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部屋に戻ると…… ≪side 光希≫

≪光希視点≫

 「お前、鏡から出てこられたのか。……それよりもこの状況は一体何なんだ。」


 学院長先生と話を終え、部屋に戻る。ドアのカギを開けようとしたらなぜか中から声がする。いやな予感がする。


 ドアの取っ手を動かすと、やはり鍵は開いていた。おそるおそる中を覗くと――幻、刹那……そして鏡幻がババ抜きをしていた。


 しかも、3人は警戒心と言うものをどこかに置き忘れたようだ。現に、部屋に戻ってきた僕に気づかないまま、ババは誰なのかを探っている。刹那、せめてお前には目の前にいる鏡幻を警戒してほしかったよ。


 普段から幻と刹那はこの部屋に入り浸っていることが多い。ゲームをしたり、勉強会をしたり、何かと理由をつけては集まっている。


 でもそれは僕が部屋に居て3人で遊んでいるときだ。出るときに鍵、かけたはずなんだけどな……。

 

 刹那と幻は他人の部屋へ勝手に入るほど非常識ではない。となると、誰かがここに入るように手招いたというわけになる。

 

 「あぁ~‼ちくしょうが‼どうして俺ばっかり。」


 ババ抜きをしている鏡幻はなぜか鏡の外に出てこられていた。お前、前は鏡から出て僕を殴ろうとしてできなかったじゃないか。それに、他の人間には見えないし聞こえないとも言っていた。


 まぁ、聞きたいことは山のようにある。だが、それは今やるべきことではない。この状況下で一番重要なことではないからだ。


 悪いことをやったのならしっかりと注意をしなくちゃいけない。


 「随分とババ抜き楽しそうだな。でも、おかしいな。今日は僕部屋に帰って来たのは初めてだったんだけどな。なぁ、鏡幻?」

 「おぉ~、お帰り。随分と遅かったじゃねか。なぁなぁ、お前もババ抜きやんね?」

 

 ……どうやら、こいつは人の神経を逆なでする才能だけは、本当に一級品らしい。恐らく僕が何に対してどのような感情を抱いているのか。それらを認識していないようだ。


 刹那と幻がババ抜きのトランプを置いて、かしこまった体勢になっているのだ。今の僕がかなり分かりやすく感情を示していることになる。

 

 「え、お前らどうしていきなり正座なんてしだしたんだ?……後ろ?すごく怒っている?そんな事ねぇに決まってんじゃん。何冗談言ってんだよ。」

 

 それでも態度を改める気配はない。――なら、覚悟はできているってことだな。


 拳に霊力をゆっくりと貯める。拳が当たる瞬間に、第二関節に霊力を集中させるように意識する。そして鏡幻に気づかれないよう気をつけるのだ。

 

 「きょ、兄弟?どうしてそんなおっかねぇ顔をしているんだ?あと、その拳は何で霊力をまとってんだ?」

 

 突如として近づいてきた僕に鏡幻はようやく何かがおかしいことに気づいたようだ。そして、二人に助けを求めるように視線を向ける。


 「お、お願いだ。俺が、俺が悪かったから、その拳を下ろしてくれ‼」


 「まぁ、仕方ないよねぇ。明らかに『怒ってます』って顔をしていたのに、冗談だって油断していたらキレちゃうよ。」

 「僕らもですよ。」

 「え?マジか……終わったな。……まぁ、俺たちに非があるわけだし、仕方ないけどね。」

 

 しかし、二人は動かなかった。その時点で今から自分がどうなるのかを何かを察したのだろう。


 「イッタァ~⁉頭が割れるかと思った。え、割れてないよな?兄弟、もうちょっと手加減ってもんがあるだろ⁉なんで、あいつら二人にはやらないんだよ‼」


 「あれ……拳じゃなかった?あ、よ、よかった~……。」

 「う~ん、でも威力は強めじゃないですか?デコピンだったけど、明らかに鳴っちゃいけない音が鳴っていましたよ。」


 デコピンを食らった鏡幻は、しばらく床にうずくまったまま動かない。……涙目になってぷるぷる震えてる。まるで殴られた子犬だ。やりすぎたか?いや、いいか。


 最初は拳を一発食らわせようと思った。あまりにもからかわれていると認識していたからだ。


 しかし、あることを見落としていたことに気づく。そして、路線変更してデコピンをすることにした。


 「お前が勝手に僕の部屋に僕の許可なく人をあげたからだ。」

 「そ、それはそうだけど。でも、こいつらだってそれに答えて部屋に上がってんじゃねぇーか‼」


 鏡幻が何か喚いている。なんだか幼い子供の駄々みたいで少しかわいいと思ってしまった。実際、精神的にはどれくらいの年だろうか?


