不死の少女と輪廻転生
深い、深い、森
その奥の濃い霧が立ち込める場所に少女はいた
名はフレン
世界が行った悪戯の、被害者の1人である
フレン「今日もまた、死ねなかった。朝を迎えてしまった。私は生きていてはいけない生き物なのに」
世界は彼女を不老不死の身として産み、彼女の両親はそれを良く思わず虐待に虐待を重ね、遂には森に捨てた
だが彼女は不死である
飢餓も怪我も苛立ちも絶望も
全て感じる、全て分かる
が故に、彼女を救っていたのは絶望だった
心が闇に覆われていれば、何も感じずに居られた
だが世界はそうさせない
空腹を感じれば意識は戻される
傷は痛覚だけを残し再生する
少女はもう限界だった
フレン「誰か私を殺しに来て...
この永遠を終わらせて...お願い...」
同時刻、森にとある少年が迷い込んだ
名をノエル
少年に肉親は居ない
戦争に巻き込まれ、少年だけが逃がされた
ノエル「パパやママが居ない世界なんて、生きたくない。早く死にたい。皆の所に行きたい」
少年は不死などではない
では何故死なないのか
死ねないのである
そんな勇気があれば戦争にだって着いて行った
少年もまた、世界と、自分自身に絶望していた
世界に闇を見ている少年と少女が邂逅するのは最早必然
少年が少女を見つけたのは、空腹で倒れかけていた時だった
フレン「貴方、誰?」
ノエル「僕は、ノエ、ル。この森に...迷い込んじゃ...って...邪魔したなら...ごめ...」
フレン「ちょっと!大丈夫!?」
少女は自分の住処に少年を運ぶ
少女は少年が死にたがっていることを知らない
少年は自分とは違い、罪は無く生きるべきだ
そう考えていたのだろう
とにかく彼を助けたい
そう思っていた
数刻後、少年は目を覚ます
フレン「貴方、ノエルと言ったわね?急に倒れたから驚いたわ。」
ノエル「さっきの...ごめんなさい、僕なんかを助けていただいて」
フレン(僕''なんか''?)
フレン「貴方、凄く痩せているわ。しかも栄養状態も良くない。これを食べなさい。」
少女は作った料理を差し出す
少年は少し戸惑いながら、生存本能に従い、それを食べ始めた
フレン「貴方、泣いてるの?」
ノエル「久しぶりに、誰かが作った料理、食べたから...暖かくて...嬉しくて...」
フレン「......」
フレン「ゆっくり食べなさい。貴方は今1人ではないわ」
ノエル「ありがとう、ございます...!」
少年は自身の涙で少しだけ塩っぱくなった料理を食べる
そして少年は自分の身に何が起きたかを話し始めた
ノエル「僕、少し前におっきな戦いでパパとママを亡くして、、、」
フレン「うん」
ノエル「それから住む場所もなくて、どこに行っても追い出されて...」
フレン「うん」
ノエル「こんなに良くしてもらえたの、久しぶりで...」
フレン「...泣き虫ね」
少女は暖かな笑みを浮かべ、少年の頭を撫でながら話を聞く
時にはただ黙って頷き話を聞くのが最善だと、少女は知っていた
フレン「少しは落ち着けた?」
ノエル「うん、ありがとう」
ノエル「そういえば、お姉ちゃんの名前は?」
フレン「あら、言ってなかったかしら。私はフレンよ」
ノエル「フレンお姉ちゃん!よろしくね!」
フレン「うん、よろしく。貴方はこれからどうするの?行く宛てはある?」
少年は俯く
フレン「行く宛てが無いならここに居なさい。人間の一生くらい、なんて事ないわ」
ノエル「どういうこと?」
フレン「気にしないで。貴方はずっとここに居ていいってことよ。それとも、私とは嫌?」
少年は全力で首を振る
ノエル「そんな事ない!よろしくおねがいします!」
フレン「はい、よろしくね」
それから2人の共同生活が始まる
少女が食べ物の取り方や飲み水の場所等を教えると直ぐに覚えた
ただ1つだけ、不可解な点があった
フレン「ノエル、貴方何でそんなに家事をやりたがるの?」
ノエル「...前に居た場所だと、やらなきゃ追い出されたから...」
