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再び交わる僕らの思い  作者: ほっとけぇき
一章:途切れ行く流れ
20/43

目覚めぬ彼と見守る俺 2 ≪涼介視点≫

この話の後は新章に入ります。

≪涼介視点≫

 夜になって家でなんとなく空を見ていると、ちょうど光希たちが調査している施設があろう場所が不自然に明るくなっているのが目に入った。そして、雷鳴が轟いたかと思うと地面が一瞬大きく揺れ、何かに引っ張られたと思うとバランスが取れなくなって床に座り込んだ。


 立ち上がろうにも何者かに縛られたのか、体が硬直してうまく動かせなかった。立ち上がろうともがいているとひたひたと足音が聞こえてきた。それはどうやらこちらに近づいているみたいだ。


 『――さん。―介さん。――君のこと頼みました。』

 「……分かった。その頼み受け入れよう。」

 「ふふ、本当にありがとうございます。……本当に。」


 目の前に淡い光が現れたかと思うとそれは人の形をしているのがよくわかる。しかし、全体的に朧気で実体がないように見えた。彼女には時間がなかったのだろう。そう一言俺に告げてから霧のように淡く消えてしまった。彼女がいたところは少し水に濡れている。それと少しの雨のにおいが彼女のいたことを証明していた。


 彼女が俺の部屋を去ってすぐ、学生部隊と地上大隊の方から出動要請が飛んできた。出動要請の裏ではいろんな音が聞こえてくる。クルイモノの怒りがこもった咆哮、戦闘を行っているだろう隊員たちの怒声、雷の轟く音が響き渡っている。その中でも光希の泣き叫ぶ声がやけに鮮明に聞こえたような気がして、目の前が真っ白になった。


 しばらく動くことがままならなかった。それとともに自らの朝の行動を後悔した。あの時、こうなると分かって入れば、彼も、彼女も死の淵で彷徨うようなことにはならなかったかもしれない。考えれば考えるほどよくない方向に物事を考えてしまう。


 現場に到着すると、そこは死屍累々という言葉を体現したような場所だった。クルイモノ達の残骸が散らばっているのかと思うと、その中に人間の一部がちらほらと転がっているのが見える。それだけじゃない。クルイモノの中には人かクルイモノかを判断できないナニカが泣きわめいている。


 たくさんの人間が血を流したのだろう。血なまぐさい匂いがあたり一面充満して鼻をつままずにはいられない。この状況は過去の恐怖を思い出させる。冷静になれない。何ともいえない焦燥が俺の体を支配する。


 ひと際大きな音がして、顔をあげて敵を見定めて戦闘をするように気持ちを切り替えようとした。しかし、切り替えることができなかった。目に移ってきたものを脳が理解することを拒絶したからだ。あぁ、なんということだ。


 「ユル、サナイ。……許さない許さない。ドゥ、してどうして。……せせらぎ……なんで?」

 「菱谷隊員、止まりなさい‼そんな状態で戦ってはあなたが死んでしまう‼」


 そこにいたのは落ち武者のような男だった。目に飛んできた衝撃が大きかったせいで、それが光希であるということを一目で認識できなかったのだ。普段の光希の姿とはあまりにもかけ離れたものだった。しかし、それが光希であると認識できたのは過去の家族を失ったときの彼との姿と酷似していたからだ。

 

 彼の綺麗なよく手入れされた短いさらさらとした銀髪はざっくばらんに切られていて、毛先は血を浴びすぎたのか血で赤く固まっている。海のようにきれいな瞳は獣のように見開かれている。感情を表に出すのが苦手で、いつも何を考えているのか分からない表情が、怒りに歪み激情を隠そうとしないのがよくわかる。


 彼の体の至る所から血が流れていて痛みからなのか十分に動くことができいないのだろう。痛みに悶えているのか唸り声がよく聞こえてくる。その様子は人というよりも傷を負った獣という言葉が似合うようである。


 それなのに彼は戦い続けている。まるで癇癪を起して八つ当たりする子供のように乱暴な動きで敵を葬っている。それでも必要以上にけががひどくなっていないのはほんの少しだけ理性が残っているからなのだろうか。ただし、どれだけ彼を止めようにも声は届いていないようだ。


 それでもこのままだと彼の体が持たないし、クルイモノに近すぎることで動けなくなったら彼らの糧にされてしまう可能性が非常に高い。今の彼のとってこの術は体に毒だろう。しかし、俺と光希の間には大きな体力差があった。だからこうするしかなかったのだ。


 「……光希、すまん‼後でぶん殴るなりなんなりしてもいいから‼」


 どうやら、光希は声が聞こえていないようで一種の暴走状態に入っているようだったので、意識をジャックさせて強制的に気絶させる術を使って初めて光希は動きを止めた。術で構築された鎖は彼をしっかりと拘束した。


 それでも、光希が地面に倒れることはなく、気絶してもなお戦おうとする姿がひどく痛ましい。あのまま鎖で彼を拘束しなければどうなっていたのかを考えるとぞっとする。まるで10年前のあの残虐を彷彿とさせるようで現実逃避してしまいたかった。泣きたくてたまらなかった。


 それでも、俺たちは戦う手を緩めてはならない。その日の夜はとても長いものに感じた。彼を救護班に任せて避難させた後、俺が代わりに、クルイモノとの戦闘に参加したがまさに地獄という言葉が似合う壮絶なものだった。敵をどれだけ殺しても無限にわいてくる。


 俺たちだけだったらダメだったかもしれない。それほどまでにみんなが疲弊していた。そんなときに地面から水の槍がたくさん出現し、俺たちを手助けするように敵を妨害した。槍が出現した方を見ると微かにせせらぎの気配を感じた。あぁ、彼女が死んだわけではない可能性に少しだけ前を向くことができた。


 敵が出てこなくなって周辺の浄化作業に入ったときにはもう朝になっていた。


 それからは光希が運ばれた病院に足を運んだ。病院に着き光希と面会したい旨を伝えるとそれは無理だと伝えられた。それもそうだろうと思って帰ろうと思ったが、施設の戦いにいた救護班の男がやってきて、彼は光希が入院しているという部屋に俺を連れていった。彼が言うには俺の名前を呼んでいたかららしい。


 眠っている光希には契約しているはずのせせらぎとのつながりが感じられなかった。彼女の身に何かが起こってつながりを無理くり切るか、あるいはつながりを維持できないほど力を使わざるをえなかったのだろう。


 つまり、彼女は今死んでいるのか生きているのか判断できない状況なのだろう。でも、あの時の状況を考えると彼女は生きている可能性が高いと信じたい。


 医者曰く、彼はいつ目覚めてもおかしくないらしい。それでも彼が目覚めないのは、相棒とも家族とも言える彼女がいなくなってしまってたことに絶望していることが要因として挙げられるらしい。


 未だに眠り続けている彼の顔を見る。まだ痛々しさが残る姿だが、あの夜に比べれば何倍もましだと思う。体の傷が治りかけても、心の傷が治っていないからまだ目が覚めないのだろう。


 「待っているから。お前は一人じゃない、俺も、みんなもお前の目覚めを待っている。だから……」

 

 ゆっくりでもいいから、その目を開けてくれ。それはいなくなってしまった彼女との約束なのだから。お前が目を覚まさないと彼女はもっと悲しむぞ。


 それから一週間後、光希は目を覚ました。目覚めた彼の目には光がなく闇に沈んでいた。その様子はどこか親とはぐれてしまった子供のようだった。


 「弱くて、ごめん……せせらぎ」


 俺はそう独り言ちる光希に声をかけられなかった。


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