28、一触即発
リフィアは午後の授業が終わるまで、医務室で様子を見ることになった。
ヴァイスは授業に出席せずに、ずっとリフィアの手を握り付き添う。
休憩時間に、アーラとルナントフが医務室に駆け込んで来た。
リフィアが倒れたという噂を聞きつけたようだ。
ベッドで眠るリフィアを見て、二人は同時に叫ぶ。
「リフィア!」
アーラはメブリードに尋ねる。
「リフィアは大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ですよ。眠っているだけです」
ルナントフが気になっていることを質問する。
「あの、毒を飲んだんじゃないかって、噂になってるんですけど···本当ですか?」
メブリードはヴァイスに視線を向け、事実を言ってもいいのか窺っている。
「本当だよ。毒が入っていたのは、僕の食事だけどね。僕はあらかじめ解毒薬を服用していたけど、リフィアがソースを舐めてしまって···」
ルナントフはヴァイスの胸ぐらを掴む。
「貴様!毒が入っている可能性を知っていながら何をしてるんだ!リフィアは死んでいたかもしれないんだぞ!!」
「言い訳はしない。よかったら一緒に毒を盛った犯人捜しする?僕は背後に黒幕がいると考えていて、身近な人物だと思うんだよね」
穏やかな口調ながら、敵意がこもった視線をルナントフに投げた。
ルナントフは睨み返し、殴り合いでも始まりそうな雰囲気だ。
「二人ともやめてください。リフィアがゆっくり休めないじゃないですか」
アーラにそう言われて、ルナントフはヴァイスから手を離すと、舌打ちをして医務室を出て行った。
「ドキドキしますねぇ、あなたたち三人の関係は」
「先生、楽しそうですね?」
その後、眠っているリフィアを抱きかかえ、オルドリー伯爵家に向かった。
リフィアをベッドに寝かし、何が起こったのかわからずオロオロしている母親に事情を説明し、誠心誠意謝罪する。
母親はヴァイスを責めなかった。
娘が助かったことに涙を流し、安堵しているようだった。
メブリードから、リフィアの両親への伝言を預かっていたので、母親に伝える。
『お嬢さんが目を覚ましたら一度、医師に診てもらってください。喉から腹部にかけて痛みが出る可能性がありますので』
ヴァイスは眠っているリフィアの頬を撫でる。
「目を覚ましたら、説明しなきゃな···」
できることなら、命を狙われていることは教えたくない。
心配させてしまうし、不安にもなるだろう。
だが、巻き込んでしまったからには説明は避けられない。
ヴァイスは帰宅すると、すでにタリダルが帰っていた。
「遅かったな。何かあったのか?」
ヴァイスは食堂での出来事を説明した。
タリダルはため息をつく。
「あとでオルドリー伯爵に詫びの手紙を出そう」
「···申し訳ありません」
「それにしてもお前、気が緩んだな?大方、オルドリー嬢にソースを取ってもらったのが嬉しくて、一瞬浮かれたんだろう?」
「返す言葉もありません」
「気になるのは、ティアーノウッドの毒が使われたことだな」
「はい。偶然でしょうか」
タリダルは黙ってしまった。
ティアーノウッドの商人とルナントフの父親は関係があると見て、シャッテンが調査中だ。
毒を盛った犯人が、ルナントフやフォグである可能性が高まる。
タリダルは考え込んだあと、ヴァイスに告げる。
「私はこれから王宮に行ってくる」
「僕も連れて行ってください!」