少女は胸に矢が突き刺さったような痛みを感じた
今まで1人だと感じたことのない感情だった
何の感情だか分からないまま、無意識に少女は少年を抱きしめていた
フレン「ここでは家事をやらないからって、食べ物を取ってこないからって、絶対に追い出したりはしない。
2人でやるの、2人で分けるの。そうやって生きていくのよ。
貴方が頑張りすぎる必要なんて無いの」
少年の目には涙が浮かんだ
姉のように慕っていたとはいえ、今までの経験から警戒を解けていなかった
不安だった
また追い出されるのではないかと、不安だったのだ
少女がこう言っている
ならそうしよう
この人を頼ってみよう、甘えてみよう
そう、思った
フレン「ほんと、泣き虫なんだから」
そして月日は流れた
少女達が共に暮らし始めた時から数年が経ち、少年は青年になった
ノエル「そういえばさー」
フレン「どうしたの?」
少女は本のページを捲りながら答える
何の変哲もない話だと思いながら
ノエル「フレンってずっと姿が変わらないよね」
少女は本を読む手を止める
自分のことを話すべきか少し考える
少年は成長した
精神的にも落ち着きが見られる
全てを話す事が出来ると思った
フレン「ノエル、少しそこに座りなさい。楽にしていいわよ」
ノエル「え?うん、分かった」
青年も家事の手を止め、少女の前に座る
フレン「ノエル、今から大事な話をするわ。私の、私自身の凄く大事な話。ちゃんと聞いていて」
ノエル「うん、分かった」
少女は話し始めた
自分が不老不死な事、青年に会うまでずっと死のうとしていたこと、死ねなかったこと
精神がもう限界の時に少年に会ったこと
自分のことを忘れて少年を助けたこと
フレン「...と、ここまでが私が隠していたことよ...ってどうしたのよ、泣く要素あったかしら」
ノエル「だって...だって...!フレンは可哀想だ!不老不死に生まれた挙句、実の両親からも虐待され、死にたくても死ねないなんて...!」
少女は気付いた
あの時の胸の痛みは可哀想という感情だと
共感し、何とかしてあげたいと思うことは人間として普通の感情だったのだと
少女は気付いたのだ
フレン「私にも、人間らしい感情がまだこんなにもあったのね」
ノエル「フレン?何か言った?」
フレン「ふふ、いいえ、何でもないわ」
隠し事が無くなった二人の間にはさらに深い絆が結ばれた
そしてまた数年後
フレン「ノエル!起きて!!」
ノエル「どうしたの!?」
フレン「森が火事になっているの!火の出処が分からないけど、まだ燃えていない所がある!そこに逃げましょう!」
ノエル「わ、分かった!」
少女達は逃げる
森の更に奥へ
幸いにも今日は雨が降りそうな雲がある
火事は時間で消えるだろう
そう思っていたところだった
??「おい、待ちな」
フレン「貴方達、誰?」
??「お前に名乗る名はねぇな。ボスからの命令でお前を攫いに来たんだ」
フレン「ボス?攫いに?誰からの命令?」
??「まあ、生死は関係ないらしいしな、教えてやる。依頼人はお前の両親だ」
フレン「あの人たちが?何で?私の事を怪物だと言っていた人たちが何故今更こんな真似をするの」
??「お前、不老不死なんだろう?その血を王に献上するためだ」
フレン「な!?」
??「無駄な抵抗は辞めときな。殺すつもりだが、死ねないなら辛くなるだけだぜ?」
フレン「まさか、森に火をつけたのも!」
??「ああ、そうだ。火事が起きれば普通は森から出ようとする。だがお前は賢いと聞いてな。雨雲があれば奥の方に逃げると考えたんだ」
フレン「卑劣な...!」
??「さあ、大人しく捕まってくれ。俺らには殺人欲はあるがいたぶるのは趣味じゃねぇんだ」
ノエル「黙って聞いていればなんだそれ?フレンを捕まえる?不老不死が欲しいから?馬鹿馬鹿しい」
??「あ?なんだお前。引っ込んでろガキが」
ノエル「引っ込めと言われて、はいそうですかと下がる訳ないだろう。
