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(わたくし)、魔王討伐の旅に出ますね。」


 家族と唯一顔を合わせる朝食会。

 私は今日の天気を話すかのような気軽さで先の言葉を口にした。


 家族の食事の手が止まる。

 ナイフとフォークを優雅に操っていたお父様は目を見開き、パンを優雅に食べていたお義母様は信じられないというような眼で私を見ている。


 カランと音を立ててスプーンを落としたのは歳が一番近い三番目のお兄様。

 ティーカップに口を付けることが叶わず服にコーヒーを零したのは二番目のお兄様。

 特に気にした様子もなく食事を続けているのは一番上のお兄様。


 そんな家族達を横目に私も一番上のお兄様同様、食事を続ける。


「……本気で言っているのか?」


 一番最初に我に返ったのはお父様だった。


「ええ。」


 私は短く返事をする。


「考え直しなさい。貴女には無理よ。」


 咎めるように無理だと断定してきたのはお義母様。


「やらなくてもわかるだろう。」


 呆れたように言ったのは二番目のお兄様。


「いや、お前には絶対無理だね。だってお前は()()()()だからな。」


 意地の悪い笑みを浮かべながら私のことを馬鹿にしてきたのは三番目のお兄様。


「魔力無しでも戦えないわけでは無いわ。無理だと決めつけるのはやめてくれるかしら?」


 私はテーブルナプキンで口元を拭い話はもう終わったとばかりに立ち上がる。


「話はまだ終わっていないぞ。」


 低い声でお父様が言う。

 しかし、魔王討伐は私の中で既に決まったこと。

 今更何を言われても引くつもりは一切無い。


(わたくし)はもう話すことはありません。それでは……。」


「待ちなさい!」


 行ってきます、という言葉はお義母様の声にかき消されてしまった。


「貴女は先程から何を言っているのか分かっているの?」


「ええ。もちろんです。」


 ニッコリと笑顔を貼り付けて言う。

 しかし、お義母様はそれが気に入らなかったのだろう。

 苛立ちのあまりわなないている。

  

「いいえ!貴女は何も分かっていないわ!貴女は女の子なのよ?そしてこの国の二番目とは言えど王女よ!貴女も一番上の姉同様、いずれは国のために嫁ぐの。嫁ぐことこそが(あなた)の幸せよ?それなのに、魔王討伐などと……。

 これだから流浪の踊り子の娘は……。」


 私はこの国の正妃とは血の繋がりがない。

 お兄様もお姉様も正妃の子供だが私だけが違う。

 お父様が国王である以上、私も王族であるという事実は変わらないが、正妃であるお義母様は私の存在を許せないでいる。

 だって、私という存在は正妃の他にも国王には愛した人がいたということでもあるから。

 

 だから、王女だのなんだと言って体良く隣国の悪逆非道と名高い王子の元に嫁がせるために、今ここで私が居なくなっては困るから必死で止めるのだろう。


 しかし、これは私の人生。

 私の物語(ストーリー)は私自身が私の手で紡いでいく。


 だから私は高らかに宣言した。


「私、魔王を討伐しに行ってくるわ!」


 そう朗らかに笑い私は家族に背を向ける。

 お父様とお義母様の怒鳴り声が聞こえてくるが、私は全て無視して自分の部屋へと向かった。




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