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型落ち勇者によるデフレーション物語

作者: THERDRIE

「勇者よ。お前はここで私の手によって命を散らす。だが、少し残念と言っておこう....」


そう言って、52代目魔王と呼ばれるエルフ族の男。カルラは手で顔を抑えながら笑った。


「34代から51代まで魔王を討伐してきたお前が、ここまで弱いとわな!!」


金髪の男が、その青い目を見開きながら一人の男に向かって嘲笑し、その笑い声が魔王城に響き渡る。

 嘲笑を向けられた勇者、バルラ・ルードベドは、動けなくなった仲間たちを見る。しかし、魔法使いも、ヒーラーも、戦士も、その場に立っているのは、ルードベドと魔王以外にいなかった。そう、仲間は死んでいた。 

 男は絶望していた。まさか、今年なのか。と、そう思いながら。

 彼は、これまでに一年おきに登場する魔王を、何度も討伐してきた。そして、勇者だった。ずっと戦い続けてきた。みんなのために戦ってきた。だから、これからも、ずっと戦い続けていられると、そう思っていた。

 しかし、彼の願いは敵わなかった。どれだけそう強く願おうとも、体の弱体化にはついていけなかった。『歳』。誰であろうとも、これに対抗できるものはいない。それは、彼もその一概に含まれていた。

 敗北。その二文字が、彼の脳内を埋め尽くす。恐怖が、緊張が、焦燥が。彼の体中を覆って、なにもできなくさせる。だが、魔王はそんな事はどうでもいいと言わんばかりに、玉座から静かに立ち上がり、敷かれた金色の刺繍が端に入っている赤色のカーペット上をゆっくりとあるき出す。

 そして、魔王はルードベドの眼の前に来て、手を広げたかと思えば、炎に包まれた剣を取り出した。そして、その剣を、彼の頭上で留めて、口を開く。


「じゃあな。型落ち勇者」


 彼は魔王の言う通りだと、本気でそう思った。

 51代目の魔王を討伐する旅をしていた間。彼は51代目の魔王を討伐したときよりも力が弱まっている事に気づいた。

 本人も気づいていたのだ。自分が、もう型落ちなのだと。

 静かに瞳をつぶる。このまま死ねるのであれば本望だ。そう思ったルードベドは口元に微笑を浮かべる。楽しい人生だったと。魔王の大剣が振りかざされようとした時だった。


「そこまでだ、魔王」


爆発音と、瓦礫が崩れた音が入り混じった音が聞こえ、彼ルードベドは目を開けた。

 すると、眼の前には彼と同じような装備を着た少年を彼は見た。その隣には魔法使いのような少女。ヒラーの見た目を忠実になぞったような服を着た男。そして、大柄で筋肉が浮きだった体をした男。

 その時、ルードべドはそいつらが何者なのかを静かに悟った。

 新人勇者パーティというのは、数多く存在する。しかし、今回の旅の途中、街の人から聞いた事があった。

 新人の中でも軍を抜いて強いパーティがいる。と。その時の彼なら信じなかったが、今、さっきまで沢山のスキルや魔法を酷使してでも消耗すらしなかった魔王を、いとも簡単に倒す彼らを見て、信用するしかできなくなった。

 そして、気づけばそいつらはあっという間に魔王を討伐してしまった。その場を立ち去ろうとするが、一人の勇者と思われし少年が彼の顔を覗く。生きている。と少年はわかったが、ルードべドを助けはしなかった、


「どうして、助けようとしなかったんだ....?」


ルードべドは、深く呼吸をしながら、その言葉を絞り出した。勇者が人を助けないなんて、あり得ない。そう思ったからだ。

 


「普通に考えて、お前が死んだ。そうわかれば、俺達の戦績が上がる。それだけだよ。この弱者が」


 そういって、勇者は彼を嘲笑した。この状況が好都合。そう思わせるような、蔑み方だった。

 魔法も、ヒーラーも、誰一人彼らのパーティに手を貸すことはなかった。彼らは魔王城にあった財産などを袋に包んで担ぎ終え、その場を去る。しかし、勇者は帰る途中、彼に捨てぜリフを吐いた。


「じゃあな。おっさん」

 

 そして、そのパーティは姿を消した。

 彼は魔王城の天井を眺める。魔王が討伐されたからか、さっきまで不穏な雰囲気を醸し出していた紫がかった天井は、斜陽があたった赤色の天井に変わっていた。

 死ぬのだろうか?彼は、死ぬのを恐れた。いやだ。まだ死にたくない。まだ、人々に必要とされていたい。皆を、守りたい。あんな勇者じゃ、俺は納得できない。あんな勇者に、託せない。