フレン、今の内に逃げて。アイツらの狙いは君だ。僕が止める」
フレン「駄目よ!私は不死!死なないわ!私がアイツらに着いていけば済む話よ!」
ノエル「フレン、僕には君が全てなんだ。だから君を失うのが1番怖いんだ。分かってくれ」
フレン「駄目と言ったら駄目!私だって!...」
ノエル「フレン、ごめん」
青年は少女を吹き飛ばす
不死だろうが痛みは感じる
それを分かっていながら、いや、分かっていたから直ぐに戻って来れないと判断して
??「作戦会議は終了か?なぁに、お前をぶっ殺してからアイツを追えばいい話だ」
ノエル「...させないよ、絶対に」
〜数十分後〜
少女は目を覚ます
体の節々が痛い
どれくらい飛ばされた?ノエルが居る方角は?
少女は歩く
自分の大事な人が生きているように、祈りながら
今まで感謝した事も無い、憎悪まで感じている神に初めて祈って歩く
フレン「...!ノエル!!」
見つけた
だがおかしい、青年は横たわっている
呼吸が小さく浅い
赤い液体がそこら中に
フレン「ノエル!ノエル!大丈夫なの!?」
ノエル「ああ...フレン...僕は君を守れたのかな...」
フレン「喋らないで!今治療を...!」
ノエル「フレン、もう間に合わない。自分のことは、自分でわかる」
フレン「...!」
ノエル「はは、初めて見たな。ノエルが泣くところ」
フレン「ノエル...喋らないで...まだ...間に合うから...」
ノエル「フレン...君はこれからも、生きていくんだろう...僕が居なくても。それが早いか遅いかだ」
フレン「...」
ノエル「君は言ったよね、僕と会うまで...死のうとしていたと」
フレン「...えぇ」
ノエル「僕が死んだ後、自分を大事にして欲しい。
僕らはもう会えないけれど...生きていて欲しい」
フレン「...ノエルが居なくなるなら、生きる意味なんて無いわ。きっと私は、また死のうとする」
ノエル「フレン、お願いだ。生きてくれ。君は僕の大事な人だ。恩人だ。」
フレン「...私だって...!」
ノエル「...今まで僕に泣き虫だって言ってたのに、今日はフレンが泣き虫みたいだね」
フレン「...こんなの...こんなのって...」
ノエル「フレン、そろそろお別れだ。最後に1つ、いいかい?」
フレン「...えぇ」
ノエル「愛しているよ、この先もずっと」
フレン「私も、愛しているわ」
そして青年は息絶えた
青年は大事な人を、いつの日か絶対に守ると誓った人を、守り抜いた
自分の命を犠牲にして
少女は生きる目的を見失った
少女は死のうとする度に、青年の言葉を思い出し踏みとどまる
自分が生きていることが、青年の最後の願いだったのだから
〜数十年後〜
少女は焼かれた家を直し、目的もなく、ただただ過ごしていた
あれから少女を襲うと返り討ちにされると噂が広がり、誰も襲いに来なくなった
紛れもなく青年の功績だ
その事を認識する度に、少女は青年のことを思い出しまた涙する
あの日から随分と、泣き虫になったものだ
フレン「近くに人間の気配がする」
また賊かと警戒する
だがあの件以来来ていない上に、敵意が無い
警戒をしたまま、様子を見に行ってみる
フレン「人間の...子供?」
ふらふらと揺らめいている
そういえば、青年との出会いもこんな感じだったと思い、近づいてみる
少女は目を疑った
少女には数十年前からある能力が身に付いていた
それは、魂を見る力
青年の魂など忘れるわけが無い
そして目の前の少年
彼と青年の魂は似すぎていた
否、同じだった
フレン「ノエル!?」
少年「...?...誰?」
フレン「貴方、ノエルじゃ...」
そう言いかけた後、少年は倒れた
少女は少年を家に運ぶ
目が覚めた少年に料理を振る舞い、落ち着いた後話を聞いた
彼の名前はノエルというらしい
顔も、声も、身長も、全てあの時と瓜二つだった
彼は生きていた?いや、輪廻が廻った?
