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せんぱい、わたしともかけをしましょう

 会場が爆発したかのような歓声の中。


 中央に立ち。


 両手をサッと観客席に向ける。


 すると。


 嘘のように一瞬で歓声は静まった。


 そして。


 それがさも当たり前かのように、にこりと微笑む。

 同時に観客席はため息で溢れかえった。


 完全に会場をコントロールしている。


 そんなカリスマ。


 サリー・プライドがしっかりとセシリア・ローズを見つめていた。


 出会った頃は歯牙にも掛けない取るに足らない存在であった後輩を今は敵と見定めていた。

 向けられる視線からセシリアもその感情を感じている。


 それが嬉しいのか。

 セシリア・ローズはその顔に満面の笑みをたたえていた。


「良い演説だったわ。随分と口が滑らかになったわね、後輩」


 サリー・プライドが小さく口を開いた。

 それでも声はしっかりとセシリアに届いている。


「ありがとうございます。本心からの言葉だからですかね。それと多分……私は、嬉しいんだと思います」

「表情からもそれはわかるわ。サリー・プライドに勝つだなんて、生意気だとは思いながらも、実はサリー・プライドも後輩と戦える事を喜んでいるのよね」


 演技をしている時のサリー・プライドは表情豊かである。

 反して普段のサリー・プライドは一定以上の感情を表さない。


 そんなサリー・プライドがわらっていた。

 口だけでなく、目だけでなく、鼻息だけではなく。

 全てでわらっていた。


 楽しんでいる。


 ここを舞台と捉え、演技するモードに移行しているのか。

 それとも本人が言うように実際楽しいのか。


「失礼かもしれませんが、私たち似てますね」

「心外ながら、そうね」


 嫌そうな顔をしながら嬉しそうな顔をする。

 今日のサリー・プライドは表情豊かである。


「そうだ先輩。私が勝ったらひとつお願い聞いてもらっていいですか?」

「あら、奇遇ね後輩。サリーもこの間ジョージと同じような賭けをしたわ。そこまで似るのね」


 これは本当にちょっと嫌そうである。


「ああ、先輩が敵情視察に訪れた時ですかね?」


 あの時か、と。

 セシリアは思い当たる。


「……ジョージはあの日の事を正直に言ったのね。あの男の事だからそういう部分は隠すかと思っていたわ」

「隠しませんよ。ポロッとこぼしてました。あれ? ……って事はポロリしなかったら隠す気だったんですかね?」

「隠していたと思うわよ。あの男、リスクになる事は聞かれるまで言わないもの」


 ジョージ・Pは隠す気であった。

 さすがサリー・プライドはジョージ・Pの事をよく見ているのである。

 そこでふとサリーは疑問に思う。


「でもそんなとこをポロッとこぼすなんてらしくないわね」


 過去、リスクになるような事をジョージ・Pがアイドルにポロリする姿など見た事がない。

 それほどにプロデュースのアイドルウェポンは有能であり、リスクマネジメントも完璧に機能する。


「そうですか? ジョージ・Pは案外抜けてますよ?」


 しかし、セシリアの前では意外と情報をポロリしたりするので、サリーの言う意外さがセシリアの中ではピンとこない。それを率直に口にすると、サリーは不機嫌そうな顔になった。


「……ふーん。随分と気の置けない仲になっているのね」


 自分の知らないジョージ・Pを知っているという事実に不機嫌になっているのである。普段であれば現れる事のない感情に、本人も少し驚き戸惑っている。

 どうもセシリアを目の前にすると隠したがりの人間の調子は狂ってしまうらしい。


 サリーの不機嫌を察してセシリアが話題を変える。


「ところで先輩とジョージ・Pはどんな賭けをしたのですか?」

「そのままよ、サリーが勝ったらジョージがサリーの言う事をひとつ聞く。後輩が勝ったらサリーがジョージの言う事をひとつ聞く。とてもシンプルな賭け」


 ジョージ・Pにも言われたシンプルな賭け。


「あ! それです! 私ともそれをやってください!」

「いやよ、メリットがないわ」


 不機嫌が残るサリー・プライドはフンと横を向く。

 それもまた美しい。

 横顔の中でも目立つ、ツンと上向いた鼻が彫刻のように光を浴びている。


「やっぱりジョージ・Pだけ特別なんですか……?」

「そんなワケないでしょう? サリー・プライドに特別な男なんていないわ」


 セシリアの率直な感想にサリー・プライドは正面に向きなおった。


「ですよね? じゃあ是非、私とも」

「まあ良いわ。賭けの内容は? ジョージと同じでいいの?」

「はい! それでお願いします!」


 契約成立である。

 観客席からも拍手が溢れる。

 証人は観客全員。

 なんというか。ほのぼのとした前哨戦である。


「わかったわ。でも、残念ね。負ける賭けをするなんて」

「今更嘆いても遅いですよ、先輩」


 生意気なセシリアの言葉に口角だけで笑い、流し目でレフェリーを見ると右手で試合開始を促す。


 ほのぼのから一転。

 そこからサリー・プライドの空気感がピンと張った。


 それを受けてセシリアも身が引き締まる。


 レフェリーが試合開始を告げる。

お読みいただきありがとうございます。

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