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再び交わる僕らの思い  作者: ほっとけぇき
一章:途切れ行く流れ
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途切れた繋がり、掬い上げる手 《光希視点》

≪光希視点≫

 話をしよう、そう涼介が言ったはずなのに、二人とも言葉を発さないまま、時間だけが過ぎていく。


 何か話そうと思っても、あの日のことを思い出して気まずくなる。涼介が口を開かないということは彼もそう思っているのだろう。


 「お前、今授業じゃないのか?」

 

 居た堪れなくなってしまった僕の口から出た言葉は謝罪の言葉ではなく、全く関係のない、この状況に対する疑問だった。いや、なんでだ。そこは謝罪の言葉を言うべきなのに。


 ほら、彼も黙りこくってしまったじゃないか。よく見て見ると、ちょっと唇をかみしめているように見える。


 「それは、……さぼったからだ。」

 「さぼったから」

 「その、……お前が退院するって言うのを、刹那が幻に話しているのをたまたま聞いたんだ。だから、そわそわして眠れなくて気づいたら寝坊してた。」

 「寝坊してた。」


 彼の口からさぼりという言葉が出てくるのも驚きだが、寝坊したという言葉が衝撃的過ぎる。開いた口が塞がらないとはまさにこのことを指すのだろう。彼の顔に目をやると、耳が赤くなっていた。


 「それって、僕が学校に来るのを楽しみにしてたってことか?」

 「それもあるけど、……あの日のことを謝りたかったから。」


 彼がそう重々しく言った途端静寂に包まれたような気がした。それほどまでにデリケートな話題だということだ。彼も言うのに覚悟が必要だったのだろう。彼の頬に汗が伝うのが見えた。


 「あ、れは……。」

 「俺、お前の気持ちを何も考えていなかった。……思えば、俺はいつもお前にエゴを押し付けてばかりだったな。だから、今日でそれももう止める。」

 「ち、違う。……そうじゃ、そうじゃないんだ。」

 「ごめんな、今まで。もう、俺と関わらなくていいから。」

 「ま、待って……涼介!!」


 咄嗟のことで言葉が出てこなかった。僕が涼介に伝えようとしても、彼は自分を卑下する言葉ばかり吐く。そして、そのまま教室から出て行ってしまった。


 僕は彼の後を追うことができなかった。彼の後を追おうとしても、足が動かない。あの日言ったこと、今も感じている自分の無力さ……いろいろな感情が足かせになって僕を足止める。


 「エゴを押し付けてきたのはこっちだって言うのに……‼」


 強者に甘え続けた自分、一人じゃ何もなすことができない自分、無償の友情に甘え続けた自分、本当に何もかもが嫌になる。


 握りしめた拳からは血が滴り落ちる。血が出ているはずなのになぜか痛みを感じない。


 「光希君‼……手、怪我しているじゃないですか‼」


 廊下から誰かが走ってくる音がしたと思うと、教室に入ってきたのは刹那だった。急いできたのだろうか、彼の腕にある荷物はバラバラでいつ床に落としてもおかしくないほど不安定だ。


 刹那は僕を見るや否や、荷物を自分の机に置きカバンの中から小さな巾着を取り出す。それは救急袋だったようで、手際よく僕の手を手当てする。


 僕はそれをただぼんやりと眺める。消毒液のついたガーゼが傷口に触れると、いつも以上に良く沁みる。


 ぼんやりとしているといつの間にか手当は終わっていたようで、刹那に肩を揺らされてやっと現実に引き戻される。


 顔をあげると友人たちが心配そうに僕の顔を覗いていた。一限目の授業が終わってみんな教室に戻ってきたのだろう。彼らが僕と刹那の周りを囲っていた。


 「光希君、教室で何があったのですか?」

 「教室に来たら、涼介がいて……少し話してたんだけど。…………『俺と関わらなくていい』って言って、そのまま教室から出て行っちゃった。」

 「……本当に、あの男は‼何か聞き耳を立てていると思ったら、企んでいたのですね……‼こうなったら、無理やりでも……」

 「待ってくれ‼あいつは悪くないんだ‼悪いのは、とっとと、あの日のことを謝らなかった僕だ。だから、彼は、……余計に傷ついたんだ。お願いだから、彼を責めないでほしい。」


 そこまで言うと、自分で口に出して改めて悲しくなった。涼介に言葉が届かなかったことに対する悔しさと、自分に対する怒りで唇を噛みしめる。


 ピシッと言う音がしたと思うと、教室の時が止まったような気がした。それほどまでに教室内の誰もが固まってしまったのだ。


 「こうちゃん、そんなに唇を噛みしめたらだめだよぉ~。ほらほら、血が出ちゃってるから、ね?」


 静寂を破ったのは(ゲン)だった。彼はのんびりとした口調で僕に声をかけながら、血が出ている僕の口元にハンカチをそっと当てる。彼のこういう気づかいが今の僕にはすごくありがたい。