逸る心を抑える
今考えてもしょうがないと
聞くところによるとただ1つ、違う点がある
彼は両親が生きており、仲がとても良いらしい
ノエル「お姉ちゃん、料理を食べさせてくれてありがとう!今度僕の家にも遊びに来てよ!」
フレン「お誘いはありがたいけど、無理よ、私は。
貴方達普通の人間とは違うもの」
ノエル「えー、いいじゃんいいじゃん!なんなら今から来てよ!」
フレン「今から!?無理よ!って、腕を引っ張らないで!行く!行くから!」
フレン(このノエルは少し、いえ、結構強引ね)
そして少女は村に着く
森に捨てられて以来、森から出た事がなかった少女は少し不安だった
いきなり現れた儚げな少女に、村人も不審がった
少年の家へ向かう
ノエル「このお姉ちゃんが、僕を助けてくれたんだよ!」
そう言うと、村中から不審感が取り払われる
子供を助けてくれる人に悪い人は居ない、といった具合に
少女は少年の両親から感謝の言葉と宴が送られた
少女は催し物の経験は無く、戸惑いながらも楽しんだ
ノエル「お姉ちゃん、森に帰っちゃうの?」
フレン「ええ、私の家は森の中だもの」
ノエル「僕も行くー!」
フレン「駄目よ、貴方にはご両親が居るでしょう?」
ノエル「えー!ねえ、パパ、ママ、行っちゃダメ?」
父親「ダメだ、いくらフレンさんの元とはいえ森は危ないし、もう少し大きくなるまではダメだ」
母親「フレンさん、息子も寂しがってますし、定期的に村に遊びに来ていただけないかしら?
それなら息子も我慢出来ると思うんです」
フレン「それくらいだったらいいですが、また森に入って倒れられても困ります。
しっかりノエルを見ていて下さいね」
父親「お任せ下さい。それではフレンさん、またノエルと遊んでやってくださいね」
少女は家に戻る
今回は少年は家族がいる
少しお転婆で強引な所はあるが聞き分けはいい
私と一緒に暮らす必要も無いだろう
少年があの時の青年と同じ人物だとして、今回の生も私を愛してくれるとは限らない
これでいい
〜数年後〜
少女は村を訪れる
村の入口で青年が立っている
少年は成人し青年になっていた
ノエル「突然だけどフレンさん、ずっと好きだった
結婚してくれ」
少し固まる
この青年はなんと言った
結婚?
そうか、不老不死のことを言っていなかった
フレン「ノエル、実は私は...」
ノエル「不老不死、なんだよね」
フレン「...何で...それを」
邪な考えがよぎる
ダメだ、ノエルは他の人と結ばれるべきなんだ
私じゃダメだ
絶対に断んなきゃ
ノエル「成人した時に急に思い出したんだ。フレンの事を。僕が賊たちから貴方を守った時、最後に何て言っていたか、覚えてる?」
忘れるわけがない
脳裏に焼き付いている
この数十年間、ずっと
あの言葉が私を生かした
人間にしてくれた
フレン「愛しているよ、この先もずっと...」
ノエル「僕も、愛してる」