追憶に浸る 前 ≪せせらぎ視点≫
なぜかせせらぎ編がかなり長くなってしまったので4話になってしまいそうです(申し訳ありません)
女性については番外編を書く予定です
≪せせらぎ視点≫
光希君が少女を助け、改めて今日本来の仕事であるとある研究所跡に出るとされる異形に関する調査へと向かっていた。
前を歩く光希君は凛とした佇まいだ。初めて出会った頃の丸まった背中とは違い、今は堂々としている。正直私がもういなくても十分1人で戦うことができていると思う。
さっきの少女を助けたときもそうだ。あれは普通の学生陰陽師なら一人で相手取るだけでも苦労する。1体ならまだしも囲まれているのを1人で、しかも少女を守りながら傷1つないままあっという間に全部倒していた。
私が任務行きたくないとか、絶対に無理だとか、文句垂れてばかりでも私のことを見捨てない。でもずっと、それではダメなんだ。
私は神だ。下級とはいえ水神だし、一端の人間よりもはるかに強固な力を持っている。いつか、絶対に光希君との別れが来る。もう、あの時のような唐突な別れが来るのはもう嫌だった。
「いつも、面倒な私を放っておかないでくれてありがとうございます。」
「……いきなり、どうしたんだ?」
気づけば知らず知らずのうちに、そんな言葉が私の口から出ていた。今思っていたことが顔に出ていたのだろうか?彼の頬に一筋の汗が伝ったように感じる。それがどんな感情から来たものなのか分からないけど、なんとなく胸の締め付けられるような感覚がした。
「なんとなくそう言いたくなっただけですよ。本当に、なんとなく……。そ、それに私、いつもあなたに迷惑かけてばかりですしぃ、だから見捨てないでいてくれるのがうれしいから。」
「なんだ、そういうことか。別に迷惑をかけているのはお前だけじゃないし、俺の方こそ、お前に迷惑をかけている。だから、気にしないでいい。」
自分の気持ちを押さえつけて、なんとか取り繕うと努力したけどうまくいかなかった。なんだか言い訳がましくなったそれを彼は否定的には受け取らなかった。
彼は優しい、いや優しすぎる。あの幼く一般的に見れば弱者であったころから、その性質は何も変わりやしない。それは十分自分の弱みであると気付いていながら。
私は気づいたら足に鎖を付けられてどこかの部屋に閉じ込められていた。閉じ込められる前のことは何も覚えていない。気づいてからしばらくのうちは人間が定期的に来て食べ物や衣服を置いてそのまま去っていく。
私が閉じ込められていた部屋のような場所は丈夫じゃなかったみたいで、隙間風が吹いて冬はとても寒かった。なので外にいた人間の声が聞こえることもあった。彼らの話す内容で自分がどのような状況を置かれているのかを理解した。
私は水神らしく、彼らは私に雨を降らせてほしいと祈り奉納しているということ。この世には陰陽師という術を扱う人間がいること。
それからしばらくして、誰も私のところには来なくなった。いなくなってから、ひたすら自分の持っている力を磨いた。水神であることから、水を操る能力を特に磨いた。水を操る能力をかなり扱えるようになると、水から人の感情を読み取れるようになった。そこに合った感情は、恐怖だった。私が何をしたんだとひどく自分が惨めに感じた。
その時から100年ぐらいたった曇り空の日のことだった。力は過度に使っていないにも関わらず雨足が強まり、大雨と呼ぶにふさわしい天気になった時だった。
バキィ‼
私がいる祠のすぐ近くの崖下ですごく大きな何かが落下したような音が聞こえた。幸いなことに歩くことができる範囲内だったから、音が鳴った方に行ってみた。
そこには、まだ歩けるようになったばかりの子供が頭から血を流して倒れていた。
前にも、このように落ちてきた人間は見たことがあったが、みな死んでしまっていた。その人間たちは大人と呼ばれる類のもので、この子のような幼子ではなかった。不思議に思い、子供に近づいてみると、触れることができなかった。
「あぁ、あなたがこの子を守ってくれていたのですか。でも、大丈夫ですよ。私はこの子を無為には傷つけませんよ。だから、この子を治すため、少しこの子に触れてもいいですか?」
子供の近くにはフヨフヨと浮いた人魂のようなものが彼を包み込んでいた。まるで、母親のように優しく、彼のことを慈しんでいるのが分かる。
子供を抱きかかえ、私の住処である祠に戻ると近くで浮いていた人魂が一人の女性の姿に変化した。この場所には強い力が宿っているからそれに影響されたのだろう。子供と似た髪の色をしていることから子供の母親なのだろう。
「あ、あ……アリ……ガと……。コ……こうキ……アイシテイルワ」
「……」
私が子供のけがを治したとき、女性が子供に向かって走り出した。そして、子供を抱きしめ涙を流した。その涙からは私が感じたことのない感情が読み取れた。
胸が暖かくて、ずっと浸っていたくてたまらなくなる。どこか、そんな懐かしさを感じるようなものだった。
「ヨシ、よし……イイこ、イイこ」
「……っ‼」
気づいたときには女性に抱きしめられていた。子供がどうなっているのかを確認しなければならないのに、なぜだか離れられなかった。いや、離れたくなかった。しばらくすると彼女は私から離れ、祠の外に出た。
「待ってください‼何をするつもりですか?!」
「カミ…………サマ。アノコノコトタノミマス。」
彼女はどこか泣きそうな笑顔を見せながら私に向かってそう言った。彼女は覚悟していたんだ、自分が本当の意味での死を迎えることになるなんていう残酷な現実を。
「ちゃんと、守りますから。どうか、どうか見守っていてください。」
せめて、輪廻に乗ることのできない彼女に最後の幸せを感じられるように。ちゃんと、この子を強くして、生き抜けるように。水の力を使い、彼女と子供にほんの少しだけ神力の一部を授けた。彼女には彼女にとっての幸せの記憶を、子供には少しだけ生きやすくなる力を。
彼女が消えてしまった瞬間、雨が降っていた空は一部だけ日が差していた。雲の切れ間から零れ落ちる光は彼女と似てとても優しげだった。
「ぅん……」
「もし、もし!あぁ、目が覚めてよかった。痛いところはない?ある程度直したのだけれど気分は?」




