せかいははんてんする
「ああ」
と半ば諦めの嘆息が漏れた瞬間。
世界が反転する。
真っ暗だった世界は、一気に白に染まる。
真っ白な世界。
どこか見覚えのある。
というか。見知った世界。
「神界?」
サリー・プライドの能力で全てを奪われ真っ暗になるはずが、目を見開いていたらそこは神界でした。
「正解!」
おなじみの声がする。
しかし声しかしない。
「女神?」
「正解!」
そうらしい。
なぜかやっぱり姿は見えない。
「どこにいるの?」
「どこにでもいるわ」
たまに神ぶってこういう事を言い出すモードの時がある女神。
違う。今じゃない。とセシリアは思う。
「あ、今は忙しいからそういうのいらないのよ?」
思うだけでなく、口にもだす。
「えー、まあそうか。なんて言うかね。わかりやすく言うと、この神界もどきがワタシ自身ね。セシリアを守る為にワタシ自身で包んでいるのよ。神界にいるから奪われた感覚も戻ってるって感じ」
「もしかして、緊急避難的な? もしかして私まだ負けてない!?」
首の皮一枚つながった事に喜ぶセシリア。
「んー。今は負けてないわね。でもこれを解いたら負けるわ。 神界じゃなくなったらまた動けなくなるから」
「結局負けかー」
所詮首の皮は首の皮。そこまで切れてりゃ致命傷である。
「んーどうかしらね。とりあえず今は真っ白な繭に包まれたセシリアに会場中が騒然としてるわね。あんまりあからさまなのはやりたくなかったんだけど。でもあの一瞬で神界に転移させられないからね。セシリアの中に置いてあった半身で包んでるってワケなのよ」
珍しく細かい女神の説明に自分が置かれている状況を把握したセシリア。
同時に「半身」という言葉に、正体不明だった自分のスキルを思い出す。
「あー! あの女神の半身っていうスキル!?」
「そう、それよ」
「あれかー。訳わかんなかったけどもらっといて良かった? のかな? でも結局首の皮一枚の致命傷だからなー」
「ほんっと。圧倒的にボコられたわねえ」
「うん」
素直に頷くセシリア。何もできなかったのは本人が一番よくわかっていた。
「まあ予想通りよねー」
「本当にー? もっとやれると思ってたんだけど……」
なぜかやれると思ってた。
自信のないセシリアにしてはとても珍しい根拠のない自信。
「やれるわけないじゃない。サリー・プライドは女神の加護持ちよ」
「は?」
は? という感情の代表のような顔である。
「むかしあの娘にワタシの権能の一部をあげたのよ。元々は天地創造ってスキルでこのクルーズタウンを何もない荒野に作りだす時に使ったヤツだったんだけど、街をつくった今はいらないからその一部をほんの少し貸してあげたの。そしたらサリーの「アイドルウェポン:ブランディング」ってのが0から1の価値を創りだす能力でさ。すっごく相性が良かったらしく、事象創造っていうスキルに変化しちゃってさ! びっくりよね? 自分には攻撃が届かないって事象を創造したり、相手の手が動かなくなるって事象を創造したり、もうやりたい放題スキルになってるわー」
そのやりたい放題。
全部。
ぜーんぶ、セシリアがやられた事である。
「ってことは?」
そう。
大体いつも。
「ワタシのせいってことねー」
「もう! 女神! もう!」
何もない空間だというのに女神に憤り、空をぽかぽかと叩く。
「でもわけわかんない意地はってそれらを聞かなかったのはセシリアの問題よ? ワタシは何度も聞かなくていいか確認したわよ?」
ここでも正論の刃が飛んでくる。
「ぐう」
くっころ。
「なに? ムサシの真似って流行ってんの?」
「流行ってないけど。何だか自分の未熟さを痛感させられっぱなしで……」
流行りに疎いセシリアは知らないが、実は流行っている。
今日のムサシの活躍でより一層流行るだろう。
とは言え、未熟さを痛感しているセシリアには関係のない話ではある。
「そりゃそうよう」
「自分を肯定できるようになって、それに酔ってたのかな?」
あの根拠のない自信は、今まで自信のなかった自分に芽生えたソレに酔ってしまっていたとセシリアは分析した。実際そうなのであろう。自信とは自分に酔う事でもある。自分を酔わせる事でもある。
「まーそこは仕方ないわよね。セシリアの場合は何ていうか差が激しすぎたからね」
言うなれば酒を飲んだ事のない人間が、直腸にスピリタスを注ぎ込まれた状況である。
それは酔う。
むしろこれ位の失敗で済むのが奇跡だろう。
普通なら多分死んでる。
「負けかー。あーーー悔しいいい!」
言葉とは違って、少しすっきりしたように背伸びするセシリア。
「いやセシリア。さっきも言ったけど、負けてないわよ? この神界もどきで包んでるからまだ負けてないのよ?」
それはそうではあろうが。
でも。
とセシリアの頬は膨らむ。
「感覚から何から何まで全部を奪われてるんじゃどうしようもないじゃない。事象創造とやらで私の全部が動かない事にされてるんでしょ? 女神の与えた加護によってー、私の感覚は全部奪われているのよー」
女神にだけはぶすくれて嫌味をいう事もあるセシリアである。
甘えん坊セシリアがみれるのは女神だけ!
そんな女神は声だけでわかるほどモジモジと言いにくそうにしている。
「……そこなんだけどさ」
「うん?」
「女神の加護、いる? 加護があればサリーの能力無効化できるけど」
「……」
女神の衝撃の言葉を受けたセシリア。無言、無表情、となった。
敗北を受け入れた直後の逆転の目。
無になった状態から感情を察っする事はできない。
「……っと……いらない?」
反応のないセシリアに不安になり言葉を継ぐ女神。
いらない。の言葉にセシリアはハッと意識を取り戻す。
「……正直に言っていい?」
冷静に。
「どんぞ」
沈着に。
「ほしい! むしろなんで今までくれなかったの!? もー! 女神ぃ私のファンなんでしょう!?」
荒ぶった。
ずっと無言だったのは今まで加護をくれなかった女神への怒りで意識が飛んでいたからであった。
もう! もう! と牛みたいに飛び跳ねながら女神そのものといわれた言葉を信じて何もない空間にパンチをしている。その手にはファン・ファンネルで牛の顔ができていた。
人形芝居である。
「ちょと待って待って! 事情あるから! 事情が!」
神界には必死でセシリアを宥める女神の声が響いた。
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