王子
僕には妹がいる。
名前は…聞かされていない。どうしてだろう、妹の名前は誰も教えてくれない。
妹は、いるはずなのに会わせてもらえない。腹違いとはいえ、血を分けた兄妹だ。心配なのだけど。
とはいえ、僕は人の心配をしている場合ではない。
身体が弱いから。
「ゲホッ、ゲホッ…」
こんな身体でも勉強は一応出来るから、将来の王として問題ない程度の知識は身につけてある。また体調のいい日は鍛えるようにして、なんとか痩せ細ることのないよう頑張った。ただ、身体の弱さはどうしても致命的だった。
「国を、妹を守らなきゃいけないのに…」
僕がそう呟いたのと同時くらいに、ドアがノックされた。
「はい」
「新しい魔法使いです。入ってもいいですか」
「どうぞ」
新しい魔法使いは、フードで隠していたが犬耳が見えた。獣人だとわかった。偏見はないが、初めて見たので少し驚く。
「獣人は初めて?」
「はい、可愛らしい犬耳ですね」
「…驚いた。あの子と同じことを言うんだね」
「え」
「いや…それより、僕は耳がいいから聞こえちゃったんだけど」
そう言って、僕の方に屈む。耳打ちされた。
「妹さん、気になる?」
「!」
「もし僕が君を助けられたら、ご褒美に後見人の地位をもらって君とも会えるようにしようか」
「いいんですか?」
「いいよ。僕も色々興味があるし、君は思ったより良さそうだ」
良さそう、とは?
「じゃあ、魔力石を作ろうか」
「え」
「魔力の暴走には一番効果的な対処法だよ」
「出来るんですか?」
「こちとら長生きしてるからね」
指パッチンされ、その瞬間身体がすっと楽になった。そして、見れば魔法使いの足元に大量の魔力石。
魔法使いはそれを魔法で宙に浮かせて綺麗に磨き、僕に全部くれた。
「あげる」
「え」
「僕が欲しいのは後見人の地位。お金も宝石も魔力石も既に持ってるから、これは君がもらっておきな」
…とんでもない魔法使いかもしれない。
「君の身体がその魔力量に耐えられるようになるまであと数年必要。その間、王女殿下の後見人として滞在しつつ魔力石を作りまくってあげるよ。作ったのは全部君にあげる」
「…ありがとうございます。でも一つ」
「なに?」
「妹を傷つけたり、利用するのはやめてくださいね」
僕がそう言えば、魔法使いはにんまり笑う。
「やっぱり君、いいね」
「え」
「任せて。後見人として、必ず幸せにする」
…まあ、それならいいけど。
そして僕は健康を手に入れて、次期国王としてさらに期待されるようになった。
魔法使いは妹の後見人になった。そして、妹の名前を教えてくれた。でも、妹には秘密にしろと念押しされてしまった。
なんだかすごくワケありな人だと悟って、妹に同情した。でも悪い人ではなさそうで、妹にも会わせてくれるらしいから感謝する。
明日、妹に会えるのが楽しみだ。