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3.美形を意識するなという方が無理がある!

 さて、リカルドがメリーウェザーを保護することになったとはいえ、リカルドはいつも忙しそうにして邸を留守にしていることが多かった。だからメリーウェザーはなかなかリカルドと顔を合わせることはなかった。


 しかし、リカルドはいつも気にはかけてくれているようで、留守の時も朝晩に何かしらのメッセージをメリーウェザーに言付(ことづ)けておいてくれていた。


 婚約者に殺されかけたばっかりな上にここは見知らぬ土地。だからメリーウェザーはとっても心細かったのだが、リカルドの言付けはいつもメリーウェザーに安心を与えてくれたのだった。

 リカルド殿下は優しい、とメリーウェザーは思った。


 そしてリカルドが邸に帰れるときは、たいていメリーウェザーに声をかけてくれた。

「メリーウェザー。今日は帰れたから一緒に夕食を摂ろう」


「は、はい!」

 メリーウェザーは顔を赤くする。

 自分でも変だと思う。なぜこんなにリカルド殿下の顔を見ると胸がときめくのか。


 しかしメリーウェザーは胸を落ち着かせる。

 いや、別に私だって、最近まで婚約者とかいたわけだし、男性と食事ってくらいどうってことないけどね……。

 っていうか、つい最近まで婚約者がいたじゃない。クソみたいな男だったけど、私だってそれなりに誠実に尽くしていたはずよ。それが、裏切られたからって、こんな急に別の人にときめいていいものかしら。いいえ、それはちょっと軽薄ってものだわ。落ち着け、私。

 こうしてちょっとドキドキするのは、リカルド殿下が美形だから。美形だから、美形だから!

 雌の本能みたいなものよ、きっと!!!


「どうかしたか、メリーウェザー」

 メリーウェザーが見つめていることに気付いたリカルドが不思議そうな顔をする。


「あ、いいえ」

 メリーウェザーは慌てて答える。

 リカルド殿下にときめいてしまいました、なんて言えない。


 リカルド殿下の方は食事に声をかけてはくれるけど、たぶん余計な感情は持ち合わせていないんだろうと思う。

 だって共にする食事の席では、いつもリカルド殿下はメリーウェザーのヒトの国での立場や状況を聞くばっかりだ。とても事務的に。


 メリーウェザーは自分がクーデンベルグという公爵家の令嬢であること、国王陛下に望まれて5年間くらい王太子の婚約者であったこと。王太子に恋人ができたとかで事故死に見せかけて殺されるところだったことを説明した。


 初めてそれを聞いたとき、リカルドはポカンとしていた。

 クーデンベルグ公爵の娘だと!?

「クーデンベルグ公爵とはヒト族の中でもとりわけ身分の高い家だと思うが。そこのご令嬢が殺害されそうになっていたとは。しかも殺そうとしたのは王太子殿? 真実の愛を見つけたから君が邪魔に? まったく信じられない。そんな者が王太子を務めて、ヒト族の国は大丈夫なのかね」


「すみません」

 メリーウェザーは自分事のように謝った。

 アシェッド王太子は確かにメリーウェザーの婚約者で、その婚約者がきちんとしていないのは横にいたはずの自分の責任のようにも感じられた。

「私が王太子様をちゃんと(いまし)められなかったので……」


「いや、すまない、メリーウェザーを責めているわけではないんだ。その王太子殿の素質の話をしている」

 リカルドはそっと言った。

 それから話を戻した。

「私が君と相談したいのは、今後どうやって人の国に帰るかということなんだ。帰したはいいものの、状況が変わらないまま帰しては、また殺されるだけなんじゃないかと思ってね」


「そうですね。私が生きているとばれたら、きっと今度こそ徹底的に殺されるでしょうね」

 メリーウェザーはふうっとため息をついた。


「なんだその、徹底的に殺されるっていうのは」

 リカルドは(あき)れ顔だ。


 それからリカルドは深く思案した顔で(つぶや)いた。

「君のお父上と協議をして、なんとかその王太子殿にバレないようにヒトの国で暮らすというのはできる気がするのだが。しかし、とにかくその王太子殿から隠れて暮らすのなら、邸から一歩も出ないとか、身分も何もかも偽り田舎で別の人間として生きていくとか、制約はあるだろうけどね。……もちろん、クーデンベルグ公爵ともあろう君のお父上が、娘をそんなぞんざいな扱いで済ませておくとは考えにくいけれども……」


 メリーウェザーは血相を変えて拒否した。

「父に何を話すんです? 殺されかけたこと? 真実の愛とやらで婚約を破棄されたこと? そんなのうちの父は黙っているタイプじゃないんです! かといって相手は王家、物証がない状態で誰も味方してくれません。父は反逆罪など着せられてしまうでしょう。父の破滅は望みません!」


 リカルドは宙を仰いだ。それはそうだ。クーデンベルグ公爵の破滅は自分も望まない!

