わたしはめをそらさない
他人の四肢を封じたとは思えない程に純真な表情で女が迫ってくる。
それはバトルの最中でなければ見惚れてしまいそうな完璧な女性。
サリー・プライド。
美の体現であろう。
しかし今はセシリアを狩る死神である。
その美しさに比例して恐怖が倍増する。無意識に動かなくなっているはずの四肢が震えるのがわかる。
怖い。
対策を怠らなければよかった。
なぜやらなかった。
後悔が心に押し寄せる。
つまりは強制的に反省させられたのである。
そしてサリー・プライドはそのセシリアの反省を敏感に嗅ぎ取った。
「あら、後輩はちゃんと反省したみたいね」
コロコロと笑う。
「いえ、後輩はまだもう少しサリー先輩の講義が聞きたいです」
反省はしたが、そうと言えばトドメを刺されてしまう。
なんとかせねばと考えた結果がこの言葉であった。セシリアは我ながらしょうもない時間稼ぎだと思う。
「いいえ。講義はここまで。サリー・プライドの時間は安くないのよ。サービスの時間はもうおしまい。今日の反省を次に活かしなさい。そうしたら後輩は素敵なアイドルになれるわ」
サリーはセシリアの稚拙な時間稼ぎに気づいている。
この言葉だっていわば講義であろう。
「いやー、ここで終わってしまったら早すぎません? サリー先輩のファンが楽しめませんよ。ほら、これを一回解いてみると言うのはどうでしょう?」
なりふり構わなくなってきた。
セシリア自身、自分がこんなにも見苦しく抗えるとは思っていなかった。
「ダメよ。ここで後輩の全てを止める。大丈夫。死にはしないわ。死んでしまったらサリー・プライドが負けてしまうから。しばらくの間、意志がある状態で全ての感覚を奪ってあげる。それでサリー・プライドの勝利になるわ。それで観客は満足よ。ねえ? そうでしょう?」
そう言って、サディスティックに微笑うサリー・プライド。
普段は見せない嗜虐的な部分が前面に押し出されている。ファンとしてこんなサリー・プライドはありなのだろうか? とセシリアが思うが。サリー・プライドからの問いかけに会場は大興奮でサリーコールが巻き起こっている。
どうやら大満足らしい。
「いや……」
言葉にならない。
セシリアの中で感情だけが溢れる。いろいろな感情が混ざる。心を掻き乱す。
心臓だけがバクバクと自己主張をしている。
でも。
それは言葉にならない。
けど。
いまじゃない。
負けるのは。いまじゃない。反省はした。でも後悔はしたくない。
負けたくない。
負けたくない。
負けたくない。
そう魂が叫ぶ。
目の前にはサリーが迫る。
ぷっくりとした口が花開く。
「さ、真っ暗な世界をしばし堪能なさい」
それは死刑宣告だった。
セシリアの魂の叫びなどお構いなしに死神はセシリアの命を奪う鎌を大ぶりに構えてそれを振り下ろす。
いやだ! 負けたくない!
絶対に! 負けたくない!
最後までこの目を閉じるものかと見開いた視界。
それがじわじわと端から黒に侵食されていく。
恐怖。
それと戦いながら負けるもんかと。
今度こそは目を逸らすものかと。
目を閉じる事だけは拒否する。
それでもじわじわと視界は奪われ続ける。
最後に顔の前に構えた左手越しにチラリと見えたのは女神にも引けを取らない美しさで悪魔のような表情を浮かべる死神であった。
それを最後にセシリアの世界は完全に暗転した。
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