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ひと。めがみへいたる。

 モーモーパンチの矛をおさめ、ファン・ファンネルを解除したセシリアは未だ興奮冷めやらぬ状態でふうふうと肩で息をしているが、女神の話を聞こうと思うくらいには落ち着いたらしく、やっと口を開いた。


「……で? 事情って?」


 まだ怒っているからか、問いかける言葉は若干冷たい。


「前にセシリアの魂をこの世界に連れて来たのはワタシだってのは言ったわよね?」

「うん」


 魂の叫びに思わず異世界転生させた話である。女神は魂の叫びが好きなのである。

 きっとサリーに加護を授けた時にも魂が叫んでいたのであろう。

 その辺は一貫している女神である。


「それってすっごい難しい事でさ」

「そんな事言ってた気がする。どれくらい難しかったの?」


 ちょっと落ち着いてきたのか、普段のセシリアに戻っている。


「依代としてワタシの半身を使って何とか実現するくらいの難易度ね」

「は?」


 いま何て?

 セシリアの耳には自分の半身を使用したと聞こえた。

 そんなアホな事をする女神がいるわけない。と思ったが目の前の女神はやりそうである。


「ま、そんな感じで、女神の半身に地球から引っ張ってきた魂を入れる事でセシリア・ローズをこの世界に転生させたのよ」

「う、うん」


 聞き間違いではなかった事に若干引き気味のセシリア。

 そんな事はお構いなしに女神の話は続く。


「そこで弊害があって」

「それはそうね。身を半分削って無事とはいかないでしょう」

「そうなのよ。ワタシすっごい疲れちゃって、すっかりセシリアの事忘れちゃってたの」

「おん?」


 聞き捨てならない言葉。

 もしかして親に売られて、元事務所に入って、おかしなアイドルにされて、虐待みたいなイジメを受けて、冬の寒空に捨てられたのは、女神が全部忘れていたせい。ではなかろうか?

 セシリアの脳裏にツラかった記憶がフラッシュバックする。


「あの日、あの部屋。ワタシそっくりなアナタを見た。刹那に記憶蘇る。って感じ?」

「ほう?」


 そんな何処かから引っ張ってきて貼り合わせた歌詞みたいに言われても何も感動しない。

 むしろセシリアのイラっとを助長するのみだ。


「そこからはもうセシリアの虜よねーまいったまいった」

「まいったまいった。で済むとでも?」


 冷え冷えとしたセシリアの言葉。


「スミマセン」


 誤魔化せないと悟った女神は即座に謝る。

 実体があれば土下座して、セシリアの顔を伺うふりしてパンツを覗いているであろう。

 自分の半身のパンツを覗いて何が楽しいだろうかと思うが、セシリアのファンになっているのは事実であり、抗えない感情に女神も押し流されている被害者である。


「もう! ここに女神の実体があったらほっぺたむにむにしてるわよ!」

「それはご褒美?」


 ご褒美であろう。

 謝られた段階でセシリアは女神を許しているのである。

 セシリアの慈愛はどちらが女神かわからないほどに深い。


「って事は何? 女神と私が同じ姿な理由って。女神が私に化けてるわけじゃなくて、私と女神は元から同じ姿をしてるからって事!?」

「そうそう。ワタシの半身だから同じ姿なのよ。ちなみにセシリアに嘘がつけないのもファンだからっていうより自分自身だからよ。自分に嘘わつけないワってね?」

「おん?」

「ごめなさいちょうしのりま」


 すぐ調子に乗る女神にセシリアが釘を刺す。


「ふー。まあここまではいいわ。なんだかんだでこの世界にこれた事は感謝しているし。忘れられていた間の苦労もきっと私の糧になってる。それで? 今まで私に加護をくれなかった理由を教えてくれる?」


 やっと本題に戻り、女神の声が真剣な表情を取り戻す。


「ああ、ああ。それね。セシリアの場合、女神の加護を与えるっていうのができないのよね。なにせ私とセシリアは同じだから。女神の権能の塊が今のワタシ。受肉した肉体はセシリア。って感じで別れているの。ここまではOK?」

「うん。話の腰を折って悪いんだけど、自分に自信がついた今でも私の中で半分足りない感があるのは私と女神が半分こになっているからなの?」

「多分、そうね」

「そう……」


 セシリアは自分の手を静かに見つめた。


 ずっと自分は何かが欠けている気がしていた。どれだけ他人に褒められても、どれだけ自分に自信がついても、それでもどうしても自分は他人と比べて何かが欠けているという意識が消えなかった。

 その理由がいまはっきりとわかった。実際セシリアは半分の存在だったのだ。


「で、こっからが理由になるんだけど、権能を含めた加護をセシリアに授けるって事は、イコール。ワタシとセシリアが再び一体になる事なのよ」

「一体、って事は私は消えるの?」


 そうなったら寂しいが仕方ないか。

 借り物の体を返すだけと言ってしまえば味気ないが。そういう事であろう。

 しかし女神の言葉はその逆であった。


「違うわね。むしろワタシが消えるカタチになるのかな?」

「それはいやよ」


 断固とした声。

 それは自分が消える事よりも拒否感が強い言葉。表情。全てが拒否している。


「え」

「私は女神が好きなの! 今この話を聞いて何で私が女神にだけこんなに甘えられるのか、何でこんなに安らげるのか、納得がいったわ。私は女神を失いたくない!」

「セシリア」


 女神の声が感動で震える。


「だから消えるのはダメ! それ以外に何とかして!」

「セシリアはほんとワタシにだけはわがままね。でも大丈夫よ、安心しなさい。消えるっていっても完全にいなくなるわけじゃないから」

「ほんとう?」


 うるるとした瞳、それを羽ばたかせんばかりに長く豊穣なまつ毛。

 少し尖って自己主張する柔らかく艶めく唇。

 肌はきめ細かく顔全体から光を放たんばかりだ。


「う、かわいいわね。本当よ、ワタシは精神体になってセシリアの体に同居させてもらうわ。だからむしろずっと一緒になるわね。ぐふふ」


 その表情に女神はメロメロとなり、口の端から涎をこぼす。

 同じ顔なのに精神体の違いでここまで魅力に差が出るのはもはや神秘的とも言える。


「……え。それはちょっといや」

「ちょっと! なんでよう! さっきの感動を返しなさいよ!」

「冗談よ。女神と一緒にいられるのは嬉しいわ」

「! ……ドゥフ」

「きっも」

「だから辛辣なのよう! もういいわ! さっさと一つになりましょう! 覚悟はいい?」


 いつもの掛け合い。

 これもきっと女神が融合への緊張や不安を取り除こうとあえてやってくれているのであろうと。セシリアは好意的に考えている。実際は気遣い一割、素で気持ち悪いのが九割であるのは言わぬが花であろう。


「うん」


 勘違いしたままのセシリアは感謝と女神への愛情で小さく頷く。


「この世界がセシリアの中に吸い込まれたら、貴女は女神になるわ。そうしたらもうサリーの能力はセシリアには効かなくなる。それでも互角な位にサリー・プライドは強いわ! 頑張りなさい!」

「うん。ありがとう女神。またね」

「またね」


 仮初めの別れの言葉。


 それを契機に。


 白い世界が端から光の粒子へと変化する。


 それらがすうとセシリアの胸の辺りに吸い込まれていく。


 まるで母の元へ返る子のように。


 それをセシリアは抱き締めるように受け止める。


 その姿は聖母であり。


 吸い込まれる光が増えるごとにその神性が増していく。


 それはまさに人から女神へと変生していくかのようだった。


 セシリアはいま女神に至る。

お読みいただきありがとうございます。

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