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見えない過去を手繰り寄せて ≪side 光希≫

≪光希視点≫

 彼が何でもないように言った瞬間、時が止まったような心地がする。実際にそう感じたのは僕だけなのだろう。


 目の前にいる彼はただただ意味深く笑みを浮かべているのみだ。とても不気味である。


 それが愉悦からくるからかいの意図があるのみではなく、なにかを諦めたような疲れた様子が、より僕を混乱させる。どうして、僕に対してそのような顔をするのだ。


()()の言葉で『呆気にとられる』とはこういう顔のことを指すのか。またひとつベンキョウになったぜ。」

「……やっぱり、そうだったのか。だから、おまえと初めて会ったときにアイツとの既視感を感じたのは()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「そういうことだ。……それにしても今度は俺が驚かされる番か。まさか、このほんの少しのヒントで答えにたどり着くとはな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 再び彼に目を向けると一瞬だけ目に映った疲労感漂うような表情はなく、これまで見てきた太陽のようなからっとした笑顔が向けられる。


 先ほどまで感じていた糸を張るような感覚は少しだけ和らいだようだ。


「まぁ、同種って言っても亜種ぐらいの違いはありそうだがな。」

「これは予想外だな。でも、今はこれ以上は言うことが出来ない。すまんな。」


 彼はそう言うと会話を切り上げ、僕から去っていく。その様はかなり不自然で、先程の余裕綽々な笑みとは異なり、酷く慌てているようだ。


 余裕がなくなってしまうほど、知ってしまうと都合が悪いことでもあるのだろうか?


 そう思考すると胸が締め付けられるような不快感に襲われる。


「まぁ、今はそれを気にしている場合ではない。」


 先ほどまで彼がいた窓の向こうはいつの間にか曇りに変わっている。穏やかな陽だまりはすぐそこにあったはずなのに最初からなかったみたいだ。


 それが無性に嫌に感じた僕は見えるものを無視するようにその場所を足早に去っていった。

 

 ――


 「さて、今日はこの本でも調べるか。この本こそあたりだといいんだがな。」


 あの【鏡幻】がどこかへ去って行ったあと、図書館に向かう。それはある部類の本を探すためだ。


 刹那や幻と腹を割って話した日から、気づいたことがある。それは本来もっと早く気が付く必要があったのに見ないふりをし続けたものだ。


 「こんなに広い図書館ならば、一冊ぐらい見つかってもおかしくないはずなのにな。もしかして、禁術とかの部類にあったりするのか?」


 せせらぎと出会って10年と少しばかりの時を過ごしてきた。水神であるせせらぎにとって瞬きの間の時間でも、人間である僕にとっては短くない。


 だから、彼女のことを理解しているつもりだった。つもりだった、けど……、だけれど。


 『やめて!……私は、もう二度と()()()()を弔いたくないの‼』


 彼女があんなに声を荒げた姿を見たのも、感情のまま本能のまま動く姿を見たのも、何もかも……全部初めてだったんだ。


 それから、日々学業やクルイモノ退治を行う傍ら、せせらぎについて書かれた本がないかを探している。まぁ、その結果もあまり芳しくないものだが。


 僕がいた村やその周辺地域の民俗学の本を片っ端から読んでいった。しかし、そのどれにも水神に関する記述は全くと言っていいほど存在しない。


 あまりにも不自然すぎる。せせらぎが封印されていた祠は僕の村の近くにあった。したがって、彼女に関する情報がないというのはありえないはずなのに。


 「仕方がない。今日のところはこの本達を借りていくとするか。司書さんがおすすめしてくれた本、載っているといいなぁ。」


 【鏡幻】と話し続けたせいで予定よりも時間が押されている。こうなってしまっては仕方がない。本当はこの手段を使いたくはなかったが。


 《隠された安寧の部屋よ、わが声に応え、禍を弾く扉を開け》


 この部屋を何度も使っている幻や刹那、ひいては先生に話を聞くとどうやらこの部屋は時間を気にせず過ごすために時の流れが異なっているのだとか。あと、使用者が満足するとドアが開く仕組みになっているらしい。