 物証がいる。娘の事故死で失意の中にいるクーデンベルグ公爵に、本当のことを教えてやるには……。


 かといって、物証のない今、真実を告げずにただ「事故に遭った娘さんが生きていましたよ」とクーデンベルグ公爵にメリーウェザーを送り届けたら、クーデンベルグ公爵のことだから「娘が生きていたので別の女(マリアンヌ嬢)と結婚なんてあり得ない」とすぐさま王太子に直談判に行くこと間違いなし。メリーウェザーが生きていることがバレ、メリーウェザーはまたしても暗殺の危機に瀕することになる。

 リカルドは頭を抱えた。


 メリーウェザーは控えめにこそっと聞いた。

「父には知られずに生きていけないものでしょうか」


 リカルドはうーんと唸った。

「何か特技でもあればその技術を持って仕事をなせるので、メリーウェザーも一人で生きていくことはできるかもしれないのだが」


「技術……」

 メリーウェザーはえーっとと自分を振り返った。

 ……そして絶望する。自分には何も特技と呼べるものがなかったことに。

 あーあ、自分は本当に令嬢として生まれただけのつまらない人間だったのだわ。ただ家の名前が自分を守っていた。それがなくなった今、自分の足で生きることが難しいだなんて。


 メリーウェザーは急に心細さを感じた。

 そして衝動的に「ここにずっといられたらいいのに」と思った。リカルド殿下の優しさに少し甘えていたい。

 でも、自分はヒト族。生きる術も何も持たない弱々しい自分がいつまでも海竜族の族長に厄介になり続けるのは何だかおかしな話だ……。結婚とかすれば話は別だけど……。

 と、そこまで妄想して、メリーウェザーはハッとした。

 いや、いやいやいや。結婚とか何言っちゃってるの、私。ついこないだまで別の人と婚約してたじゃない。なんでこんな尻軽な発想になるの……!?


 メリーウェザーはきっと目を上げた。

「私、ここで何か仕事に結びつきそうな技術を学んだりできますか?」


 リカルドは驚いた顔をした。

「君はご令嬢だろう? そんな無理はしなくていいんじゃないか」


「いいえ!」

 メリーウェザーはきっぱりと言った。

「やはり女とは言え、ちゃんと仕事して生きてゆけないといけないと思うの。あまりリカルド殿下にご迷惑かけられませんし」


「迷惑だなんて思っていないよ。メリーウェザーと話をするのは楽しいしね。ただ、慣れないことはするものではないと思っただけだ。名を偽ってどこか裕福な家に嫁に入る事だってできるだろう。君のその器量なら」


「き、器量!?」

 メリーウェザーはピクッとなった。

「も、もしかして、私の見た目はアリですか!?」


 リカルドは耳まで赤くなってタジタジッとなった。

「そ、そりゃ、君は可愛い。そんな風にアリかと聞かれると困ってしまうが」


 突発的に聞いてしまって恥ずかしかったメリーウェザーだったが、『困ってしまう』との返答にずーん、とさらに落ち込んだ。

 やっぱリカルド殿下のお傍にというのはナシなんだ。

 では、ここはちゃんと自立せねば!


「リカルド殿下。私、こう見えて計算とか得意なんです。家の領地経営もけっこう手伝ってきたんですよ。だから少し、お商売上役に立つ勉強とかさせてもらえたら嬉しいんです」

 メリーウェザーは少々寂しそうな声で、でも決意ある声で言った。


「えっ? 領地経営を手伝っていた?」

 リカルドは目を丸くした。


「信じられません? ほんの少しですけどね」

 ふふっとメリーウェザーは笑った。

「でも、もっと学びますよ。どこかの名主の家とか商家さんの家に奉公に上がったりとかできそうじゃないですか」


「それはまた堅実な職を選んだねえ」

 リカルドは面白そうにメリーウェザーを眺める。


「ええ」

 メリーウェザーは力強く(うなず)いた。

 だってもう誰もアテにしちゃいられないから。


「そういうことなら、家の者に言いつけておこう。それに、どうだい? 今度の視察に私と一緒についてくるかい?」

 リカルドは楽しそうに聞いた。

 リカルドは前向きなメリーウェザーの姿勢を好ましく思っていた。


「え、いいんですか?」

 メリーウェザーはパッと顔を輝かせた。

 リカルド殿下と一緒!? やったー、美形とデート。じゃない、視察!


「いいよ」

 リカルドはメリーウェザーがあまりに勢い込んでいるので笑った。

「すごくやる気だねえ」

 なんて気持ちの前向きな令嬢なんだろう。


 が、そう思いながらリカルドは、メリーウェザーの心の内を思うと不憫(ふびん)でならなかった。

 生きる術を身に着けますと健気(けなげ)に言っているが、本当はここでの暮らしだって不安でいっぱいのはずだ。

 リカルドはこの気の毒な令嬢を何とか守ってやれないものかと切に思った。


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