 様々な不安が募る。その時、彼は最期にある方法を思いついた。それは、ヒーラーへの魔力譲渡だった。これなら、彼は復活し、皆の命も助かる。そう思った。

 ルードべドは力を振り絞り、やがて、彼の手に触れた。


「帰ってきてくれよ」


目尻に涙をためながら、魔力を流す。彼自身の魔力が尽きかけるのを感じる。だが、自身よりも、みんなが回復して、復活する事を望んだ。だけど、だけど。魔力をいくら流そうとも、ヒーラーが目を開けることはなかった。当たり前だ。彼らの心臓は止まっているのだから、生き返ることなんて絶対に起こり得ないことなのだから。

 思わず、彼は思いっきり歯ぎしりをする。魔王の強さに。防具の弱さに。そう、彼は責の念を他人に押し付けようとしたが、できなかった。

 これは、紛れもない自分のせいなのだから。生き返させてあげることなんてできなかった。

 彼が絶望に落ちている最中だった。彼の手が、誰かの手を重なる。その手は温かくて....。それはまだ生きていることを示していて。

 思わず顔を確認する。そこには、彼のために頑張って支援魔法や攻撃魔法。アシストをしてくれたり、時には落ち込んだ彼を励ましてくれた、彼女の姿があった。


「ア、アルベナ....」

「こら。30になって泣くなんて、みっともないわよ」


そういって、彼に何かしらの魔法を発動させる。

 力が溢れかえってくるのを、ルードべドは感じた。そして、手を確認する。すると、さっきまでガサガサしていた手は、全盛期のツヤのある手をしていた。

 え?と声を出す。そしてその声も、気づけば若々しい声に戻っていた。


「これって」

「私には、これくらいしかできないから。君は、まだ勇者として皆のために戦っていきたい?」

「なあ。それって実質これから死ぬよ。って言ってるみたいじゃないか。生きてるんだろ?じゃあ、そんな物騒な事は言わずn」

「死ぬから言っているんだよ」


彼が言葉を締め終える前に、彼女は言葉を遮って、その衝撃的な言葉を発した。

 彼は、彼女の容態を確認しようとはしなかった。なぜなら、頭の奥底で知っていたから。彼女が血まみれで、もう呼吸をするのも一苦労で、言葉なんて発したら死期が早まってしまうことも。

 ルードべドは、なにも言い返せなくなった。なにも、できなかった。


「それで、君はまだ勇者として人を助けたいんだよね?」

「うん。だけど、もう俺は型落ちなんだ。もう、あの勇者に持っていかれた。きっと、あの勇者のことで国も、街も、村も、全員俺のことを忘れる。だけど、俺はそれが許せない。まだ、活躍していたい。まだ、戦い続けていたい。まだ、終わってない!!」


涙をぐっとこらえていたのにもかかわらず、気がつけば彼の目からは大量の雫が落ちていた。

 彼女はその手をなんとか動かしてその涙を拭き取ってあげた。そして、ある提案をする。


「じゃあ、君は『ルーシュ』に行くんだ。言っちゃいけないと思うけど、私はこの戦いで死ぬことを理解してたんだ。そして、君がそうやって悔しがることも。全部理解してた。だから、私は彼らの情報も知っている。そう。彼らの出身の学校が、『ルーシュ』だ。君はこれからそこにいって、学ぶんだ。そして、勝ってね」


口を開けたまま、彼女は固まった。

 ルードべドは彼女の方をさする。しかし、反応はない。

 アルベナは死んだ。だが、彼女は最期まで彼に付き添い、彼を若返らせた。ならば、彼女の願い通りにするしかない。彼は、回復した魔力で治癒魔法を行い、みんなで毎年魔王を倒し続けるために、四人で行き続けた魔王城を、一人で抜けた。

 日差しが、彼を強く照らす。街から遠く離れているここでも、今日も平和だということが分る。

 凡人ルードべドは、さっきとの戦いで折れた剣を空に突き刺す。風が吹き、彼の緑色の髪がなびく。そして。彼は闘争心をむき出しにした新緑の目を見開き、宣言する。


「俺は、もう一度勇者として返り咲く!!」


と。

 もしこの物語が面白い、続きが見たい。と思った方は評価して頂けると幸いです。何卒よろしくお願いします

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