魔法使いさん
「魔法使いさん」
「なにかな?お姫様」
「魔法使いさんのお名前、どうしても教えてくれないの?」
私が問えば、魔法使いさんは曖昧に笑う。
「私のお名前も?」
「名前なんて知ってどうするんだい」
「普通は名前で呼び合うのでしょう?」
魔法使いさんが教えてくれたことだ。
「僕たちは、魔法使いさんとお姫様で十分通じるさ」
「むう」
「でも、お姫様は覚えが早いね。あっという間に言葉が出て、今ではお喋りも普通にできる」
「もう七歳だもん」
「ふふ、そうだね。でも、以前は色々酷かっただろう」
そう。魔法使いさんが来る前は、正直言って悲惨だった。
ご飯もろくに貰えず、機嫌が悪いおばさん…王妃さまらしいが、その人に毎日のように蹴られたりしてた。
でも、魔法使いさんの魔法で王妃さまは機嫌が悪いと来なくなった。
ご飯も魔法使いさんがくれる。
言葉やお行儀も、魔法使いさんは教えてくれた。
「お姫様に、そろそろこれをプレゼントするよ」
「…わんちゃん?」
「ううん。魔獣の幼体だよ」
「え」
魔獣って、危ない動物だ。
瘴気にあてられて凶暴化した動物たちがご先祖さま。
そんな魔獣は人も襲う。
「大丈夫。僕の魔法で人間に服従させてある」
「そっか」
魔法使いさんが言うならそうなんだろう。
「この魔獣はね、これからは君の魔力をご飯にするよ」
「へえ」
「段々と君に服従ではなく懐くし、聖獣寄りの存在に進化するよ」
「なんで?」
「そういうものだから」
そうなんだ。
「大事に飼う」
「うん」
「ロゼ、おいで」
わんちゃんみたいな魔獣にロゼと名付けた。
大事に飼おう。
「でもなんで?」
「しばらく忙しくなるから、番犬がわり」
「えー」
つまりはしばらく会えないのか。残念。
「一週間分の食事は用意してあるし、魔法で保存しておくから」
「会えないのが寂しい」
「僕もだよ。一週間もあれば戻れるから」
「そう」
「隠蔽の魔法もいい加減キツイからね。僕はいいけど、君が幻覚とお話していると噂になってしまったから」
魔法使いさんは、よくわからないけど私を心配しているらしい。
「大丈夫。気にしない」
「僕たちは良いけど、王様が煩くなるからダメ」
ということで、少し寂しいけどしばらくロゼとお留守番。