りあたいしちょうはおたくのあかし?
観客席では命拾いした事を喜ぶ姿がそこここで散見される。
その中の一組。
セットにされると嫌がる二名がいるので、正確には三銃士とママとサクラ。
「キッツ! キッツイでござるよ!」
喉を大仰に掻くフリをしながらござる氏が口角の泡を飛ばしている。
「息が止まるかと思いましたコポア!」
実際止まっていた証拠のような青い顔で脂汗を浮かべているこぽ氏。
「ヤヴァース!」
いつも通りに意識が宇宙に飛んでいるてん氏。
観客席で応援中の三銃士である。
「アンタらは! うるさいね! 静かに見れないのかい!」
それを怒るは我らのママである。
少しふくよかながら可愛らしさの残るクリクリした目を剥いてどら猫声で三銃士を叱りつける。実際、周りの観客が三銃士に険のある目を向けている。
「ちょ! ママ殿、試合中は我々一言も喋ってないのでござる!」
「そう言われれば確かにずっと黙ってたねえ」
会場中が息をのむような緊迫した状況で黙っていたからなんだって話ではあるが。
「でござろう? セシリア氏に見惚れるやら、ルージュ氏に恐れ慄くやら、忙しくて口を開くどころではなかったでござる!」
「本当ですこぽお」
ござる、こぽ氏両名からの抗議にしぶしぶとママは納得する。
「いやーほんっとに死ぬかと思ったよね」
そんな様子に呆れ顔だったサクラは命の危険が去った事に心底安堵していた。
「アイドルバトルって毎年こんなんなのかい?」
「そんなわけないこぽお!」
こぽ氏が興奮して否定する。頬の肉や腹の肉がぷるんぷるんと揺れた。
「もっとお色気あり、笑いありののんびりほのぼのアイドルバトルでござるよう」
「異例なのは五年前のサリー・プライド優勝大会くらいでしょうかね? あの時も異様な試合はサリー・プライド戦のみでござったし、今年とは比べ物にならないくらい平和でしたが……」
「……今年はヤヴァース」
やはり今年は異例中の異例らしい。
「アタシの記憶でもこんな殺伐とはしてなかったけど、ドルオタのアンタらがいうんだからやっぱりそうなんだねえ」
全員で命が助かった喜びを噛み締めている。
「ですが! ついに決勝なのですよ! お姉様! ああお姉様! お姉様!」
ママとござる氏の間に首がにょっきりと生えてきて大声でわめく。
「うわぁ! びっくりした!」
「おバカ! びっくりさせるんじゃないよ!」
あまりの驚きににょっきりはえたポニーテールの生首を思い切り叩くママ。
「失礼したのです!」
ご存じ、レディー・ムサシである。
試合を終えたムサシがママとサクラを見かけて顔を出してきたのであった。
「ふぁ! レディー・ムサシ選手!」
いきなりのムサシ登場に、初対面の三銃士は小さく固まりコソコソとしはじめる。
「アンタもう動けるのかい?」
「試合が終わった後は自由に動けたのですが、事務所が医者坊を連れてきて検査だなんだと言われて、気付けばお姉様の試合を最後くらいしか見れなかったのです! ムキー!」
「あームサシぃ、あれを全部見れなかったのはセシリアマニア失格じゃなぁい?」
意地悪くサクラがムサシをつつく。
「しっ! かく!」
膝から崩れ落ちるムサシ。
「これサクラ、おやめ! サリー・プライドに負けた時よりもショック受けてるじゃないか、この娘も大概バカだねえ」
「実際、負けた時よりショックなのです……」
ポロポロと涙をこぼす。
泣きまねではなく、ガチで泣いている。
「あんた! こんなとこで泣くんじゃないよ! どうせそこの三馬鹿が動画を撮ってるだろうからそれを見ればいいんだよ。撮ってるだろう!?」
「こここ、こぽお! トトトト、撮ってるますこぱあ」
突如水を向けられて焦りながらも答えるこぽ氏。
撮ってます。その返答が口から漏れた刹那。
ムサシの生首はママとござる氏の間から消えていた。
「本当なのですか!?」
次の瞬間にはこぽ氏の前に現れてその油っぽい手を握っていた。
瞬間移動もかくや。戦闘時よりもはやい動作だろう。
「ほほほほほっほん、ほんほんう」
セシリアの魅力に脳が焼かれているとは言えトップアイドルムサシ。
そんな人間に手を握られて平常でいられるようならドルオタやっていない。すでにこぽ氏の言語中枢は焼き切れている。さらに言えば後ろからござる氏とてん氏の嫉妬のグーパンを食らっており、その脂肪豊かな背中が波打っていた。
「ぜひ! ぜひ拙者に動画を見せてほしいのですよ!」
ほぼ意識のないこぽ氏の頭を後ろから操り首肯させているござる氏、てん氏、両名にママとサクラは呆れてドリンクを買うために席を外すのだった。
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