 (ゲン)はそのまま刹那の方に向き直す。まだ刹那は苛立っているようで、眉間にしわを寄せながら顔を顰めている。


 「せっつん、イライラは健康によくないよぉ。第一さ、こうちゃんが怒らないでって言ってんなら話はそこまでじゃん。……あと、詳しいことわかんないのに突撃しても、涼介は逃げると思うよ。」

 「そうですね。……冷静じゃないところをお見せしてしまって本当に申し訳ないです。」

 「よかった、いつものせっつんに戻った‼」


 刹那が冷静さを取り戻したことにただただ安堵した。彼は手段を達成するためならば、少々無茶なことをすることがある。今回もそうならないか非常に肝が冷えるような心地だった。


 その後、我に返って時計を見ると二限目が始まる5分前であることに気づいたから、ボソッと「二限目の準備しないと」って言ったらみんな自分の席に戻っていった。


 僕の席は後ろの方で、かつ角に近い席なので教室全体がよく見える。授業が始まる前に教室を見渡すと涼介は戻ってきていたようだ。


 ただ、一瞬目が合ったと思ったら思い切り逸らされてしまった。


 やはり、彼が言ったあの絶縁宣言みたいなものは本気だ。今の彼には僕がどんな言葉を言っても届くことはないだろう。


 授業の予鈴が鳴る。これから授業が始まるからと、気持ちを切り替える。心の中にあるもやは晴れないままだ。


 「…………」


 2限目の授業は数学だ。内容的にも休む前と比べ結構進んでいる。2か月も学校に行けてないのでそれも当然のことだ。


 だけど、内容が全く分からないというわけではない。休む前に習っていたことを応用すればこれくらい難しいわけでもないし、入院中暇だったから勉強していたのが功を奏したようだ。


 「え~、隣の席の人と今やったところを確認しながら、問題1を解いてください。」


 隣の席は誰だっけと思っていると肩を叩かれる。「お~い!」と言いながら、にかっとした笑顔を見せつけてきたのは(ゲン)だ。


 「いやぁ、こうちゃんが元気に戻ってきてくれてよかったよ。だって俺、授業が難しすぎて全然理解できなくてさ。後ろのやつとか刹那に教えてもらってたんだけど、無理だった。」


 (ゲン)のこういうところは相変わらずなようだ。ちょっと、いや、かなりのんびりとした性格の(ゲン)は、勉強がとても苦手だ。


 勉強が苦手、というにはいささか語弊がある。正確には『知識が定着するまでに時間がかかる』のが彼には合っている。


 それにしても、まいったなぁ。僕も入院している時に自習していたから、授業のやっている範囲を多少勉強していたからって、人に説明できるほど理解しているわけじゃないんだぞ。


 「……どこが分からないんだ?」

 「このページのさ、この問題なんだけど……。途中までは教科書とにらめっこしながら解いたんだよ?でも、途中からちんぷんかんぷんになっちゃってさ~。」

 「ここまで解けているのなら、この公式を使って解けばいい。で、今日の授業内容はこの内容を補うようなものだ。だから、今は先生に言われた問題を解きながら今日の内容を理解した方がいいと思う。」

 「なるほど、とりあえずこの問題を解くかぁ。」


 彼が問題を解いたノートを見せてもらうと、途中まではしっかりと解かれているのに、いきなりミミズのような文字に変わっている。恐らく、そのミミズのような文字のところが分からなくなって諦めたところだろう。


 そんなこんなで、二限目の授業は問題を解いて先生の解説を聞く、それらを繰り返していたらあっという間に終わりを迎える。


 「はーい。今日の授業はここまで。各自、復習を忘れないように」


 先生が、授業の終わりを宣言すると、生徒たちは教室から出ていく。この後が昼休みの時間だからだ。


 僕も食堂に行こうとしていたのだが、誰かに声をかけられた。


 「こうちゃん、昼飯一緒に食べない?」

 「僕も一緒にいいでしょうか?」


 声をかけてきたのは刹那と(ゲン)だった。一人で食べるよりも複数人で食べる方が好きなのでもちろん了承する。


 「あぁ、いいぞ。食堂の席、探さないとな。」

 「いえ、その必要はありませんよ。」

 「そうそう、購買でも買うことができるし。空き教室で食べようよ。」


 二人は僕の肩を組みながら目線を後ろにやる。二人から出る殺気のようなものが目線の先に突き刺す。


 「ちょっと、聞きたいことがありますからね。食堂では話しにくいことなのでそうしましょう。」


 嵌められた。二人はグルだったようだ。こうなってしまっては、根掘り葉掘り聞かれるだろう。


 僕はそんな予感を感じ取ってトボトボと教室から出ていった。


 「……光希」


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