国王
身体が最近楽になった。
理由はわかっている。あの魔法使いとやらが、悪いモノが溜まっているから取り除きましょうと言って私に行なっているマッサージの効果だ。
香を焚きながら、オイルを垂らして行われるマッサージは心地よい。公務で疲れた身体によく効く。そして心地よさにいつのまにか寝てしまって、目が醒めると身体が楽になっているのだ。
「獣人とはいえ、なかなか使える男だ」
最近王妃が王子のために雇った魔法使い。王子の健康を維持し、王子のために事故や病気を防ぐ加護も与えているとか。
王妃が高く評価するだけあって優秀だ。このように私の役にも立っているし、あれが来てから王妃も精神的にかなり安定した。
「王宮内は落ち着いた。国の運営も上手くいっている。最近はいいことばかりだ」
そう。最近国が豊かになっている。農作物は今年の異常な寒気にも耐え、質の良いものばかりが豊作だ。港町の漁業も、環境が悪化しない程度に漁を抑えているがそれでも大漁だという。鉱山でも金の取れる量がなぜか増えたと喜びの声が上がった。
まるで、数百年前聖女が降臨した時のようなお祭り騒ぎ。だが、数百年前と違い教会に託宣はなかったしそれらしき存在も見つかっていないからたまたま時期が良かったのかもしれない。あるいは私が数年間行ってきた農業や漁業への支援、鉱夫の待遇改善などが良かったのかも。
「しかし気に食わないことがひとつだけ」
それは、あの魔法使いが王女の後見人になったこと。
あの王女は、私がメイドに手を出してしまった時の子。別にメイドが好きだったわけじゃない。そして女を手当たり次第食っているわけでもない。
ただ、その日はなぜかそんな気分だった。そして、そのたった一回で出来てしまった子。
子供は王子一人と決めていた。私が、後継者争いで血を見たから。
結局生まれたのは女の子なので継承権はないのが救いだったが、とはいえやってしまったと後悔した。ただ、後ろ盾のないメイドの子なのも幸いだったが。後継者争いにはならないだろう。
「だが、そんな王女の後見人にあの優秀な魔法使いが抜擢された」
それも、自ら志願したという。王子の後見人ならいざ知らず、なぜ王女なのか。
とはいえ、元々王位継承権は持たない女の子。争いは避けられるはず。
でなければわざわざ今まで突き放してきた意味がなくなる。
「…ふむ」
やらかしたのは私だが、争いの火種にならないでくれよと切に願う。