 一度調べ物を行ったとき、このことをあまり理解をしていなくて、時間間隔が狂ったときは本当に困った。


 外に出てからもこの部屋の時間間隔で過ごしてしまったものだから、それ以降は使用を控えていたんだが。背に腹は代えられないのだ。数日間の生活を代償とする羽目になるが仕方がない。


 「しかし、童話とか読むのは初めてだな。小さいときは読む機会がなかったし。」

 

 今回借りてきた本は童話や伝説などの創作物が中心だ。今までの事実と言う視点で切り込むのではなく、それとは相反する視点で見て見ることにした。


 たとえ、童話と言う虚構だったとしても、それの元になるものが存在しているはずだ。火のない所に煙は立たぬと言うし。もはや、それにしか縋ることができないとも言える。


 せせらぎと、また一緒に居られるようになるのなら、数日ぐらいくれてやる。それだけの話だ。


 「今日借りてきた分はほとんど読んでしまったな。水神伝説はあったけど、場所があそこ()から離れすぎているし、見た目も違うみたいだ。……はぁ、なかなか見つからないな」


 自分で注いだコーヒーを飲みながら独り言ちる。この一杯の苦みが調べているうちに溜まっていく疲労を打ち消すのだ。そして、気持ちを切り替えて新しい本に向き合うことができるのだ。


 「よし、あと一冊か。……ってあれ?何かが挟まっている。これは一体……」


 最後の1冊、この本は司書から進められて借りたものだ。ここ最近図書館に入り浸りすぎたせいで司書さんに顔を覚えられてしまった。まぁ、こうやって見ると結果オーライか。


 今日借りてきた本の中で一番年季が入っていると言っても過言ではない。なんせ、この本は明治時代に書かれた本の原本のレプリカだ。


 どうして、この本が一学校の図書館にあったのかは司書さんにも分からないらしい。


 そんな謎だらけの本に1枚の封筒?らしきものが挟まっている。恐らく、本を開いたときにずれたのだろう。


 「手紙みたいだな。一体誰の何だろう?」


 封筒には花で縁取られており、年頃の女の子が好みそうだ。これは見ない方がいいか?手紙の相手への恋文とかだったりしたら、すごく気まずい。


『読んで。あなたはそれを読まなくちゃいけない。』

 

 誰かが僕の耳元でささやく。反射的に顔をあげて、部屋を見渡してみても誰もいない。この部屋には僕ただ一人。そのはずなのにどうしてほかの人間の声がする?


 カチカチと鳴る時計が僕の中に変な緊張感を発生させる。一体何なんだ、この胸騒ぎは。どうして、僕はこの声に聞き覚えがある。


 思考を切り替えて資料と向き合う。表紙には何も書かれていない。質素で簡潔なものだ。


『読んで。』


 また、あの声だ。先ほどよりも、大きい。耳鳴りがする。頭に直接語りかけてきているみたいだ。音が反響して頭が痛い。


『読んで』


 資料を捲ろうとすると、また声がする。さっきよりもこちら側に干渉してきているようで腕の自由が利かない。頭がいたい。


『読んで』


 何とか、資料をめくってみても、思考が声の方に持っていかれているせいで内容が全然入っってこない。あたまがいたい。


『読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで


 読んでよ!』


 「っ、分かった。読むから読むから、干渉しないで。」


 このままだと、思考すらままならなくなって本来の目的が達成できなくなる。どうやら、選択肢は一つみたいだ。


 深呼吸をする。緊張する心を整え、少し震えた手で手紙の封を切る。


『水鞠へ』


 僕はこの時思いもしなかった。手紙は若者同士の甘酸っぱい恋文と言うものなんかじゃなかった。むしろその逆だ。


 これは、別れをできなかった家族へ送った、一人の男の後悔の手紙だ。


「面白い」「続きが読みたい」と思った人はブックマークを、「ここ、どうなってるの?」「こういう話書いてほしいという人」は感想を、どうぞよろしくお願いします。

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