱いモンスターも強いモンスターも等しく凶暴化し始めた。
戦うことを知らない、名ばかりの冒険者は逃げ出した。
世界は魔王という脅威に晒され続けながら、今を必死に生きている。
だから私はそんな人達の希望になりたい。
たとえ魔力が無く魔法が使えなくとも。
それに憧れてしまったから。
幼い時に読んだ伝記の勇者様に。
これは伝記を読んで知ったことだが、百年前に勇者と呼ばれる、魔王を封印した英雄がいたらしい。
勇者は代々、勇者の家系から産まれる。
勇者がいつ産まれてくるかは誰も分からない。
世界が危険に瀕する時に産まれてくるとしか分かっていない。
だから、勇者の子孫はその血を絶やさぬように生きるのがこの世の理なのだが、残念ながら私達が生きる百年後の世界には勇者の子孫はいない。
もちろん、その百年前の勇者が生きているということもない。
勇者とてただの男性の人間。百年も生きられない。
今も生きているのならそれはもう、人智を超えた何かか、モンスターの類だ。
そんなものに成り果てていたのなら、逆に討伐しなくてはならないだろう。
ならどうして勇者の子孫がいないのか。
勇者に恋人がいなかったから。愛する人と一生を遂げることが出来なかったから。
そのどれもが違う。
伝記にはしっかり記載されていた。
世界を救った勇者には愛する仲間がいたと。
勇者は生涯その人を深く愛していたと。
そして、その生涯愛した仲間は男性だったと。
だから、この世界には魔王を討伐できる勇者の子孫がいない。
だからこそ、私は思う。
魔王を討伐するのは勇者じゃなくても良いのではないかと。
むしろ勇者がいないのだから、私達の手でどうにかするしかない。
勇者不在の今。
私が魔王を討伐しに行ったっていいはずだ。
魔王討伐のために今や色んな人が冒険者になっている。
ならば私だって、魔力無しだろうが、王女だろうが、冒険者になっていいはずだ。
魔王討伐。
それは、私が幼い頃から思い描いていた夢。
世界を救った英雄。勇者様。
それは、幼い頃からの私の憧れの人。
私が憧れた人は魔王を封印することしか出来なかった。
しかし、私は違う。
私がしたいのは魔王討伐だ。この世から、本当の意味で魔王を消し去りたい。
魔力無しの私からしてみたら、魔王討伐は大きすぎる目標。
いや、身の丈にすらあってない夢かもしれない。
それでも、私は成し遂げたい。
これでも冒険者になるために、家族に内緒でこっそりと筋トレだって、剣の稽古だって、毎日頑張ってきたのだから。
夢は祈っているだけでは叶わない。
ならばどうするべきか。
そんなの簡単だ。
諦めきれない夢を叶えるために一歩踏み出せばいい。
一歩踏み出した先は未知の世界。
待ってるのはきっと楽しいことだけじゃない。
辛くて、苦しくて、悲しくて、逃げ出したくなるかもしれない。
それでも……もがいて、足掻いて、必死に追い続けたい。
それほどまでに、私の夢は大きく膨れ上がってしまったのだから。
この熱がどこまでも冷めないのならば。
私は、家族に何を言われようとも旅に出る。
私は、城で飼われているだけの鳥ではない。
だって私には、鳥籠を壊す力だって、羽ばたいていける翼だってあるのだから。