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わたしからみえるせんぱいのすがたは

「会場にいる人間すべての命の恩人! 超新星アイドル! セシリア! ローーーーーーズ!」


 マイカ・エムシーの愛のあるコールを背中に受けて。


 今。セシリアは決勝の舞台に立っている。


 一年たらずの間だが。ここだけを目標にしてきた。

 それだけのために全てを積んできた。

 色々あった。

 色々な出会いがあった。


 みんなが自分を応援してくれる。


 きっと今も観客席から、画面の先から。

 応援してくれているだろう。


 その全てがセシリアの力になっているのを感じる。


 今日、会場でファンになってくれた人もいる。

 そのお陰でファンサの横に記載されている数字ももうすぐ百万人に届きそうな勢いだ。


 ルージュ・エメリーの攻撃から命を救われた事に対する感謝の声。

 素直にセシリアの美を讃える声。

 昔から応援していたなんて声も聞こえてくる。

 昔ってトワイライト時代からかしら? トワイライト時代に自分を応援してくれていたお客さんなんて相当の変わり者よね。

 なんて考えてちょっと頬が緩む。


 そんな考えが浮かぶくらいにセシリアは平常心であった。

 ジョージ・Pの言っていた通りにもう緊張はしていない。


 力は程よく入り、程よく抜けている。

 両手を見つめ、グッグと何度か握りしめる。


 視線を左右上下に動かしてみる。しっかりと全体が見えているし、何があるかも瞬時に判断できる。

 思考はクリア。


「うん。いい感じ」


 うつむいてひとりごちる。


「セシリア選手! 一言お願いします!」


 セシリアが中央で落ち着いた事を確認したマイカ・エムシーが実況席から声をかけてくる。

 同時にレフェリーがマイクを手渡してくる。

 それを受け取る。スイッチを入れると会場の歓声を拾って少しハウリングするが、音響さんが即座に調整してくれてそれもすぐにおさまった。


 セシリアは受け取ったマイクを口に近づける。


「私」


 ブレスひとつ入らない。

 麗しい第一声。


 会場中はその魅力的な声にため息をもらす。


「クルーズ・クルーズに立ちたいって夢があったんです」


 割れんばかりの拍手。

 夢に後一歩で手が届くという所にいる人間に対しての応援の声が満ちる。


「みなさんが思っている通りにその夢は後一歩で手に入ります。同時にもうひとつ目標が最近できたんです」


 目標はいい事だ。

 会場から拍手が降り注ぐ。


「その目標っていうのが、今日同時に叶うんですけど、サリー先輩を超えるって事なんですよ」


 それは難しい。

 セシリアにも観客にもわかっている。拍手から一転、お、おう。みたいな雰囲気が差し込む。


「ふふ。皆さんが思っている事は私も思ってますよ。何せ相手はサリー先輩です。あ、生意気にも先輩呼びさせてもらってるんですけど、サリー先輩がアイドル時代に所属していた事務所に私が所属してるんで実際先輩なんですよ。サリー先輩も私の事を後輩呼びしてくれてるんです」


 セシリアとサリー・プライドの思わぬつながりを知って観客は興奮した。


「知り合ってから数回しかお話しした事がないんですけど憧れの先輩でして。でも憧れているだけじゃないんです。サリー先輩の通ってきた道を、今の私はなぞっているだけなんですけど、でも今日優勝できればそれを超えられるんです。サリー先輩が五年かかった道を私は一年で成し遂げる。その上でサリー先輩も倒す。それが目標です」


 大望である。

 身の丈に合っていないと考える人間も多い。

 会場にはサリー・プライド目当てできた人間も多い。いくら命を救われたからといって容易にサリーの敵宣言をされては素直に受け入れられない人間も多いだろう。


「無茶だって思う人もいるでしょう。不遜だと思う先輩のファンの人もいるでしょう。私を嫌いになる人もいるかもしれません。でも私はそのためにアイドル人生を全てかけてきて、アイドルとして今ここに立っています!」


 実際に積み上げてきた事が言葉となり、アンチ気味になった観客をひっくり返す。


 観客の大半はセシリアの事を何も知らない。

 それでも言葉のその重みから実際の努力を感じる。それに圧倒される。


 応援したい気持ちになる。


「応援、よろしくお願いします!」


 大きく振るその手に呼応するように会場は歓声に包まれた。


———————————————————————————


 セシリアへの歓声がひとしきり落ち着いた所。


 反対の入り口からスッと人影が現れる。


 なんの予告もなく。

 なんのコールもなく。


 スッと現れた。


 それだけ。


 ただそれだけで全てを染める。


 サリー・プライド。


 一歩。

 割れんばかりの拍手と会場の外まで漏れ出る喝采がその存在を示す。


 一歩。

 観客の心を鷲掴みにして離さない。


 一歩。

 クルーズタウンの存在証明。彼女こそがクルーズタウン。


 そうやって一歩進む度に。

 その事実を、観客の態度で、画面の先の興奮で、常に証明しつづける。


「サーーーーーリーいーーーーーー! プラーーーーあーーーーーーイドーーーーーー!」


 マイカ・エムシーが喉が枯れんばかりの大声で入場を叫ぶ。


 静かにただゆっくりと。

 あるがままの姿で。

 手と足が交互に動く。

 芯はまっすぐにぶれる事はない。

 その一挙手一投足で、サリー・プライドを振りまく。


 振りまかれたサリー・プライドはどこまでも観客を魅了し、その全員が幻視する。

 足跡に咲いた花を。

 通った道に花が咲いているように見えるのだった。何人かが目をこすっているがそれは消えない。


 まさに花道である。


 中央まで進み、そこで足を止める。


 会場中の視線は一気にそこへと集まる。

 サリー・プライドが次に何をするのか? サリー・プライドが何をいうのか?

 サリー。サリー。サリー。


 シンと静まる会場。


 ただ静かなだけではない。情熱を堰き止めた静けさだ。静けさの中に熱そのものが内包されている。


 サリーが両手をスッと天に掲げる。


 その動きに観客がのけぞる。


「今夜のサリー・プライドはアイドルです。お楽しみください」


 小さくお辞儀をする。

 そこに媚びは一切ない。しかし聴衆への心からの敬意が感じられる。

 実にサリー・プライドらしい所作であった。


 爆発した。


 そうとしか表現不可能な歓声だった。

 静から動などという甘い変化ではない。下手をすれば先のバトルでルージュ・エメリーが放った千本死突にも匹敵するほどの熱量であった。これを二動作、二言で実現する恐ろしさにセシリアは身を震わせた。


 何よりも会場全てにマイクなしで声が届いているという事実。


 ただ恐ろしい。


 セシリアの目の前に立つアイドルはまごう事なく。


 化け物であった。

お読みいただきありがとうございます。

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