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天才と凡人

作者: 兎餅

美術部に一年の時に入部した私。


小さい頃からお絵かきが上手くて周りからは褒められていたし、絵画がコンクールで入賞したり、美術ではいつも満点の評価をもらっていた。


だけど・・・だけど。


3年の先輩の作品に出会ってしまった。


こんな絵を描ける人がいるなんて信じられなかった。

一目見て衝撃を受けた。

こんな色使いをする人を見たことがなかった。

こんな視点で物事を見ることができるなんて。

こんな発想力を絵画に全てぶつけることができるなんて。


私はただ、先輩の素晴らしさに、絵に衝撃と劣等感を抱いた。


私は少し絵が上手いだけ。


先輩みたいに、何もない所から100以上のものを生み出す才能はない、と・・・。

分かってしまったから。


コンクールが近い。

私は完全にスランプになっていた。


いつまでも描きたいものが定まらない。

今日も部室で一人ボーっと風に揺れるカーテンを眺めていた。

部員たちは大体絵を完成させて先生に提出して帰宅している。


「おつかれ」


不意に声をかけられ、振り返ると、当の3年の先輩だった。


「おつかれさまです」


「どうした?最近元気ないな」


私が挨拶に返事をすると、先輩に問いかけられた。


「そうですか?」


私は曖昧に答えた。だって。あなたのせいでこんなスランプになってるんですよ、とは言えない。


「先輩こそ、どうして部室に?コンクールの絵は完成したんじゃないんですか?」


私が問い返すと、先輩は、頭をかきながら言った。


「うーん、ちょっと今回スランプで」

「は?先輩が?」


思わず失礼なことを言ってしまう。信じられなかった。あんなに素敵な絵をいつも難なく描いているように見えるのに。


「はは、意外?たまになるんだ」


そう言いながら先輩は美術部員用の棚から自分のキャンバスを取り出すと、イーゼルに立て掛けて座る。


「描きたいものがいつもは浮かぶんだけどね。今回はなかなか浮かばなくて、困るよ」


「そう・・・なんですか」


私は聞きながら思っていた。先輩だって悩むことがあるんだって。私だけじゃないと知って少し心が軽くなる。 


「あ、田崎先輩は、自画像にしてましたよ。自画像、どうですか?」


私がそう提案すると、先輩は、少し考えて言う。


「僕、自分の顔あまり好きじゃないからやめとくよ」


「え・・・」


私は先輩の顔をまじまじと見る。

普通にかっこいいと思うけどなぁ。


「そ、そうなんですかぁ、私はかっこいいと思いますよ」


私がそう言うと、先輩がこちらを見て言う。


「そっか、竹野の絵はいつもいいからな。竹野に描いてもらえば少しはマシになるかもな」


自嘲ぎみに笑う先輩。何か・・・こんなに自信のなさそうな先輩を初めて見た。

と同時に、私の絵を褒めてもらえた嬉しさも沸いてくる。


先輩は、凄く才能を持っている人だけど、だからといって自信があるわけじゃないのかな。

超人みたいな人だと思ってたけど、実は私みたいにいろいろ悩んでいて・・・。


そう思ったら、私は勢いよく立ち上がっていた。


「先輩!私、先輩を描きますっ、先輩は、私を描いてくれませんか?」


「え?」

いきなり立ち上がった私に驚いた顔をする先輩。


「私の絵を評価してくれるなら、きっと、先輩のこと素敵に描いてみせますから!」


私がそう宣言すると、先輩は、顔を赤くする。


「そっ・・・えーと、わ、分かった。人物はコンクールで描いた事ないから、描いてみようかな」


「はいっ!」


私は燃えに燃えていた。

絶対に、先輩を素敵に描いて見せる!!と。


コンクールの発表の後、部活が終わった後、私は先輩と帰宅していた。

絵を描いた事で私と先輩は、親しく交流するようになっていた。


「あーあ、折角素敵に描いたのに、やっぱり先輩には叶わないです」


先輩の描いた絵が最優秀賞。


先輩の描いた私は、凄く色使いが素敵で、どこか夢のような儚い雰囲気が漂っていた。

さすが先輩だと、描いている途中で見せてもらって感心した。


それに、色使いとかも教えてくれて、今回の先輩を描いた絵も先生に上達したと褒められたし、私の絵は優秀賞に選ばれた。


「そんなことないよ。竹内が描いた絵、僕は好きだよ」

先輩が微笑んで私に言う。

私は先輩にそう言われてドギマギしてしまう。


「そうですか?尊敬する先輩にそう言われて嬉しいです。先輩は、自分の顔、好きになれましたか?」


私はそれをどうしても聞きたかった。

先輩が自分の顔を好きになれますようにって願いを込めて絵を描いたから。


「うん、どうしてかな。自分の目で見るより、竹内の目を通して描いてくれた絵のほうが好きになれたよ」


「あ、私もです。先輩の絵に描かれた私、素敵だった。先輩は本当に天才ですよ。私、あの絵、一生忘れないと思います」


私は自分が描かれた絵を思い出す。先輩の視点からはあんな風に見えてるんだ、と思うとドキドキした。


「竹内、良かったらあの絵、くれないか?」


「えっ?」


先輩が私を真剣な眼差しで見ている。


「そんな真剣に言わなくても。もちろんですよ、先輩があんな絵でも欲しいと言ってくれて嬉しいです」


「竹内は才能があるよ。絶対だ。だから自信を持って」


先輩は、穏やかな声でそう言い聞かせるような口調で私に言う。


「先輩・・・。じゃあ、先輩も自分の顔、好きになってくださいね?」


私は先輩の言葉に励まされながら、先輩にも自信を持ってほしくてそう切り返す。


「竹内が僕の良いところをいつも教えてくれたら、好きになれるよ」


先輩は、そう言って、細い指で私の頬を撫でる。

いつも天才的な絵を生み出すその指が私に触れていると思うとゾクッとする。


「え、それって・・・」


私が意図を計りかねて困惑した目で先輩を見つめ返すと、先輩は、私の瞳を見つめて柔らかい笑みを浮かべた。


「僕はもう、竹内以外の人を絵に描く気はないってことだよ」


その言葉に私は痺れたようにその場に立ちすくんでしまった。

先輩の笑みが綺麗で、この笑顔をキャンバスに保存したいという強い想いを抱きながら。


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