にくたいげんごでかたりましょう
しばし見つめ合う二人。
フッとサリーが笑った。
セシリアもそれを受けて微笑む。
何かが通じ合っている。
初めてあったあの日。
サリーはここまで後輩とわかりあえると思っていなかった。
何ならジョージにまとわりつく羽虫くらいにしか考えていなかった。
その時には実際その位に存在の差が離れていただろう。
サリー・プライドがサリー・プライドになってからの人生は順調すぎるほどに順調だった。何せ事象を創造できるのだ。敵なんているはずもない。それでもそこに甘える事なく自分の価値は極力自分で創造してきた。
きっと能力に頼りきっていたらここには立っていなかっただろうなと思う。天狗になり敵を作りそれでもなんとか業界トップに登りきったあたりでそこから転げ落ちていたであろう。それほどまでに恐ろしい世界である。
「よかったわ」
言葉が口からこぼれた。
ちゃんとやってきてよかった、なのか。セシリアにあえてよかった、なのか。
こんな言葉。らしくないと言えばらしくない。
サリー・プライドはいつもクールで美の権化であろうとブランディングしてきた。
こんな素直な言葉を吐き出すような商品ではない。
でもそれもいいかとサリー・プライドは思った。
今日だけはサリー・プライドの言葉ではなく、自分の言葉としてあふれてきた言葉を優先したいと思える。
きっと心からこぼれた言葉なんだろう。
セシリアは先輩の言葉に触れる事はない。
なぜなら自分もそこに至る経緯は違えど、全く同じ感想が心の中に溢れていたからである。
よかった。
通じている。お互いがそう感じていた。
多分人生の中でここまで分かり合えたと感じるのは双方初めてである。
とは言っても。
決着をつけねばならないのは勝負の定め。
これはバトルなのである。
「先輩、もっと語り合いませんか?」
そう言って拳を打ち合わせる。
拳で語ろう。というわけである。
「いいわね、後輩」
わかっているわね。という風情である。
「距離は少し狭くして、場外に出たら負けとかですかね?」
「そうね。それがいいわね。範囲はこれくらいかしら?」
一瞬で舞台上に真円が敷かれた。
直径で五メートル程度、攻撃をするには不自由ないが、神の直撃を受ければ即場外くらいの広さである。
「先輩、お見事です」
「ほめても手は抜かないわよ?」
無表情でフフンと鼻を鳴らす。
サリー・プライドらしい。
「もちろんですよ!」
「さ、いくわよ」
そう言うと、ゆっくりとした左拳でセシリアの顎を狙う。
セシリアはそれを右拳でゆっくりと外へ逸らすと、同時に左拳をサリーの鼻の下めがけてこちらもゆっくりと繰り出す。サリーもまたゆっくりとした動作で顔を逸らしてかわす。
ゆったりとした演舞を繰り広げる。
神と巫女の舞踏。
ゆらりゆらりと。
ひらりひらりと。
動作は大きく、時には部位だけを細かく動かし、ある時は全身で躍動するように。
アイソレーション、ストップモーション、スローモーションをふんだんに使用し、セシリアのアイドル性とサリーのカリスマ性とを散りばめて、神性溢れる神聖なステージにしようというサリーからの無言の提案であった。
セシリアはそれを瞬時に理解し即座に呼応したのである。
それほどまでにこのバトルの中で二人のつながりは強固なものになっていた。
サリーが左を右で受ける。セシリアが右を左で受ける。
サリーが拳を腕で捌く。セシリアが足を掌で捌く。
サリーの肘をスウェーでかわし。セシリアの膝は体を開いてかわし。
手を変え品を変え、繰り返す。
そして一巡繰り返すごとにスピードが上がる。繰り返すたびに手数が増す。
そうしているうちにいつしか舞踏は武闘へと変わっていた。
攻撃を放つたび、攻撃を受けるたび。
ぶつかりあった肉体から光がはじける。
その光に観客は嘆息や感動や驚嘆で会場を盛り上げる。
女神誕生のように会場が大盛り上がりに沸いているわけではない。しかし会場の一体感はその時よりも増しているし、熱量も増している。言うなれば夢中になって見惚れてしまうあまりに声を失っている状態だ。
そしてこの光は女神と巫女の交信の残滓でもある。
拳を交わす毎に、セシリアとサリーは会話をしていた。
はじめはなんとなく感情が伝わる位だったが、スピードが上がる毎に、回線は太くなり、通信速度も上がる。なんとなく意思が理解できるようになり、それの解像度が上がり、やがて武闘がトップスピードに至った段階で言語が脳に響くようになった。
いま。
女神と人が肉体言語を用いた語り合いが始まる。
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