 そんなことを考えながら、スマホを開いて通知を確認する。やはり僕の予想通りだったみたいだ。

 

 「刹那は上がる前に『鏡幻?さんが部屋に上がっていいと言っているのですが大丈夫ですか?』という確認のメールを送っていた。だから、それを確認しなかった僕にも非がある。」

 「え、あ、ソンナコトモアッタナァー。で、でも俺だけ怒られるのは不公平だろ!」

 

 僕が突き付けた事実に鏡幻は大いにたじろぐ。しかし、それでも僕の主張に食い下がっているままだ。本当にこいつ、メンタルが強いな。


 すっかり拗ねてしまった鏡幻を無視して、刹那と幻に向き直る。そこには先ほどまでのババ抜きをしていた緩さはない。


 「刹那、すまない。メールを確認していなかった。少し調べ物が難航してな。」

 「こちらこそすみません。あまりにも……その、鏡幻さんの押しが強かったので。で、メールの件なのですが……」

 「俺たちが今日行ったところでも、『異質なクルイモノ達』が出現した。あれ、ほんとやばい。」


 異質なクルイモノ――元は人間だったものが何らかの要因で変質した存在。恐らく、いや確実に自然発生したものではない。あれは人為的に造られた存在だ。


 「確かにそうですね。明らかに()()し、()()しながら戦っていました。……まるで人間みたいに。」

 「姿もクルイモノって言うよりもゾンビ人間って言った方がいいかも。だから、メンタル的に戦いにくかったなぁ。人間に見た目が近いから人間を殺したような気分になるし、かといって気を抜けば死にかけるし。」


 幻は茹蛸のようになりながら僕のベッドに飛び込んだ。本当に疲れているのだろう。飛び込んだ瞬間眠りだしてしまった。


 「幻……ここ、光希くんの部屋ですよ。戦闘が多かったから、眠たいのはよくわかりますが。」


 そう言う刹那もとても眠そうだ。眠気に抗うように、頭がゆっくりと振り子みたいに揺れている。それでも、なんとか起きようとしているが瞼がゆっくりと落ちかけている。


 「謝る必要はないさ。だって、いつも戦闘系の任務があった日は爆睡している幻だぞ。この時間まで起きていたことを褒めるべきさ。」

 「……ま、そうですね。でも……そこは……」

 

 最後まで眠気にあらがっていたようだが、結局寝落ちてしまった。なんとなくそうなるだろうとは思った。


 「はは、刹那も寝落ちしてる。……あれ、僕も……眠たくなってきた。」


 特に僕は戦闘とかしてないはずなのにどうしてこんなに眠たいんだ。……あぁ、戦闘していなくても感情が過度に昂ったりしたから疲れたのか。


 正直僕もこのまま寝落ちしたい気分だが、そうもいかない。床にそのまま寝ると翌日ひどい目を見るのが分かっている。だから、布団を用意しなくちゃ。

 

 体が、重い。まるで重りをつけられたみたいに指一本動かすのも面倒くさい。眠気が全身にまとわりついて、脳まで曇らせる。


 「ふとん、しかなきゃ……ねむっちゃだめ……」

 「おいおい兄弟。そんな眠そうなのに無理に動くんじゃねぇ。布団ぐらい俺が敷いておくから寝る準備でもしとけ。」


 いつもはすごくうるさいくせに、今の鏡幻は眠っている二人に気を使って小声みたいだ。そういう気づかいができるなら最初からやってくれ。


 「よし、これで寝ていいぞ!これぐらい俺にとっては楽勝だ。」

 「鏡幻……ありがとう。……あと、さっきはごめんね。お前……も、ちゃんと……寝ろよ」


 水の中へ静かに沈んでいくように、体がゆっくりと重くなる。それは恐怖ではなく、やさしく包みこまれるような安らかさだった。


 「はは、幸せそうなツラ。……それでいい。ずっと、そのあほ面を晒し続けていてくれよ。俺は()()()()()()()()()()()んだからさ」

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