パパ
「お姫様」
「なに?魔法使いさん」
「なんか王様が、お姫様とこれから毎日一時間お茶の時間を持つってさ」
「え、急」
「だねぇ。おそらくは僕へのご機嫌伺いが主目的だろうけど」
魔法使いさんは私を見つめる。
「嫌じゃない?」
「平気」
「ならいいけど」
「けど魔法使いさんが嫌ならやだ」
魔法使いさんは目を瞬かせてから、いつものように笑った。
「平気だよ。お姫様の味方は欲しいしね」
「味方になる?」
「どうだろ」
まあ、魔法使いさんがそう望むなら味方になってくれたらいい。
「…」
「…お初にお目にかかります」
「ああ」
「パパと呼んでも?」
「…は?」
自分の名前を知らないので、名乗ることも出来ず。そもそも父親にわざわざ名乗る必要があるのかは知らないが。
「父親は、お父様とかお父さんとかパパって呼ぶのでしょう?」
「何故わざわざパパを選ぶ」
「ぽくないですか」
「…ああ、まあ、そうだけどな」
「ではパパで」
面倒くさいのは嫌い。回りくどいのは得意じゃない。
「…お前、七歳なんだよな?」
「はい」
「随分冷めてるな」
「誰かさんのおかげです」
放置されてこうなったのなら、そちらの責任。元の性格なら、私が悪いけど。
「…喧嘩を売っている」
「そうですね」
「私の機嫌を損ねたいのか」
「先にこちらを蔑ろにされました」
「お前本当に七歳か?」
呆れた顔をされるが、呆れたいのはこっち。
「とりあえず、紅茶」
「冷める前に飲むか」
二人で飲む。
「これ、ジャム入れた方が美味しいやつ」
「だな。アプリコットジャムでいいか」
「はい」
手ずから私のカップにジャムを放り込む王様。何故かメイドたちは顔を青くするけど、王様は気にしてない。メイドたちは、毒とか心配?
「ありがとうございます」
「ああ」
王様は自分のカップにもジャムを入れる。
二人でごくごく飲む。美味しい。異常もない…し、毒を入れられても正直私は大丈夫。加護があるから。
「言っておくが、お前に王位継承権はない」
「女の子ですし、なんの後ろ盾もないですからね。魔法使いさんはいますけど」
「それは立派な後ろ盾だ阿呆。だが、女だからというのは合ってる。絶対に王位継承権は発生しない」
「よし」
「あ?」
うんうん頷いている私に目を向ける王様に言っておく。
「私は面倒くさいの嫌いです。王様になるのとか優秀なお兄様の方が向く」
「…まあそうだな」
「欲を出すとろくなことない」
私がそう言ったら、王様は無表情で私を見つめる。
「なに?」
「欲がないな」
「魔法使いさんとずっと一緒にいること」
「ん?」
「私の欲」
そう言ったら、面食らった顔をしていた。